見出し画像

『ニャンコの目』(創作大賞感想)

今回応援する作品は、私が尊敬するクリエイター・いちい茉莉花まつりかさんの『ニャンコの目』シリーズです。
「創作大賞2024」の「オールカテゴリ部門」にエントリーされています。



突然で恐縮ですが、人生は引き算であり、創作は足し算だと思うんです。

本当はこうありたかった、こうしたかった……自分の人生に対する「遺憾の思い」というのは、多かれ少なかれ誰にでもあるのではないでしょうか。

例えば、私は小学生の頃は宇宙飛行士になりたいと思っていました。その後は、バレーボール選手に憧れましたし、マンガ家になりたいと思ったこともあれば、バンドをやりたいと思ったこともありました。

でも、結局一つも実現しませんでした。

ああ、これはダメだ、私には向いていない、あれはどうだろう……はあ、やっぱりこれも無理……

そうやって、人生から一つひとつ可能性を消去していくこと。これが現実なんだと諦めていくこと――

だから、「人生は引き算」なのです。

ただ、「物語」を読むことと書くことだけは、ひとりでできますし、お金もあまりかからないし……ということで、子供の頃から今まで、私の中に残っている殆ど唯一の「楽しみ」と言っていいものです。

私が「物語」を書く時、そこには私の人生の中で消去されてきた「願望」やそれに対する「遺憾の思い」が、形を変えて現れているような気がします。

だから、「創作は足し算」なのです。

――と、ずっと思ってきました。

櫟茉莉花さんを知るまでは。

茉莉花さんが雄渾でスリリングな長編小説や、新鮮なアイデアやユーモアが輝く綺羅星のような短編小説を続々と公開されていることは、既にたくさんの「茉莉花さんファン」がいらっしゃるので、私が「茉莉花さんの小説ってすごいんですよ!」と声を大にして叫んだところで、

「今更何を言ってるんだ、こいつ?」と冷ややかな視線を浴びるだけでしょう。

「じゃあ、茉莉花さんが【54字の物語】の名手だってことはご存知?」

と食い下がっても、きっと皆さんの視線の温度はますます下がるばかり――

「あのね、茉莉花さんはご自分で1000篇をゆうに超える【54字の物語】を書かれただけじゃないのよ。【54字の宴】の主催者としても有名な方なんですからね!」

そ、そうなのです!!

茉莉花さんのすごいところは、その類い稀な創作力だけではありません。企画力、実務能力を兼ね備えているのであり、平たく言えば、「仕事のできる人」なのです。

しかも、驚かないでください――茉莉花さんの趣味の世界は非常に多彩です。中学生の時はバレーボール部で、その後はバンド活動をされていました。現在はピアノの調律師として活躍される傍ら、趣味で作詞・作曲をされるし、更にお料理もお菓子作りもお上手で――と言えば、インドア派なのかと思いきや、さにあらず、私の中ではルパン三世しか乗れないことになっている高級イタリア車・アルファロメオを駆って颯爽とスーパーに食材を買いに行かれ、また休日にはボーイスカウトやガールスカウトの少年少女たちを引き連れ引率し、山野や海辺を闊歩しておられます。

それだけではありません。茉莉花さんは文系の感受性と理系の頭脳を合わせ持った方なので、山や海から様々な戦利品(?)を持ち帰られては、息子さんと一緒に科学実験のようなことをされたりもするのです。

人生の「遺憾」を想像力で「物語」に変えることで、自分を慰めてきた私のような人間から見れば、茉莉花さんは、私がしたくてもできなかったこと――諦めの溜息と共に人生から消去してきたことを、代わりにやってくれる人なのです。

私が茉莉花さんに対し尊敬の念だけでなく、憧れの気持ちを持っているのはそのためです。

ここまででも、もう十分すぎるほどすごい方ですが、茉莉花さんにはまだ他にも才能があるのです。

――それは、「絵画」です。

『ニャンコの目』は、茉莉花さんがご自分の人生の中で関わってきた猫ちゃんたち(一部ワンちゃん)を、鋭い観察力と限りない慈しみをもって描いたシリーズ作品で、(1)~(16)、更に【番外編】として『ワンコの目』があります。

茉莉花さんは「絵は独学」と謙虚におっしゃっていますが、それらが玄人はだしの出来栄えであることは、作品をご覧になった方は皆、首肯されることと思います。

このシリーズのユニークさは、茉莉花さんご自身が説明しておられるように、「自作の鉛筆画に、目だけホンモノの写真を合成してみた」という点にあります。

それぞれの「絵画」には「詩」も添えられているのですが、その「詩」が――猫ちゃんたちに対する細やかな愛情と深い洞察力が伝わってくる、本当に素敵な言葉の世界なのです。(あと、これはここだけの話なのですが、茉莉花さんはイタリア語が堪能なだけでなく、どうやらドリトル先生のように犬語、猫語、鳥語も操れるらしいという噂もあります)

この「目だけホンモノ」の鉛筆画と詩の絶妙な組み合わせという、他では決して見られない稀有な作品の感想は、これから鑑賞する皆さんの「目」と「心」に委ねたいと思います。

ただ、一言――

この作品を「目」と「心」で味わった後、私は思わず「茉莉花さんの家の猫になりたい!」と思ってしまったことを記して、この拙い応援文の締めくくりとさせていただきたいと思います。

この記事が参加している募集