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遥かかなたのバニラ・ティー(1)

「普通って、なんだろう」
 さあ、と僕は首をひねった。
「なんだよ、つまらないなあ」
 僕はフォークの刺さったケーキから目を上げて、叶多のことを見た。叶多はつまらないな、とぼやいたけれど、頬杖をついて僕のことを見ている。その視線は楽しそうだし、口惜しそうだった。
 スズメの寿命は一年だと、僕は最近知った。そのせいで、通学中にスズメを見ると、かわいいな、と思いつつも、その行く末を案ずるようになってしまった。
 僕は叶多のことを同じように見ているかもしれない。
「俺たち、周りにはどう見えてるんだろう」
 そう言って叶多は頬杖をついたまま、《シオン》の中を見回す。僕も見回してみる。店内には、女性店員と、二組の男女のカップル、女子三人のグループと、パソコンに何か打ち込む会社員。誰も僕らを意に介さず、それぞれ自分のことに夢中だった。
「ただの友達同士にしか見えてないだろ」
「だよね」
 叶多は僕を上目遣いで見ながら、紅茶をひとくち飲んだ。コップをおくと、叶多は僕に聞こえないようにため息をついた。
 たしかに、僕らはただの友達にしか見えないだろう。むしろ、そう見えた方がいい。そう思った。


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