灰となり、気体となり、音となる。
骨がお壺に収まると今度は何の儀式なのか、彼の遺影とお壺を抱き抱えて斎場の車寄せを一周する予定が組まれていた。何のため?誰のため?
もう、何でもよかった。
外へ出ると見事な五月晴れが広がっていた。白黒の世界から一瞬だけ、色のある世界が垣間見えた。空にはキャンバスに軽くシュッと絵筆を当てたような雲が漂っていた。夫の目尻の笑い皺にそっくりだった。夫は焼かれて気体となった。ということは、私を包むこの空気は夫なのだろうか?
車に乗り込み、車よせをゆっくりと半周した。
そして斎場の2階の部屋で、O住職からの戒名の授与式があった。O住職から白木牌を受け取った。
O住職が夫の死後すぐに来て、家族全員から夫について聞き取りをして得た夫像を元につけてくれた戒名。
明照院耕雲瑞雄居士
とO住職が読み上げた。綺麗な響きだった。
夫は音になったのだ。
「皆様からのお話で、彼のお人柄に魅了され、本当に会ってみたかったと心から思いました。明るく楽しく、様々な人の道を照らして来た方のように思いましたので、明照院とつけさせていただきました。そして、一生において多くを耕し、その実りを残る方々に恵みとして残してくれました。
雲は山に出会った時、形を変えながら山の逆側に到達します。お話を聞いていると、彼は難しい状況の中でも衝突をするのではなく、雲のように変形自在に姿を変えて困難を乗り越えられる力があったように思います。形は変わりますが、同じ雲ですよね。そのように、彼は形を変えましたが人間として生活していた時と同じ大きな気持ちで皆様と共にいます。」
彼のエッセンスをぎゅっと凝縮したような戒名で、私は嬉しかった。
こうして、夫は灰となり、気体となり、音となった。
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