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一組を語る(第3回)

学生指揮者3年目にして、ホルストの名曲「軍楽隊のための第一組曲」の指揮を担当する機会をいただいた。その際に調べたことや、合奏を通して思ったこと、独自の解釈などを、ここにアーカイブとして残しておく。

今回は、第二楽章「インテルメッツォ」について言及する。

全体外観

ホルストの手稿譜の表紙に「各楽章は、同一のフレーズで構成されているため、この組曲は休みなしに通して演奏されることを望む」とある。

「同一のフレーズ」とはどういうことか。それは登場する主題をシャコンヌ主題と並べてみると分かる。

シャコンヌ主題とインテルメッツォ第一、第二主題の比較 (伊藤校訂版スコアより)

上から順にシャコンヌ主題、冒頭に登場する主題(以降「インテルメッツォ第一主題」)、それの後に登場する主題(以降「インテルメッツォ第二主題」)を示す。これを見ると、インテルメッツォ主題がどちらもシャコンヌ主題と似ていて、明らかに二つともシャコンヌ主題から導出されていることがわかる。特に最初の部分の音はシャコンヌ主題の主要動機と共通している。一方で調性は変ホ長調、ハ短調、ドリア調と変化している。このように、様々に調を変えながら一つの主題を変化させて受け継いでいる点は、この曲の特に優れている点といえる。なお、Fドリアも♭3つなので、平行調と言えなくもない。この曲には、他にも多くの教会旋法が登場する。

また、2楽章は途中で拍子が変化することにより、重みのある拍の位置が変化していることに加え、旋律のキャラクターも大きく変化している。インテルメッツォ第一主題は、2拍子でスタッカートの効いた軽やかな旋律であるのに対し、インテルメッツォ第二主題は、4拍子でlegato的な旋律である。キャラクターが変化する様、しかしその中でも動機が受け継がれる様を存分に味わって演奏したい。

コラム~強拍は”強く”演奏するのか~
「4拍子の1拍目と3拍目には見えないアクセントがある」のような言説が広まっているらしいが、おそらく強拍はアクセントではない。

個人的にはアクセントというよりテヌートっぽい気がしている。

 ホルストの手稿譜には抹消した箇所が多くみられ、楽器編成を「薄く」しようとした跡が見られる。実際、インテルメッツォは全体的に楽器編成が薄く、強奏部もほとんどなく、軽妙な音楽となっている。この「薄さ」によって吹奏楽器の魅力を引き出している点でも、この曲は優れていると言える。演奏にあたっても、この軽妙さを存分に引き出せるような、コンパクトな表現を心掛けたい。

 全体の構成と各部の詳説は以下の通り。

【主部】

2/4拍子、c-Moll(一組の主調であるEs-Durの平行調)

最初~A

インテルメッツォ第一主題が提示される。3小節目の1拍目表にあるEsクラリネットの音は、メロディのF音とぶつからないように一音下げられている。ホルストは、このような和声に対して慎重な書き方をよく行う。

インテルメッツォ第一主題と8分音符による刻み

他にも、2楽章10小節目の2拍目の裏のEsクラリネットの音が下がっているのは、メロディとの和音による連続5度(古典的な和声法では禁則)を避けるためだと考えられる。
4,5小節目のリズム型は3楽章で頻出する。この部分から派生したとも考えられる。


2楽章4,5小節目


2楽章第二主題

3小節目裏の8分音符は、手稿譜の管楽器の楽譜にはスタッカートがつけられていないが、ピアノ楽譜には付いたり付かなかったりと、一定しない。テンポが速く細かい音符の場合、管楽器はスタッカートで演奏するのが一般的であるため、わざわざ書く必要はないと判断したのかもしれない。一方、実際にアクセントが書き込まれている音符とそうでない音符は吹き分ける必要がある。

A~B

間奏。
クラリネットを主体とする旋律は3度ずつ高められる。
クレッシェンドや木管の連符によってBに向かう流れができる。2楽章唯一の強奏部。

B~C

インテルメッツォ第一主題が再び登場する。
B17小節目からは、この主題が現れる部分としては最も多い数の楽器が重ねられているが、強弱記号は依然としてpである。

【中間部】

4/4拍子、Fドリア調

C~D

クラリネットソロによって、インテルメッツォ第二主題が提示される。拍子が2拍子から4拍子に変わっているほか、c-MollからFドリア調(どちらも♭3つの調)に転調しており、第一主題と比べ、大きく性格が変わる。

D~D16小節目

インテルメッツォ第二主題が反復される。
コルネットとバリトンによる丸い響きで演奏される。

【再現部】

2/4拍子、f-MollまたはFドリア調で始まり、C-mollへ。

D16小節目~E8小節目

推移的部分(f-Moll or Fドリア)
バリトンのソロは初版の楽譜の間違いによりGだという勘違いが広まっているが、ホルストの手稿譜ではFである。

E9小節目~F

インテルメッツォ第一主題(C-Moll)
調整はc-Mollとなり、インテルメッツォ第一主題が登場する。
とても短い。

【コーダ】

C-Dur(この楽章の主調であるc-Mollの同主調)

インテルメッツォで現れた主題(第一主題、Aからのベースの動き、A3小節目からの旋律、第二主題)がすべて現れる。F16小節目に現れるB♭は、下属調を匂わせ終始感を醸し出す。一度登場した主題が形を変えながら発展し、絡み合っていく様は、この楽章の醍醐味である。

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