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医療ソーシャルワーカーの経験が小説に与えた影響

僕は医療ソーシャルワーカーの職に就き、成人向け小説を執筆しています
一見すると相反するこの二つの側面ですが、僕の強みでもあります

今回は官能小説というカテゴリーで医療ソーシャルワーカーとしての10年以上になる経験を活かしつつ、
人間関係の複雑さや社会の課題を描くという挑戦について書きたいと思います

はじめに

医療ソーシャルワーカーの仕事を描くことの意義

医療ソーシャルワーカーは一般的にあまり知られていない職業ですが、患者やその家族の人生に深く関わり、時に人生の岐路に立ち会うこともある仕事です
この職業を小説の中で描くことで、新たな世界を提示できたのではないかと思います

人間関係の複雑さを描写する

医療ソーシャルワーカーとして様々な人生に触れた経験は、キャラクターの心理描写の注力につながりました
官能描写においても、単なる肉体的な快楽だけでなく、そこに至るまでの心の機微や葛藤を丁寧に描こうとしたのは、この経験があってこそだと感じています

現実と虚構の融合

新大阪駅という具体的な舞台設定は、リアリティを感じていただくことにつながったのではないでしょうか
そこに医療ソーシャルワーカーという職業要素を加えることで、フィクションでありながら現実味のある物語を紡げるよう努めました
※医療機関の場所についてはフィクションを心がけました

多様な読者層へのアプローチ

医療や福祉に関心のある方々、人間ドラマを好む方々など、予想以上に幅広い層の方々に読んでいただき、大変光栄に思います
官能小説という枠を超えて、人間の生き様の描写に注力したことを、控えめながら自負しております

ソーシャルワーカーとしての矜持

主人公のソーシャルワーカーの葛藤や成長を描くことは、専門職としての矜持を表現する機会となりました
同時に、この職業に就く者の思いを知っていただくきっかけになったのではないかと思います

倫理綱領に基づいた根拠ある業務

医療ソーシャルワーカーの仕事は、単なる感覚や経験則だけではなく、明確な倫理綱領に基づいています
作中では、主人公が患者への対応を考える際に、ソーシャルワーカーの倫理綱領を参照するシーンがあります

「赧くぬめる涎り蕊」について

※上記は第一章のみとなります
※完全版は2024年9月8日の文学フリマ大阪12にて販売いたします(Kindle販売の予定は今のところございません)

僕の小説「赧くぬめる涎り蕊」は、医療ソーシャルワーカーである主人公・悠太の仕事と恋愛を描いた物語です
新大阪駅周辺を舞台に、悠太が患者やその家族との関わり、そして恋愛対象との関係性の中で成長していく姿を描いています

悠太の父親はアルコール依存症によって人格変容が見られ、後半では外傷性脳卒中にて意識不明となり、主人公の「家族としての呪縛」ともいえる状況から「ソーシャルワーカーとしての自分」と「患者の家族としての自分」の対比を描写しました

医療ソーシャルワーカーの仕事を描くことで得た気づき

拙著では、医療ソーシャルワーカーの日常業務を詳細に描写しました
例えば悠太が患者の転院先を探す場面や、家族との面談シーンなどは、実際の業務に基づいています
これらの描写を通じて、医療ソーシャルワーカーの仕事が単なる事務作業ではなく、患者と家族の最善の利益を追求する職業であることを描きました

倫理綱領の重要性

作中で倫理綱領を参照する場面を描くことで、医療ソーシャルワーカーの仕事が明確な倫理的基盤に基づいていることを示しました

特に他院の中堅ソーシャルワーカーが悠太に倫理綱領を示す場面では、「すべての人が人間としての尊厳を有し、価値ある存在であり、平等である」という理念を強調しています
これにより、医療ソーシャルワーカーの専門性と責任の重さを表現し、僕も日々の業務における倫理の重要性を再認識する機会となりました。

患者との向き合い方を見つめ直す

主人公が患者や家族と向き合う場面は、医療ソーシャルワーカーの仕事の核心部分を描く重要な要素でした
神経難病児の家族との対話シーンや、アルコール依存症患者との対話シーンでは、患者や家族の感情に寄り添いながら最適な支援を模索する姿を描きました
医療ソーシャルワーカーの仕事が高度なコミュニケーション能力と感情管理を必要とする専門職であることを描きながら、僕自身の患者との接し方を振り返る良いきっかけとなりました

専門職としての姿勢

脳卒中患者の転院先を再考するシーンでは、悠太の「できるだけのことをしよう」という内なる声を通じて、医療ソーシャルワーカーとしての矜持を表現しました

また主治医や看護師長との交渉場面では、患者の利益のために粘り強く行動する姿勢を描きました。これらの描写を通じて、医療ソーシャルワーカーが常に患者の最善の利益のために思考し、行動する専門職であることを描くことに努めました

職業の限界と向き合う

アルコール依存症患者との対話シーンでは、悠太が否定的な感情を抱きながらも専門家として冷静に対応しようとする姿を描きました
また転院先を探す場面では、悠太が自身の経験や知識の限界に直面する様子を描いています

これらの描写を通じて、医療ソーシャルワーカーが直面する現実的な課題や困難を表現しました。これらの限界に直面しながらも、より良い支援を模索し続ける姿勢も描くよう努めました

自己内省の大切さ

悠太が自身の行動や判断を振り返り、「これでよかったのだろうか」と内省する場面を多く描きました
特に重症脳卒中患者の転院先を再考する場面や、アルコール依存症患者との対話後に自身の対応を振り返る場面は、医療ソーシャルワーカーの成長プロセスを描くよう努めました
これらの描写を通じて、この職業が常に自己改善を目指す姿勢が必要であることを描きました

患者家族の視点を学ぶ

悠太が自身の父親の入院をきっかけに患者家族の立場に立たされる場面は、医療ソーシャルワーカーの視点と患者家族の視点の両方を描きました
この経験が、後の神経難病児の母親との対話などで、より深い共感と理解を示すきっかけとなっています
これらの描写を通じて、医療ソーシャルワーカーが患者や家族の立場に立って考えることの重要性を表現しました

人間関係の複雑さへの理解

官能描写を含む人間関係を描くことで、人々の感情や欲求の複雑さについて深く掘り下げました

悠太が恋い慕う恭平との関係に悩む場面では、単なる肉体的な欲求だけでなく、愛されたい、認められたいという深い心理的欲求を描いています
これらの描写を通じて、人間関係の複雑さや、個人の内面に潜む矛盾した感情を表現しました

現実と創作の関係

新大阪駅周辺という具体的な舞台設定と、医療ソーシャルワーカーという専門性の高い職業の要素を組み合わせることで、フィクションでありながら現実味のある物語を紡ぐよう努めました

倫理的ジレンマへの直面

最終章での、恭平の父親への対応場面は特に苦慮しました
悠太は倫理綱領に基づいたアプローチを試みますが、結果的に患者を「誘導」してしまったのではないかという反省に至ります

この場面は、医療ソーシャルワーカーが直面する倫理的ジレンマを、そして患者の自己決定権を尊重しつつ最善の医療を受けられるよう支援することの難しさを表現しました。僕自身も日々の業務で直面する倫理的判断の難しさを改めて認識する機会となりました

結び

「赧くぬめる涎り蕊」の執筆を通じて、医療ソーシャルワーカーとしての経験が創作活動にもたらす影響の大きさを実感しました。この小説が、医療ソーシャルワーカーという職業への理解を深め、人間の複雑さや社会の課題について考えるきっかけを提供できれば幸いです

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