夢の中で

その晩、夢をみた。

夢だったか分からないほどリアルな夢だった。

私はなぜか花屋を営んでいた。初夏の夕暮れの長い虹色の夕日が店に差し込んでいた。私は閉店の準備をしていた。花屋の私も夫が死んで、私は疲れ切っていた。慣れた手つきで店のスライド式の扉を閉めようとしたところに、サングラスをした夫が現れた。夫は少し若返っていた。長男が生まれた直後の頃の夫だった。短髪で、ここ最近の彼のよりずっとやせていた。髭も短めで肌は艶があり、引き締まっていた。夫はその頃よく着ていたくすんだ赤いTシャツに紺の短パンを着ていた。とても元気そうだった。彼はサングラスを取ると、何も言わずに私を抱き、キスをした。温かかった。

Tシャツに残る洗剤の匂いに混じった彼の匂い。Tシャツのコットンの感触。少し汗ばんだ首の後ろ。夫の肉感。全てが夫そのものだった。大きな安堵感が私を襲う。私は彼の大きな胸の中で泣いた。

「あぁ、よかった。生き返って。」

「ごめん、どうなっていた?」

「大変だった。また行っちゃいそうで怖い。」

その瞬間、私は夢の中で夢だと気づいた。これ以上話したら彼はいなくなってしまうと怖くなり、私は何も言わずにただ彼の腕の中に埋もれた。彼の全てを吸い込みたくて、彼の匂いを一生懸命に嗅いだ。彼は私を強く抱きしめた。

目が覚めてしまった。

時計を見ると、3:43だった。

私は慌てて手帳に夢を記帳した。彼のかけらを一つ手にしたようで、記帳すれば夢は消えないような気がした。

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