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一組を語る(第4回)

学生指揮者3年目にして、ホルストの名曲「軍楽隊のための第一組曲」の指揮を担当する機会をいただいた。その際に調べたことや、合奏を通して思ったこと、独自の解釈などを、ここにアーカイブとして残しておく。

今回は、第三楽章「マーチ」について言及する。

全体外観

速度の指示はTempo di Marcia。
マーチのテンポは時代や国ごとに異なるが、この場合は、現在の日本で演奏される場合よりもずっと遅いのではないかと思う。イモージェン・ホルストが指揮する一組のマーチはかなり遅い。120BPM程度。

冒頭は金管楽器と打楽器のみで演奏される。英国式ブラスバンドを思わせる。

マーチ第一主題(4小節目から)は、主要動機の反行型と、主要音程(2度、4度、5度)のうちの2度と4度の音程に基づいて生成されている。或いは、冒頭3小節間の前奏から生成されていると考えることもできる。コルネットから3音の動機(E♭,D,G)が徐々に低音に受け継がれ、最後はバスドラム(図5では省略)にたどり着く。3音の動機は、シャコンヌ第2部の反行主題の最初の3音(Es, D, G)と同じ音でもある。これらが強烈に提示された後に、似たような音型でマーチ第一主題が始まる。

また、この冒頭3小節間で強烈に提示された反行動機は、この後マーチ全体で重要な役割を担う。演奏の際は、冒頭の反行動機は強く印象付けたい。

マーチ冒頭

マーチ第三主題の冒頭三音は主要動機そのものであり、そのあとの音も共通する部分が多く、シャコンヌ主題から生成されていることがわかる。また、第二主題から生成されたと考えられる音型が一部あり(詳しくはこちら)、再現部で第一・第二・第三主題がすべて登場する際には、それらがうまく組み合わさっている(後述)。

シャコンヌ主題とマーチ第三主題の比較 (伊藤校訂版スコアより)

再現部ではピッコロやフルート・スネアドラムを増やしてもよいという指示がある。(ただしピッコロフルートに関する指示は後から抹消されている)fの数は増していき、最後にはffffと、4つにも及び、手稿譜では少し大きめに書かれている。エキサイティングなエンディングを想定していたのだろうか。

全体の構成と各部の詳説は以下の通り。

【前奏】

最初~4小節目

反行動機が強烈に示される。バスドラムの使い方が秀逸。

【主部】

4~12小節目

主調のEs-Dur。反行動機によってマーチ第一主題が生成される。

13~28小節目

マーチ第二主題。軽快に進む第一主題とは相対的な、落ち着いた感じがある。15,16小節目の下行型の音型は、ホルンやトロンボーンに受け継がれ、発展する。

29~A

マーチ第一主題が再び登場。(IMSLPで手に入る48年版は、ダブルバーの部分に練習番号Aが抜けている)

【トリオ】

A~B

主調の下属調であるAs-Durに転調。クラリネットとホルンにより、第三主題が提示される。con larghezza は「幅広く、寛大に」などの意味であり、ホルンのふくよかな響きが重要である。

一組には管弦楽版の編曲が存在するが、パッとしないアレンジが多い。そんな中で唯一様になっているのがこのマーチのトリオである。ホルストは弦楽器の響きを吹奏楽で再現しようとしたのかもしれない。

B~C9小節前

1stクラリネットが1オクターヴ高くなり、オーボエも入ることによって、色彩感が変わる。

【経過部】

C8小節前~C

木管楽器が主体となってマーチ第一主題が反復される。トライアングルの音が印象的である。フェネル氏はこの部分を「村の小バンド」と表現した。

C~C12小節目

トランペット、コルネットによってマーチ第二主題が反復される。半音ずつ音が高められ、緊張感が増していく。中低音の金管楽器によって主要動機が繰り返し演奏される。

C13小節目~D

Es-Durに転調。レンジはfとなり、緊迫感が増す。マーチのイントロのような音型が繰り返され、反行動機が多数登場する。やはりバスドラムの使い方が秀逸である。

練習番号Cから123小節目(再現部が始まる部分)に至るまでの転調法や動機の展開方法が素晴らしく、フレデリック・フェネルはこれを「ホルスト自身の素晴らしい思いつきを、もっと後に取っておきたいばかりに、2000円ほど出して延長パイプのようなものを買ってきた感じ」と形容したとされている。

【再現部】

D~Piu mosso

バリトンサックス、2ndコルネット、トロンボーン、ユーフォニアムによる、マーチ第三主題の主旋律に、ピッコロ、フルート、クラリネットによるマーチ第一主題、第二主題の対旋律を伴う。

これまで同時に登場することのなかった主要動機と反行動機が、初めて同時に演奏される。下行型の掛け合いに注目。

第二主題と第三主題の掛け合い

ホルストの手稿譜では、1stコルネットは第三主題(2ndコルネットと同じく)を演奏することになっているが、後から木管の対旋律が加えられている。実際に演奏した際にバランスが悪く、修正を加えたのだろうと考えられる。演奏にあたっては、バランスをよく聴いてどちらを演奏するか判断するのが良い。

【コーダ】

Piu mosso~最後

強弱記号はffffとなり、主要動機と反行動機の両方が現れ、壮大なエンディングを迎える。

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