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公と私の境界線

一見「迷惑な客だな」と思うようなお客様に親身になって対応したら、実はそのお客様が超重要人物で、主人公の人生が良い方向にガラッと変わっていく…。
物語によくある展開。

サービス業のお手本なのかもしれないけれど、現実では本当にただのクレーマーだったり、鬱憤を晴らすために文句をつけたいだけだったりすることも多いと思う。本当に困っている人を見極めて手を差し伸べるのは難しい。

そして、例え本当に困っていたとしても、会社とか組織に属している立場で踏み込んでいいものなのか、迷うことも多いと思う。
プライベートの友人として頼まれたことならいくらでもできるけど、立場が変わるとできないというか。
「私」の自分はOKだけど、「公」の自分はNGというか。

これは、先日目撃した、正解がわからない話。

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昼休みに郵便局に行った。
混み始める12時よりも少し前。
ATMは一機。窓口も4つ程度しかない、町の小さな郵便局だ。
私の用事があるATMは少し並んでいたけれど、窓口はまだガラガラだった。

窓口に70歳くらいのご婦人がやってきた。
聞き耳を立てていたつもりは無いのだけれど、大きな声は、人が少なく狭い店内ではよく通る。
ご婦人の話を要約すると、多分こんな感じ。

『10年以上前に郵便局でもらったポスト型の貯金箱を使っている。お金が貯まったので預けたい。』

ここまでだと、「小銭をそのまま預けられるか?ATM?窓口?手数料はかかる?」みたいな質問かなと思うのだけれど、そのまま聞いているとどうやら違うらしい。

『開けたいのだけれど、取り出し口が見当たらない』

あぁ、壊さないと取り出せないタイプかな?郵便局の方も「取り出し口があるタイプと、割らないと取り出せないタイプがあると思います。」みたいな対応をしている。

『そうなんだと思う。でも、気に入っているので壊したくない。』

…おっと。

え?これどうするんだろう?職員さんどう対応するんだろう?
正直、この辺りから聞き耳立ててました。すみません。

ちなみにこのご婦人はどちらかと言うと可愛らしいタイプの方で、クレーム風ではなく、「どうしたらいいのかしら。困っているのだけれど。」みたいな雰囲気だ。そして、貯金箱の実物は持ってきていない。

人が少なかった店内も、徐々に人が増えてきて、窓口も混み出しそうな雰囲気である。

『諦めて壊すとしても…壊すのも何だか怖いわ。』

まぁ、漫画の中だと叩きつけてガシャーンとやっているけれど、このご婦人がそれをやって、割れた貯金箱の破片を避けて硬貨を拾っているのは想像できない。

当初担当していた職員さんは困り顔。他の職員さんも参加し出して、「紙を使って1枚ずつ取り出す方法」なんかを提案してみたようだけれど、まぁ現実的じゃ無いよな、と皆がわかっている様子。

…この辺りでATMの順番が来て、まぁ、ご婦人も諦めて帰られるんだろうな…。というところまででこの話はお終い。

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あのご婦人には、どういった対応が正解だったのかなぁ。とぼんやり考える。

ご婦人の希望を全て叶えるのであれば、
本当にその方法で全て取り出せるかは別として、厚紙か何かで1枚1枚取り出す方法がベストだろう。
ただ、ご婦人自身がそれをするのは現実的では無い。

そうすると、「家族にやり方調べてもらってやってもらう」と言うのが良さそうだけれど、ご家族がいる方だとは限らない。頼める人が周りにいない可能性もある。

じゃあやっぱり貯金箱は諦めて、壊して硬貨を取り出すと言うことになるのだけれど、ご婦人の「壊すのは怖い」というハードルがある。

これ、一昔前だったら、「持ってきてもらえれば、こちらで壊すの手伝いますよ」何だろうけど。
今は言えない。言えないよねー。

その行為にかかる時間とか、費用とかは問題ではなくて、
「他人の持ち物を破壊する」なんてできないよなぁ。
委任状とかあればできるんだろうけど。
(法律に詳しく無いので、イメージで書いてます。)

そのくらいしてくれないの?マニュアル仕事ね!人と人との関わりってそう言うものではないでしょ!?
と言う人もいるかもしれないけれど、できないですよねぇ…。

「勝手に壊された!思い出のあるものだったのに!非売品だからもう手に入らない!どうしてくれるんだ!」
とか
「もっとたくさん入っていたはずだ!硬貨を盗まれたに違いない!」
とか言い出す可能性だってある。
人の良さそうなのは振りだけで悪意がある人なのかもかもしれないし、
年齢的に「自分が頼んだ」という記憶が曖昧になってしまう可能性だってある。

もし、これが近所のよく知っている方で、プライベートで相談されたら「貯金箱壊すぐらいやってあげるよ」となるんだろうけれど、初対面の人&「職員と客」と言う立場になってしまうとまず無理。

確実に同意を取る方法と…壊す時はカメラのある場所で…とか考え始めてしまうし、今後同様のお願いが出てきた場合に不公平が出ないかどうか…とか考えてしまうとまず無理だ。

…ここまで書いていて、世知辛い世の中だな。と自分でも思った。
(あと、たぶん私、仕事上でコンプライアンスがどうのとか危機管理がどうのとか言われ過ぎていて疲れてるんだと思う。きっと。)

まぁ、でも確かに「プライベートのただの湊(私です)」なら答えられるけど、「〇〇社の湊」だと答えられないことってたくさんある。
この人とプライベートで出会えていたらいろいろ話せるんだろうなーとかよく思う。

何を書いているのかとりとめなくなってしまったけれど、難しい世の中を皆生きてるんだな、と言う話でした。

あのご婦人、どうしてるかしら?と少しの罪悪感と共に。

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