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官能小説における心理・身体描写の緻密な言語化について

小説「赧くぬめる涎り蕊」に限らず、僕の小説では、官能描写における心理と身体の緻密な言語化に特に注力しました

もともと電子カルテにおいてもS(主観)、O(客観)、A(アセスメント)、P(プラン)のうち「O(客観)」の文量が多い僕の文章傾向が反映されたものと言ってもよいと思います

(くどいってことですね)

はじめに

読み手の没入感の向上

緻密な心理描写と身体描写をすることで、より深く作品世界に没入してほしいと期待しました。登場人物の内面の動きや身体感覚を詳細に描くことで、読み手が主人公と共に脳内で擬似体験できたら最高だなと思いながら……、言語化の難しさに直面しました

感情機微の表現

性体験は快感だけでなく、複雑な感情を伴います。喜びや悲しみ、恐れ、罪悪感といった様々な感情の機微を、緻密に描きたいとずっと思っていました
悠太が父親や西宮康馬との性行為中に感じる罪悪感と快感の葛藤、恭平への思いと現実の行動のギャップなど、複雑な心理状態を描写することで、より人間的で共感できるストーリーをつくり出せないかと思ったからです

官能表現の幅を広げる

露骨な描写とともに婉曲的な表現をすることで、より深い官能性を表現するよう努めました
例えば「雁太の亀頭」「ずるりと前立腺まで擦り上げる」といった表現や、「くぱりと」といった比喩表現を用いることで、より艶やかな描写ができないかと模索しました

社会的・文化的文脈の織り込み

これは難しかったし、成功したとも思えていないのですが……、心理描写を通じて、登場人物の背景や社会的立場、文化的規範との葛藤などを表現したいと思いました。社会福祉は社会学に包括される学問であると思っていることが基盤となっています

悠太の医療ソーシャルワーカーとしての立場と性的欲求の葛藤、西宮家の権力構造と性的支配の関係性など、登場人物の社会的背景を性描写と絡めて描きました。どうか単なる性的興奮だけでなく、その瞬間まで生きてきた者たちに寄り添えないだろうかという試みでした

「赧くぬめる涎り蕊」について

※上記は第一章のみとなります
※完全版は2024年9月8日の文学フリマ大阪12にて販売いたします(Kindle販売の予定は今のところございません)

僕の小説「赧くぬめる涎り蕊」は、医療ソーシャルワーカーである主人公・悠太の仕事と恋愛を描いた物語です
新大阪駅周辺を舞台に、悠太が患者やその家族との関わり、そして恋愛対象との関係性の中で成長していく姿を描いています

悠太の父親はアルコール依存症によって人格変容が見られ、後半では外傷性脳卒中にて意識不明となり、主人公の「家族としての呪縛」ともいえる状況から「ソーシャルワーカーとしての自分」と「患者の家族としての自分」の対比を描写しました

心理描写の重要性

「赧くぬめる涎り蕊」では、登場人物の内面の動きを詳細に描くことを心がけました。例えば、主人公の悠太が父親に犯される場面では「(あぁ......っ、は、挿ってくる......、お父さんのが......っ)」という内なる叫びを通じて、快感と罪悪感が交錯する複雑な心理を表現しました

また西宮康馬との性行為の場面では「(これを......受け入れてしまえば......)」という悠太の葛藤と諦めを。恭平との関係でも「(もう会っちゃいけない、もう......)」という悠太の心の叫びを通じて、愛情と諦めの狭間で揺れる心情を描きました

肉体的な快感描写に終始するのではなく、登場人物の感情の機微や葛藤を伝えられるよう心がけました。特に、性行為の最中に過去の記憶や将来への不安が去来する様子を描くことで、より立体的な人物像を構築できるよう努めました

ただ、物語としての整合性、構成は悩みましたし、ご都合主義な展開になっちゃったかなと思います

身体感覚の言語化

官能シーンでは身体の反応を、具体的な感覚として描写することを心がけました。「雁太の亀頭が媚粘膜を圧し拡げ、ずるりと前立腺まで擦り上げる」という描写は、読み手に鮮明な身体感覚を伝えられるよう心がけました(この表現が好きというのもあります)

また「襞を嬲りながら侵入した幹は、ビキビキと堅さを誇示しながら膣肉を刺激する」という表現は、性器の質感や動きを伝えたくて、何度もその場面を想像しました

「ぐびっと下卑た音を立てて、淫汁が噴き出すのがわかった」といった描写は、こんな音かな……と聴覚的な要素も加え、より生々しい身体感覚を描こうとしました。読み手が登場人物の感覚を疑似体験できたらいいなと思いましたし、自分がそんな小説を読みたいと思ったのです。特に性行為の進行に伴う身体変化を細かく描写することで、性的興奮の高まりを追体験できるよう心がけました

感情と身体反応の連動

立体的な官能表現ができたらいいなと思いながら書いていました。心理描写と身体描写を連動させるというか……例えば「雌蕊がとくんと跳ねた」という表現は、恭平の名前を聞いた悠太の心理的反応と身体的反応を同時に表現しました。また「男性体にないはずの子宮が降りてくるような錯覚」という描写は、極限の快感と心理的な従属感を表現したかった表れです

