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ねえねえ、生理ちゃんの腕はどうしてそんなに太いの?

それはね、女の腹をぶん殴って、来ない人に痛みを「見せる」ためだよ。
いわゆる擬人化ブームに乗っかって「なんと生理まで擬人化!」的な話題作りじゃないんだよ。

僕の愛読しているコミックビーム連載、小山健「生理ちゃん」が映画化です。
生理の可視化という、とっぴな設定で男女のすれ違いや仕事論を描く。
リゾート地に旅行に来たカップルに「性欲くん」がやってきて、つまらないいざこざを起こしたり、弱さを見せない立ち仕事の女性に「生理ちゃん」が迫る。
外から見れば、機嫌が悪くなっただけの人だけど、「そいつ」が見えることで、じつは今まで話し合いが足りなかったことや、自分が無理していたことがわかる。
生理ちゃんは外から来たモンスターみたいに描かれてるけど、自分自身でもある。

世間の無理解に物申す回もあるけど、オムニバス形式なので、たまにSFとか、江戸時代とか、B級アクション映画とか、がらっと変えた設定のときが面白い。
アクション映画のヒロインや、コンテストに出るアイドルは生理ちゃんが来ない人だ。

映画で戦闘の合い間に食事するシーンはあるけど、生理ちゃんはない。
だけど、それぞれのジャンルの主人公を「生理あり」で描き直している。
「ヒーローが現実にいたら?」
「魔法が現実にあったら?」

ジャンル映画をリアルな視点で語り直す作品があるけど、
「サバイバル映画に生理ちゃんがいたら?」
「強気な女社長のドラマに生理ちゃんがいたら?」

と、いないことにされてきたヤツを見せて語り直す。笑顔で生理用品のCMに出ているタレントが、自分のことを
「女の子は透明なブルーの血を流す」とあきらめたように言うシーンは、ちょっとドキッとする。

いろんな世界、いろんなジャンルを語り直すことで、ぼく含む男性読者は、こんなやつ来てたの? じゃあ、今までは無かったことにされてきたの?と思う。そして、
「じゃあ今いっしょにいるあの人も?」
と、現実にフィードバックすることで完結する。

作者の小山健は、「お父さんクエスト」「ありがとう、さち子」というコミックエッセイも出しているが、どれも愛の話。家族愛をオープンにしている。愛してることを照れない。愛してると口に出すことを照れない。
「ぼくは、妻と子供をすっごく愛してて、毎日泣いちゃうぐらい超愛して尊敬してるんだよ!きみも彼女とか家族とか愛してるでしょ?もっと愛するために面白くて勉強にもなる漫画描いたよ!ほら生理ちゃん!」
こんな感じ。
生理ちゃんも、妻のサポートがあって描けた感じがするので、一連の作品がつながっていて。。。なんというか、軽いタッチをよそおって実は芯がある人。そんなふうに見える。

男性の生理現象は、悩んだり犯罪に走ったりギャグにしたり、さんざん描かれたけど、女性の生理現象を手に取りやすい棚に置いて、男性の視界に入れた、意識させたことだけでも、今は、快挙だ。
そのうち、「男でもこれくらい知ってて当たり前じゃん、何でこの漫画評価されたの?」と言われるかもしれない。

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読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。