【見習い日記⑳】 同窓会めんどくさすぎて横転!!の話 (後編)
いつものメンバーによるいつもの飲み会だと思っていた。
そんなこんなであっという間に当日を迎えた。
その日は中々仕事が終わらなかった。ロッカー室に戻り、今日も段取りが悪かったなぁとさっき貰ったカントリーマアムを頬張りながら自戒した。足元にポロポロこぼれてしまったが拾うのはすごく面倒だったので足で壁際に払い除けた。
そこにはカントリーマアム片で出来た 季節外れの小さなオリオン座 が輝いていた。
結局、実家に車を置いてタクシーで向かうという当初の予定を断念しそのまま車で会場に向かった。その方が早いことは明白だった。
久しぶりに走る地元の市街地は相変わらず混雑していた。信号が多い大通りを横道に入り地元民しか知らない秘密の抜け道を進んだ。そして次の角を曲がればそのパーキングの目の前に到着………できない。
ん??一方通行になったの?ここが?いつから?
すごく面倒である。
数十メートル先に見えるパーキングに辿り着けない。先程までビンビン出していた オレはジモッティだぜ!感 が妙に恥ずかしい。
「む、向こうにもあるし!なんなら向こうの方が停めやすいし!ヘヘン!」そう強がって先程の大通りになんとか戻り、2本先の細い路地に入って ようやく無事にパーキング……………が無い。
は??マンションになったの?ここが?いつから?
すごく面倒である。
市街地の再開発が進んでいるというのは理解していたがここまでとは思っていなかった。再開発のビッグウェーブに取り残されたボクはまるで浦島太郎である。そしてこのキラキラしたオシャンティな路地はなんだ。LEDでドレスアップした街路樹は昔ながらのラーメン屋をさも名店であるかのように彩っていた。
急な車線減少や左折専用レーン等のトラップに引っかかりながらなんとか辿り着いたものの、かなりの時間をロスしてしまった。離れた場所に停めざるを得なかったのも要因の一つであった。
店に着くとすでに乾杯は済んでいた。
「おおぉぉーー!!見習い(ボク)が到着ぅーー!!」「遅せーよ!!」
「よし!もう1回乾杯しなおそう!!」
「すいませーん!生ビールひとつ!!」
これはヤバい。すでにこの空間のテンションが面倒である。まず自分の席と周囲の状況を確認したい。
いったん落ち着いて見回してみると、なんとも懐かしい面々である。スト2でブランカを使っていたコダマ、駄菓子屋でブタメンばかり食べていたハタノ、飼っていたウサギがいつも脱走していたノリコ。クラスは違えど見覚えのある面々であった。
そして何と言っても今回の主役マエノ先生である。見ただけでフラッシュバックした。廊下で野球をしていたボク達に鉄拳制裁をもってご指導いただいたあの日々を。
自分の居場所がうんぬんという話は杞憂に過ぎなかったのだ。
そんな中、
「もしかして見習い(ボク)?久しぶり!」
斜め前に座っていた男が声をかけてきた。
「お、おお!久しぶり!」
本当は分からなかったが面倒くさいのでその場でテキトーに話を合わせてしまった。
「卒業以来?1回飲みに行ったっけ?あー!〇〇でバイトしてたよね?」
矢継ぎ早すぎて面倒である。
まずは名前を確認したいが今さら聞けない。すでにかなりの会話のラリーが進んでおり、お互いの近況報告を終えてしまっているからだ。向こうは確実にボクを認識している。自称 内科医の彼は胃の内視鏡検査をやたらと勧めてくる。ボクの友達には医者になれるほど優秀なヤツはいないはずなのだが。
その時である。
「おーい!オヤマー!」
遠くからコージが声をかけた。さすがコージである。タイミング的にはかなり遅かったものの欲している情報を引き出してくれた。先日の電話で お前が9組のはずがない などとボロカス言った事を後悔した。やはり心の友である。心友である。
コージはこちらの席へやって来て、ボクが狙っていたもちまるチーズだんごを頬張った。やはり心友撤回だ。
ボクの目の前で2本目の春巻を食べているこの男は「オヤマ」というらしい。
しかしここからが面倒くささの本番である。
名前を聞いてもピンと来ないこのオヤマという男と思い出話をしなければならないのだ。クラスも部活も違う このオヤマと どの程度の関わりがあったのかまるで分からない。
もう限界である。
この場をコージに任せ、トイレという名目でしれーっとカウンターに1人移動した。ボクは別料金の梅茶漬けを食べながらその日の自分を省察した。こういう時間は大切にしなければならない。ほどよい梅の酸味と海苔の香りが全てを洗い流してくれた。
「おお!いいね!お茶漬け!」
オヤマである。振り向かずとも分かる。オヤマは隣に座るや否や ここがまるで屋台の1杯飲み屋かのようなムーブでカウンター越しに鮭茶漬けを注文した。
すごく面倒である。
コージはいったい何をしているのだ。サッカー部時代からマンマークディフェンスが甘かった。あの頃から何も成長していないではないか。
「連絡先交換しようぜ!また飲みに行きたいし!」
断る理由は見当たらなかった。こうしてボクは限りなく他人に近いオヤマとLINEの交換をせざるを得なくなったのである。
2日後……
仕事の休憩中にオヤマからLINEが来ていることに気付いた。
「お茶漬けの追加料金を払い忘れたすまん」という内容だった。
「今度返すからな」
「次はいつ帰ってくる?」
「じゃあ今度はオレが出すよ」
お金の事はどうでも良い。ただただオヤマのLINEのレスポンスの速さが面倒であった。
ボクの足元では カントリーマアム片のオリオン座ペテルギウスを 蟻たちが運び出そうとしていた。
おわり
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