さらに「(恭平さんのためなのに、気持ちよくて......、俺、もう、もう......!)」という内面の叫びは、罪悪感と快感が同時に襲う描写が多めだと思います。これは特にネガティブな感情が、むしろ性的興奮を高めるのではないかという主観が、人間の性の複雑さを描ききる期待につながった結果です(僕の性壁ですね)

五感の活用

官能描写において、視覚や触覚だけでなく、聴覚、嗅覚、味覚も含めた五感すべてを活用することを心がけました。例えば「恥垢の臭いがした」という描写は嗅覚を、「灼けるように熱く塩見のあるそれを、こそぎ取って舐めしゃぶる」と味覚と触覚を描きました。特に臭いについては僕自身の興奮ポイントなので、自然と緻密に描こうとしました

また「ぐぽぐぽと媚肉を擦り上げる肉棹の熱に爛れ泣き」という表現は聴覚と触覚を、「一馬の甘い吐息と、甘めな香水の匂いを感じる」という描写は聴覚と嗅覚を組み合わせました

比喩表現の活用

直接的な官能表現だけでなく、比喩や隠喩を用いることで、よりイメージしやすくできないかと思いました。「雌の昂ぶりがもっともっとと指を咥えて奥へ誘う」という表現は、性器を擬人化することで、より生々しさを目指しました(この表現、僕は好きで他の作品にも頻出しています)

タブーへの挑戦

本作では近親相姦や複数の男性との性行為など、社会的タブーを描写しています。実父との性行為、また西宮康馬と一馬という親子との性行為を通じて、禁忌とされる背徳感を詳細に描きたいと思いました
現実世界ではあり得ない(うーん、医療機関ではたまに聞きます)こと、その背徳感を茶化さず、真剣に向き合って描きたいと思いました

緊張と弛緩のリズム

官能シーンでは、緊張と弛緩のリズムを意識的に作り出すことを心がけました。例えば激しい性行為の後に「そっと頭を撫でられ、次の瞬間には舌先で右乳首を舐められる」といった穏やかな描写を挿入するなどです

また、「尿と汗と精嚢液の混じった雄獣の臭いを嗅ぐだけで、全身が性悦に隷従した。雄々しく勃起した父親の肉棹が脈動するたびに、むわっと広がる淫臭。猥らな欲望の象徴が、目の前にあった」という悠太の葛藤を描写するなど、肉体的な描写と心理的な描写を交互に配置しました

これは感覚的にしていることなので、構造化しているものではなく、成功しているのかどうかは検証できていません

個性的な性癖の描写

登場人物それぞれの個性的な性癖や好みを丁寧に描くことで、立体感が出せるように心がけました。例えば、悠太の被虐性を「雌の悦びに落ちてしまうのを迎合するべきだと言い聞かせる」という描写で表現し、西宮康馬の支配欲を「私のものにしてしまいたい」というセリフで描きました

また、康馬の独占欲を恭平へ「おまえと弟の使用済みまんこから、俺の子種を垂れ流してやがるぞ」となじる言葉で表現しました。これらの性癖を単なる性的嗜好にとどまらず、人格の一部として描写することで、より複雑な描写に繋がるのではないかと思いました。特に、各キャラクターの性癖と過去の経験や心理的背景を結びつけることで、性癖の形成過程の表現を試みました

社会的文脈との関連

官能描写を単に個人的な行為として描くのではなく、社会的な文脈の中に位置づけることを心がけました。例えば、悠太の医療ソーシャルワーカーとしての立場と性的欲求の葛藤を「ソーシャルワーカーである自分が思っていいことではない」という内面の声で描きました

また西宮家の権力構造と性的支配の関係を「格上の雄のさらに上位の存在に肉自慰具として扱われ」という描写で示しました

言葉選びのこだわり

官能描写では言葉の選択にこだわりました。例えば性器を描写する際、「雁太の亀頭」「稚棹」といった表現を用いることで、文学性と官能性のバランスを取ることを心がけました

また「ぐぽぐぽと」「ちゅくちゅく」といった擬音語を使用し、より生々しい描写を実現しています。さらに、「蜜鳴り」「淫ら口」といった造語を用いることで、独自の官能的世界観を構築したいと思いました(おそらく先達の方々がすでにご使用なさっているとは思いながら……)

これらの言葉選びを通じて、官能描写に新鮮さと深みを与えることができたらと考えてました。日本語の持つ繊細さや曖昧さ、直接的な表現では伝えきれない微妙な感覚や心理状態を描くことができたらいいなあといつも思いながら書きましたね

結び

「赧くぬめる涎り蕊」における官能描写の緻密な言語化への取り組みは、作品に深みと独自性をもたらしたいという僕のこだわりがつまったものです

心理と身体の両面から緻密に描写することで、単なる肉体的快楽の描写を超えた、複雑な人間を描けたらいいなあと思って「入稿」ボタンを押しました。あとは読み手の方々に委ねようと思いつつ、

やはり「悠太、がんばったね」と……、作者としては声をかけてやりたくなりました

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