ドラマ『昼顔』

『昼顔』にハマっている。
あの、2014年にフジテレビで放送された、『〜平日午後3時の恋人たち〜』という副題の付いた不倫がテーマのドラマである。

仏映画『昼顔』をオマージュした作品らしい。ドラマ内でも言及している。
間男にとっては「上流家庭の奥様が真昼間から売春する話」で、利佳子にとっては、「罪を冒したら、罰を受けるという映画」らしい。


■あらすじ


主人公の紗和は、スーパーでパートタイマーとして働く主婦。ある日、勤務先のスーパーで魔が差して口紅を万引きしてしまったところを、近所に引っ越してきた利佳子に見られてしまう。スーパーの駐車場では利佳子の車が車上荒らしの被害に遭うが、利佳子は不倫相手と一緒だったため、万引きを黙っていることと引き換えに紗和に自分と約束をしていたと話を合わせるように言う。美しい利佳子は、夫と2人の娘と贅沢に暮らしながら不倫を楽しむ"昼顔妻"だった。車上荒らしをした高校生の担任、北野が保護者代わりに利佳子たちと示談の交渉をする。北野は生物の教師で研究肌の変わり者だが、昆虫や生物の話を夢中でしてくれる姿に紗和は惹かれ、また北野も一生懸命話を聞いてくれる紗和を可愛いと思う。紗和は、利佳子の影響は受けまいと葛藤しつつ、北野と不倫関係に陥ってしまう。一方利佳子は画家の加藤に遊び以上の想いを抱き、次第に本気の恋愛へと発展していく。

■『不倫』

ドラマ内定義
「淫らで、薄汚く、非常識な欲望。家族を裏切り、周囲を傷つけ、友達を失い、自らも苦しみの淵に落とす罪。足を踏み入れたが最後、出口がない事に気付いても、引き返せない。全てを破壊する許されない恋」
一般定義
「配偶者がいるのにもかかわらず、配偶者以外の者と肉体関係を持つこと」。浮気(心変わり)だけなら許されるらしい。

果たして『不倫』とは、そんなに罪深いことなのだろうか。

■紗和と利佳子の変化


最初、『不倫』なんてありえないと言っていた紗和と、『不倫』なんて遊びだと割り切っていた利佳子が、回を追うごとにどんどん変化していく。

紗和は最初、つまらなそうな顔付きをしていた。笑顔もなく、利佳子や利佳子の浮気相手にさえ「幸せそうに見えない」なんて言われてしまうし、姑には「色気がない」とまるで子供が出来ないのは紗和に原因があるかのように散々な言われようだ。そんな紗和に、利佳子は「あなたは口紅が欲しかったわけじゃない。刺激が欲しかったのだ」「ご主人はとっくにあなたを愛していないことに気付いている。でも今の生活を守りたくて気付かないふりをしている」と言い放つ。
紗和は北野先生に出会い、妄想を抱くようになっていた。「妄想の中の私は、あの人を抱きしめ、口づけ、からかったり、いじめたり、信じられないほど奔放で自由でした」しかし実際に不倫がバレたら、「陰険な姑に酷い言葉を浴びせられるだろうし、女性的な夫も男らしく殴りかかってくるかもしれない」と恐怖を抱く。
ささやかな幸せこそ大切で、俊介との生活もつまらないけどそれが幸せと思い込もうとしていた紗和だったが、実はとっくに夫婦の関係性は壊れていたことに気付いていく。そして何かを強烈に手に入れたいと思うことで、次第に強くなっていく。

また利佳子は「お前は顔だけだ」と言う夫に、ぞんざいに扱われてきた。普段は飾り棚の中に入れっぱなしで、客が来た時だけ自慢げに取り出す人形のように。そんな不満を外で恋愛をすることでバランスを取っていた利佳子。「たとえ一瞬求められるだけでも、生返事の15年間よりずっと幸せ」実は寂しさと怒りでいっぱいだった。そんな利佳子の内面を見抜いた加藤に本気になってしまう。

紗和と利佳子は、一見共通点がないが、今の生活に満たされない者同士引き寄せられたのだろう。しがらみがないからこそ遠慮なく何でも言い合える仲となる。「友達になれないなら、共犯者になりましょう。」

ただ第2話で、利佳子が紗和の鞄から勝手にスマホを取り出し北野先生と連絡先を交換していることを発見するくだりはちょっと強引な展開に思えた。お互いのスマホでお互いの好きな人にワン切りし合うとか、JCかよ!と突っ込みたくなったし。

■刺さりまくる利佳子の言葉

倦怠期を迎えている主婦でもなく、年上好きで奥さんのいる人が好きなわけでもないのに、利佳子さんのセリフがなぜかいちいち刺さる。

「出会いは思わせぶりに、別れは残酷に。」
「恋愛って、前の経験は役に立たない。いつもゼロからやり直し。」
「女に遊びの恋はできない。」
「結婚する相手には経済力や家柄、見栄が優先する。打算で選ぶ。本当の恋愛なんて結婚してからじゃないと出来ない。」
「結婚は平穏と引き換えに情熱を失うもの。3年も経てば夫は妻を冷蔵庫としか見なくなる。でも外で恋愛をすれば、夫にも寛大になれる。」
「変化のない生活にも尊さがある。失ってみないとわからない。」
「恋は夢じゃない。誰かを好きになれば人生が変わってしまうこともある。後先考えずに突っ走れば、終わりは早い。」

