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【読書日記】三島屋変調百物語六之続 黒武御神火御殿

長いな、タイトル。
宮部みゆきさんの三島屋シリーズ第六弾。

宮部さんは、もう、どれを読んでも外れがない。私的に。
ストーリー展開とかキャラとかもう全部安心して読んでいける。

この三島屋シリーズは、前作まではおちかという女の子が聞き手だった。
三島屋という袋物(小物関係)を取り扱うお店の姪っ子が、自分の地元で起こった悲しい出来事をひきずって過ごしていることを気に病んだおじさんが、「じゃあ、ちょいと世間の変わったお話を聞いてみようかね」と持ち掛け、一度に一人だけ招いて、話をし、そしてそこで語られたことはどこにも漏らさない。そこだけで「語って語り捨て、聞いて聞き捨て…」と話を終わらせる。
前作でおちかは嫁に行き、変わって三島屋の次男坊、富次郎が聞き手を務めることとなった今作。

話の中身とは関係ないのだが…

宮部さんの作品には、江戸時代を舞台にしたお話がいくつかあり、
江戸時代というのは戦国の世から離れて、一般的には泰平の世であり、だからこそ創作の物語が生まれやすいんだろうなあ、と察せられる。
宮部さんに限らず、「時代劇」も江戸時代が多い。
伝記ものは戦国時代や、他の時代もあれど、
オリジナルで物語を創作するとなると、圧倒的江戸時代が多い。
世の中が泰平だからこそ、文化が華やかに花開いた時代で、
この三島屋さんという袋物屋さんを舞台に江戸の文化を垣間見えることも魅力の一つだ。

卯の花が先、着物を綿入れから袷に替え、お釈迦様の降誕を祝う四月八日の灌仏会を迎えるころになると、江戸市中を行き交う物売りの声が変わってくる。商い物が夏の支度のあれこれになるからだ。蚊帳売り、朝顔や夕顔の苗売りに、金魚売り。月中を過ぎれば団扇売りも現れる。
袋物屋の商いが生きがいで、遊びといえば四十路を過ぎて覚えた囲碁ぐらいしかない三島屋の主人伊兵衛だが、この季節のホトトギスの初音を「いいところ」で聴くことにだけは熱を入れる。毎年、古女房のお民を誘っては、浅草駒形堂へ行ったり、初音の名所である小石川白山あたりをそぞろ歩いたり、お得意様を招いて大川に屋形船を浮かべてみたりと趣向を凝らす。

東京に暮らしたことはあるが、いわゆる江戸といわれていた町に馴染みがないので、地理は地図でみるおぼろげな印象しかないが、
その風情や街並みが浮かんでくるようなイキイキとした描写だ。

私の近所でもホトトギスが鳴くのを聴けるけれど、その年に初めて聞くホトトギスの声を「初音」というのは知らなかった。
江戸時代の人は折々の季節の移り変わりを大切にして、楽しんでいたんだなということが伺える。
私もこれからは、「初音」を楽しみにしてみたい。
だって、その方が生活が穏やかで、豊かになる気がするもの。

髪は娘時代の島田髷から人妻の丸髷に変え、べっ甲の櫛に小さな赤珊瑚の玉簪。これは嫁入りのときにお民が持たせたものだ。赤珊瑚は女の魔除けだから、いつも挿しているようにと説いていたっけ。

久しぶりに富次郎がおちかに会うシーン。
赤珊瑚が女の魔除け…とは今も言うのかな?ネットで調べた限りは出てこなかった。そういうことを知れるのもまた醍醐味。
赤珊瑚は今では3月の誕生石とされているそうな。
赤くてつるっとして可愛らしい。

袋物屋というのも、今では街中で見かけるものではない。
袋物屋だけでなく、おちかが嫁いだのは貸本屋や札差し。飛脚…今となっては馴染みのない業種が沢山。
けれど、それも全部今につながっているのだなあと思う。
この時代に町人たちが生活し、それぞれの産業を発展させていて、
そのシステムが脈々と今につながっているんだなあと…

ところで、「百物語」…今、一体何話目なんでしょうか。
ここでは「六巻」ということしか分からない。
こちらに入っている4つのお話には「第一話」から始まっている。
以前、江戸を紹介した宮部さんのエッセイ?対談に、この三島屋シリーズは生涯かけて完成させたいと仰っていた。
どんな風にお話が続き、どんな風に話がまとめられていくのかとても楽しみだけれど、今何話目なんだろう…とふと気になった次第です。

富次郎が聞き手を務めたこの巻で、大いに焦り、迷い、「こんな時おちかならどうするだろう」と考えていた。おちかも始めは慣れなかっただろうか。今となっては忘れてしまったが、最後のほうは、話し手に寄り添い、立派に勤めあげていた印象しかない。
富次郎もきっと、徐々に聞き手として慣れていくのだろう。
そして、百もあるんだからきっとまた聞き手は変わるんだろうか…次は誰?なんて考えるのも、また楽しみな三島屋シリーズである。

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