見出し画像

【文楽鳩】曾根崎心中(初代国立劇場さよなら特別公演 8・9月文楽公演)

令和5年8・9月文楽公演
2023年8月31日(木)~9月24日(日)
第一部:通し狂言 菅原伝授手習鑑
第二部:寿式三番叟・通し狂言 菅原伝授手習鑑
第三部:曾根崎心中




あらすじ

ざっくりとしたあらすじ
大阪北新地天満屋の遊女・お初と、醤油問屋の手代・徳兵衛が心中する物語。
徳兵衛は友人・九平次に金を騙し取られた上、人前で恥をかかされる。
自らに汚点がないことを誰も信じてくれないため、もうこうなっては死んで身の潔白を晴そう、ということで、恋人のお初と曾根崎の森で心中する。
きちんとしたあらすじはこちら


国立劇場が休場するというのでいろいろ見ていたら「曾根崎心中」がかかるという。ともかく心中する、ということしか知らないわけですが(いつもの)興味をそそられたので見てきました。


感想

心中といえば、川で入水が相場と決まっていると(勝手に)思っていたのですが、曾根崎心中は森で刺殺なんですね。そこがちょっと意外だった。

無実の罪を晴らすために、死して汚辱を濯ぐという筋なわけですが、やっぱりこの辺りは、時代感のチューニングをしないとあまりよく飲み込めないところ。
しかしながらその筋のなかで、心中の覚悟を問い実際に心中するまでの道行をやって見せられれば、ぐっとくるのは必定です。

私は物書きとして思うのですが、縁の下に匿われた徳兵衛が、お初の足首を首筋に当てて、心中の心意気を伝えるあの場面。あれ。あれのために物語を立ち上げていませんか? 死を問う場面であるのに、情景があまりに艶っぽく、美しい。物書きとして、あれを鳩はとても小説として描きたい。あのシーンのためだけに物語を書き起こしても良いように思えます。

そうして最後の道行ですが、今から死ににいくというのに、剃刀で下帯を割いているお初が手を切った?ような仕草を、徳兵衛が心配する(ような仕草をする)ところが印象的でした。今から二人で死ぬというのに、たかだか指先を切った怪我一つを心配する。互いに確かに思い合っているからこそ、心中するという結末を迎える説得力がそこにある。

文楽は初めて見ましたので、お人形がどうだとか、色々思うところはあったのですが(後述します)、そもそものお話が大変良く、素晴らしかったです。歌舞伎でも曾根崎心中はあるはずなので、とても見てみたい。
お人形が演じるのと、役者さんが演じるのがどういう見え方の違いを起こすのか、目撃したいと思いました。


文楽という表現について

  • 今までずっとどこか文楽のお人形に違和感を持っていたんですけど、見ていてわかったかも。文楽のお人形、等身がかなり高くないですか? お顔が小さい。だけど、そのために、立ち姿などがとても様になる。

  • お人形の目が眠った……!!! 見間違いかと思った……すごい……どうなっているんだろうあれは。びっくりした。

  • お人形の後見さん、足音を効果的に使うのが面白かった。足音の係の人がいるっぽい。お人形は足音を立てられないから、代わりに音を表現する人が必要なんですね。

  • 舞台の装置が、お人形を遣う人に合わせて床が下げてある? のが、面白い工夫だと思った。そのため、足音の係の人も気配はあるが見えないようになっている。

  • 女のお人形について、歌舞伎もそうだけれども、女の動きというのは記号化されているんだろうか。ほんとうに動かし方ひとつでそれっぽく見える。あと男と女で手の作りが違う?

  • 手に物を持つという動作、お人形は持てないので、代わりに後見さんが持つわけですが、それがきちんとお人形が持っているように見えるのが技術だなあ。

  • 一瞬で衣装が変わったりすることもできて、やっぱり表現として完成されているな〜と思った。

  • 義太夫の床? すごい勢いで回る……。一幕すべて一人でやり通し、声を出し通しているのがすごい。

  • 義太夫の人の見台?は自前なんだろうか。蒔絵のものすごいのを使っている人や、シンプルな漆のものを使っている人がいて、実に様々。

  • 三味線の人、お座布団の重ね方が多い人がいたけど、あれはオーケストラでいう第一バイオリン的な人ですか?

  • 主役でない周りのお役たちも、いろいろとやっているのが面白い。天満屋の段で、周りの遊女が帯のたれのところで遊んでいるのが可愛らしかった。

  • 字幕表示があって大変ありがたいのだけれども、字幕も読まなきゃいけないし、イヤホンガイドも聴いているし、前述の通り脇で可愛いことをやっているし、義太夫の人たちも見たい。目と脳のキャパシティが足りない。

  • 定式幕の開き方が歌舞伎と逆な気がするんだけど気のせい? 上手から下手に開いたような……? 歌舞伎は下手から上手に開くよね……?

  • 言葉がきちんと関西のイントネーションになっているのが良いなあと思う。


どちらかというとやっぱり生身の人間が演じているのを見るのがより好きなのですが、このお人形の表現というのも、何回も見たいと思えるような面白さがありました。
以前シネマ歌舞伎で見ていた日高川入相花王ひだかがわいりあいざくらとかも本物が見たい。
国立文楽劇場とかも行ってみたいですね。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?