見出し画像

【ドラマ感想】Netflixドラマ「愛と利と」を観ながら思ったこと

Netflixドラマ「愛と利と」が私の中でじわじわと来ている。
始めは「賢い医師生活」のジョンウォンが観たいがために観始めただけだった。

人は、愛を貫くために一体どこまでできるのか。同じ銀行で働く4人の男女が、複雑な恋愛模様を繰り広げながら愛の意味を理解していく姿を描く。

Netflix公式HP より

このあらすじ紹介で想像していた物語進行とはなんだか違った。
静かで、動きがあまりなくて、劇的な展開もなく、華やかな恋愛模様もない。

ジョンウォン、もといユ・ヨンソクが演じる銀行員であるサンスは同じ支店に勤めるスヨン(ムン・ガヨン)に淡い恋心を抱いている。
サンスが大学を卒業して、新卒で社員として採用された時に、
スヨンが教育係だった。
ところがスヨンは高卒で、今では役職はサンスが上。
仕事もできるし、成績もいいが正社員になったとしても、
高卒の彼女には出世の道が開けない。
一方で、サンスは大学を卒業しているが、家はシングルマザーで後ろ盾がない。
後ろ盾のある銀行員は出世するという。
現に妻の家が裕福である支店長は、大きな顔をしている。
友人の一人も、長年付き合っていた恋人の家が貧しく、結婚後のことを考えて別れを決意たものの落ち込む日々。
サンスは口には出さないが、女手一つで立派に育て上げてくれた母親に感謝しているし、ソウルの進学校に進んでいたものの、周りの裕福な人間たちと自分との格差をずっと苦に感じていた。

「平凡になりたい」

ハンスのセリフより

「平凡」とは、周りと違っていないことだ。周りは裕福な子ばかりだった。自分は裕福ではなく、周りと違っていた。

スヨンの家は貧しく、大学に行くこともできなかった。夢はあった。絵を描くことが好きだった。けれど、実家を飛び出し、一人でソウルにやってきた彼女は大学に行くこともできず、懸命に生きてきた。
それでも、一生懸命に働いて、少しずつ自分なりの生活を楽しんできた。
慎ましくとも、自分のほしいものを手に入れて生きてきた。

サンスに少しずつ惹かれている自分もいた。

けれど、二人は気持ちのすれ違いから素直になれずに、違う相手と付き合い始める。

同じ支店で警備員として働くジョンヒョンは、貧しくとも夢に真っ直ぐで純粋にスヨンに好意を向けてくる相手。
サンスは思慮深く、スヨンに好意を抱きつつもジョンヒョンほどに真っ直ぐ愛情を表現できない。
一方でサンスに好意を寄せる女性が現れる。
ミギョンはサンスの大学の後輩で、実家も裕福。何でも率直に口にして、スヨンにも屈託なく近づいてくる。

スヨンから見れば、ミギョンは何でも持っている。
自分が欲しいと思いながら、高くて買うことのできず見つめるだけの絵画。
ブランドバッグに自分のセンスで絵を描き、オリジナリティを出したい、とのたまうミギョン。失敗すればポイする。一般人には決して真似できない所業。
ミギョンはミギョンなりに、努力しても「親の七光」だと言われるという苦悩があるというが、スヨンの気持ちは荒んでいくばかり。

こうした、持つものと持たざる者の対比がすごく心にズシンとくるのだ。
思い当たりすぎて。
私も田舎育ちで小さい頃は都会への憧れが強かった。
とにかく東京へ。
そればかりを思っていた。
けれど、いざ東京に出た時に、自分の持っていないものを突きつけられた感じがした。
田舎にいた頃は持っていなくても気にならなかったものが、東京には溢れかえっていた。

このドラマを観ているとあの頃の自分を思い出す。
ミギョンと付き合い始めるハンスを見ながら、スヨンもきっと劣等感をこの上なく刺激されていることを感じる。
ジョンヒョンの真っ直ぐさに癒され、身の丈にあった恋愛、といえば聞こえはいいが、それは貧しい二人のお付き合いの形。ミギョンとハンスを見るにつけ、いやーな気持ちになってしまう自分がいるはずだ。
東京もそうかもしれないが、ソウルもきっと基本は大半が地方出身者でもっとマクロで見れば劣等感なんて感じる必要ない。
でも、あの頃あの時東京生まれ東京そだち、なんならニューヨークで育ったという先輩の彼女は、私にとって「小説やドラマの中」のような完璧な存在だった。
そんな人が淡い恋心を抱いた先輩の彼女で、私は「先輩が私を選ぶはずない」ということを一瞬にして悟ってしまった。
そして、悟った自分が悲しかった。
今でも時々思うのだ。
先輩は最後まで優しくて、私に対して多少なりとも好意は抱いてくれていたと思うが、どう考えても彼女が先輩に与えるほどの人生の充実感を私が彼には与えられない、ということが、十数年たった今も自分の「今」を考えても、チクチクと刺さってくる。
もちろん、今の生活に不満があるわけでもないし、今、夫は私と結婚して幸せだという自負はある。
それとは別の、あの時の「劣等感」がずっと燻り続けているのだ。

「劣等感」を感じない人生の人も、性格の人もいるのかもしれない。
そうした人にはこのドラマはちっとも響かないかもしれない。

でも、劣等感の塊の私にはこのドラマ、なんだかじわじわと攻めてくるものがあるのだ。
学歴の劣等感、育ちの劣等感、金銭的な劣等感、人間性の劣等感、センスの劣等感…
このドラマがどんな展開を今後見せてくれて、どのような結論を導き出すのか、
ひっそりと楽しみにしている。
自分の中のどうしようもない劣等感をどのようにして折り合いをつけて、
乗り越えていくのか。
だって、私はあの東京の夜から何年経っても、ことあるごとに劣等感を感じているから。
可愛い子どもがいたって、温かい家に住んでいたって、
隣の人が素敵なお洋服に高いバッグを抱えていたら、いいなあと思わずにいられないし、履いている靴を今でも隠したくなる瞬間がある。

スヨンとサンスが、それぞれの自分の愛情と、劣等感をどのように折り合いをつけるのか。
「高慢と偏見」の映画をはっきりとは忘れてしまったが、私はあれに近い感じじゃないかな〜と密かに思っている。

よろしければサポートお願いします!サポートいただいたお金は、新刊購入に当てたいと思います。それでまたこちらに感想を書きたいです。よろしくお願いします。