以上、今後の人生の教訓にしたい。

■曲者だらけの周囲

過干渉で陰険な姑
頻繁に息子夫婦の家を訪れ、詮索し、時には勝手に入り込んで、性生活にまで言及する姑。自身も夫の浮気に悩まされていたことから、不貞には厳しい。紗和でなきゃとっくに縁切られてもおかしくないくらいの煩わしさだ。こんな姑絶対に嫌だ。

紗和の夫、俊介
子供が居ないのに妻を「ママ」と呼び、それで喜ぶと勘違いし、美容に気を使う女性的な夫。結婚後妻とは女同士の友達のようになってしまいセックスレスに。妻も平凡な暮らしに満足していると思い込んでいる。こんな夫も絶対に嫌だ。
聞かなければ事実にならないとばかりに妻の告白を徹底して封じようとし、それでも打ち明けた紗和に♩あるーひー、もりのなっかー♩と森のくまさんを突然歌い出して「はいっ!ママ!」って鼻水を盛大に垂らしながら輪唱を請う姿が怖すぎた。

利佳子の夫
人気女性誌の編集長。実家も裕福らしく大きな邸宅を構え、二人の娘と妻にぜいたくな暮らしをさせて満足している。読者モデルをしていた利佳子をお金と権力を使ってものにしたから、どちらもない加藤に利佳子を取られたことが許せない。しかし木下ほうかって、こういう嫌らしい役やらせたら天下一品だね。

北野の妻、乃里子
乃里子が激しい性格なのは、結婚前の不倫泥沼エピからも伝わってくる。准教授という立派な肩書もあり美しく聡明な自分が、平凡な主婦に夫を取られた事はプライドが許さないんだろうな。責めるのも常に相手の女っていうところも性格の悪さが出ている。

人間の本性が顕れるのは、まさにこのドラマのように、相手の不倫が発覚した時だろう。理性が働かず醜態を晒す。生物として非常に原始的な姿だと思う。
自分が心地良いから相手も満足していると思い込んでいた奢りが原因なのに、全てを相手のせいにする卑怯なところも共通している。

■不倫相手の北野と加藤


乃里子ときちんと別れるまで紗和に「好き」という言葉を言おうとしない北野も、盗作を公表する加藤も、人として真っ当で魅力的だ。

でも、「男の人はいつもずるい。ドアを叩くくせに自分では決して開けようとしません。女が鍵を開けて、ここだよ、と優しく声をかけなければ、何事もなかった振りをして通り過ぎてしまうのです。それが禁断の扉なら、尚更。」と言っているように、確かに臆病で、女にリードされて不倫に踏み切る。
ただそれは、常に自分より相手の気持ちを優先して行動しているからだ。そこが自己中な俊介や利佳子の夫と決定的に違うところで、相手の幸せを願うからこそ別れを選択するラストに涙が止まらなかった。

■"昼顔妻"とは


「家庭を壊さず器用に情事を楽しむ」のが昼顔妻の定義だが、実際にはそんな余裕がない。深い関係になって、この人好きかもと思った時には本気になっている。結局、「昼顔妻なんてどこにも居ない」が結論である。

■イライラする周囲の人物


スーパーの女社員
パートに高圧的な態度を取る。乃里子に不倫をばらされた紗和に対し、嫌みったらしく「解雇したくてもできませーん。労基法がありますからね。泥棒猫でも飼うしかないんです。」と言い放つ。いや怖すぎる。たかがパートが不倫したぐらいで店の評判落ちるって?どんなド田舎村の話だよ。これパワハラじゃないの?

北野の受け持ち生徒の問題児、木下
高校3年にもなって「母親に捨てられたー、えーん、僕可哀想でしょ?」っていつまで拗ねてんだよ。ちょっと幼稚すぎない?学校での反抗的な態度も、嫌なら辞めちまえ!でしかない。高校なんて義務教育じゃないんだから。北野の家で暴れまくり乃里子を怪我させたり、高3でこの甘えっぷりはありえない。中3の設定ならまだわかるけど。

■映画

3年後を描いた映画まで見たが、あまりに終わり方が辛く、『不倫』を扱うと幸せになる物語を創作してはいけないのだろうかと思ってしまった。
仏映画『昼顔』も是非観たい。

■結婚とは


ずっと思っていた。たまたま適齢期に出会った人と、たまたまタイミングが良かったから結婚する。妥協して結婚したわけでもないのに、結婚後にもっと理想の人に出会ってしまったら。こういうまちがいは普通にあるはずなのに、「不倫はぜっっっっったいにダメ!」だから、心に蓋をして諦めなければならないのだろうか。

確かに、自分の両親がこういう事情で別れたら、驚くかもしれない。環境がガラリと変われば恨むかもしれない。でも、ひとの感情を制度で縛ることはできない。結婚した相手よりもっと好きな人がほかにできてしまった。単純にそれだけの話で、どうしたって受け入れるしかない。

この世は自分の思うようにならないことばかりだし、そうした経験が多いほどひとを成長させる。どんな状況にあっても醜くありたくないと肝に銘じたドラマでした。