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第12回「amazing北九州」

 J3から昇格したばかりのチームが連勝記録を伸ばしたことでも、その内容がシンプルで激しく、観ている地元のファンを魅了していることでもありません。スタンド最前列からタッチラインまでが8mしかなく、フェンスも65cmしかないため、臨場感溢れるスタジアムは、いまのところ15,000人収容と小ぶりで、そのサイズ感がamazingです。
 スタジアムが新幹線の小倉駅から徒歩10分程度と、歩いてマチの代表を応援に行かれる、その街自体のサイズ感なのかもしれません。実に心地よく感じるのです。

 試合観戦のあとは、疲労困憊です。それほど堪能できるFootballをこの世に生誕させてくれた神様には感謝なのですが、贔屓のチームが負けた夜は、憂さを晴らす気力も体力も残っていません。
 この日もおよそ徒歩圏で全てを満たしてくれそうな小倉ナイトを味わうこともなく、東京にもありそうなカレーハウスにふらっと立ち寄り、値段もさほど東京とかわらないメニュー越しに、スマホで失点シーンを振り返っていました。チーズナンをハーフにして注文し、帰りの便を確認します。羽田、北九州間は、一日に往復一便ずつしかないので、福岡空港を選びました。

 翌朝、初めて訪れたこの街を少し歩いてみようと思い、身支度をします。日付が変わる前に寝落ちしていた昨晩は、店主が勧めるコップ一杯のインドビールが効きました。
 22階に差し込んでくる、まだまだ終わりではない夏の朝日が、僕を急かせたのでしょう。暑くなる前に歩くべく、7時前にチェックアウトしました。門司のレトロな街並か、世界遺産にもなっている官営八幡製鉄所か…空港の位置を配慮して、世界遺産を訪れることに。近隣のどなたもその存在を知らず、案内板も不親切で、やっと辿り着いてもフェンス越しに500m以上手前から眺めなければならない雄姿。

 思わず、微笑みました。その不愛想さが、やたらと㏚するこの類の施設やその他のすべてと比較して、好感をもてるのです。飾らない何気なさは、スタジアムで感じた心地よいサイズ感と似ています。無理をしないというか、身の丈に合うとは、また違う感覚です。
 拡大など必要ないのでしょう。スケールメリットが支配する時代ではないのでしょう。適切なサイズという概念が大切だと気づかされます。日清日露戦争を経て、拡大基調の環境下、我が国の重工業化の時代を文字通り官営として支えてきた遺産が、静かに時代の変化を語りかけてくれているかのようでした。「amazing北九州」、次回はカレーでない何かを。

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