生き埋めの人に見返りを求める自由はあっても、危険でも戦う選択肢はない「絶体絶命都市4Plus」
サザンは「TSUNAMI」を歌うことすら自粛していたのに、津波の中をこのボートで脱出できちゃう展開。これを、被災した日本のゲーム会社が作ったという狂気。映画にもアニメにも現実にも近づけようとしていない。「絶体絶命都市4Plus」はあくまでもゲームだった。
主人公は、はじめて来た街のバス内で地震に遭遇する。「バスで来たとしたら家族も近くに?」「この世界では過去に震災はあったの?」とか考えない。ゲームだから。
倒れたビルの中を突っ切って行き当たりばったりに進む。横になった洗面台とか、初めて見る重機のそばを進んでいく。PSVRがあれば、さすがに高解像度ではないけどPS2の世界に入ったような震災体験ができる。
でも、体力やお金をやりくりしたり、アイテムで謎解きするゲームっぽい面白さはない。体力はほとんど満タンか、つぶされて一発死だから、体力ゲージの存在にほとんど意味がない。ドアを開けるカギ以外のアイテムはほぼ無意味な着せ替えばかり。時間がたつと空腹になったり、トイレに行きたくなってモジモジするけど、気にしなくてもいい。震災のストレスが「公園のセーブポイントで一休み」で解消する。
シリーズのトレードマークは、会話のたびに出る選択肢。昔のRPGで、姫様を助けに行くように頼まれて「はい いいえ」で一旦断れたり、セーブデータを消そうとしたら「ほんとに?」って何度も確認されたり、ちょっとした選択肢の遊びを入れたゲームはあったけど、それがやけに多い。
この選択肢の多さがシリーズの伝統で、ファンも楽しみにしているんだけど、生き埋めになった人が助けを求めてるのに面倒くさがったり、見返りを求めることもできて、批判の対象になっている。
ただ、インタビューによると、プロデューサーはウケ狙いではなく、豊富な選択肢をいたってマジメに作っているらしい。そう思ってプレイしてほしい。
絶体絶命都市は「4」の発売直前に、震災の影響で一度は発売中止になった。前作までとの違いは、新ハードになって映像がきれいになったとかじゃない。日本人の地震に対する見方が変わった。
地震と娯楽を結び付けることに、映画も小説も気を使っている。なのにこのゲームは、地震で身動きできず困ってる人を見て「めんどくさいなあ」と思う人もいるだろうって、その人のための選択肢を作った。
作る側も被災者なのに、
「被災地でふざける自由」を尊重してまじめに声と動きを作る。
この、作り手の感性がずれてる感じ。
まじめに作ってこれ!?
震災を題材に…これ!?
配慮が必要な場面で、これ!? って狂気。怒る人もいるだろうけど、やっぱり貴重なシリーズだ。珍味だ。他にない味わいだ。
で、ここからは、受け入れづらい部分を書くよ。
中盤で一升瓶持ったヨッパライに襲われるのに、一升瓶を奪って殴り倒す選択肢とかはない。暴力があること、死があることはいいんだよ。
生き埋めになってる人に見返りを求める自由(選択肢)はあるのに、危険でも戦う自由はないの!? って話ですよ。一度は抗わせろよ。ヨッパライが一升瓶持ってるって表現もどうかと思うし、こいつら元からヤバイやつであって、善良な市民が地震のせいで犯罪に走った感が薄いのも物足りない。
もう1人、激しいヘイトを集めているのが「偽コンビニ店員クマザワ」。こいつは顔がイヤな他にも、法外な値段で水を売ったり、火事場ドロボウにも精を出す。やってること以上にムカッと来る奴なんだけど、冷静に考えれば主人公も同じように水を高値で売ったり、金庫を探れるチャンスがある。プレイヤーに「お前のやってることはこいつと同じだ!!」って思わせるための存在かもしれない。プレイヤーの内面を映す鏡、それがクマザワ。
そして、終盤の投げやりとしか思えない展開で、珍味を好むぼくでも、さすがにこのゲームについて考えたり金を使ったことが馬鹿らしくなった。正直に言うと、震災をゲームして発売したことだけでちょっと心を動かされたんだよ。ばんばん人は死ぬけど、被災した人が「地震をポジティブな内容にできねえよ!」って思って作ったんなら、それはそれで価値がある。ボートで海に漕ぎ出すのも、震災以前の「地震感」で作ってた部分なのかな、とか思って応援してた。ちょっとでも暴力的なものを、不謹慎って怒られるのを怖がって世に出さないよりは、ずっと正常だと思った。だけど、終盤に作りかけみたいな無人の街が出てきて一気に冷めた。うすうす感付いてたけどやっぱり完成してなくない?
海外では「11-11」という戦争のゲームで、戦災遺児に寄付できるものもあったので、これも購入金額の一部を災害復興に使って、
「終盤の展開に口がポカーンとならないよう、事前にアゴを鍛えてからプレイしてください」ってちゃんと表示してれば良かったんだけど、パッケージからトンデモ感が見えないのが問題だ。
クリアしたのは2018年のクリスマスだが、次々と会話やアイテムが追加されている。
先日は「サンタの衣装配信がクリスマスに間に合いませんでした」
「レオタードを着たときの股間の形状に不具合があったので修正しました」
と、日々アップデートを繰り返している。このゲーム自体が先の見えない復興活動のようだ。
読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。