『明け方の若者たち』 感想

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「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」

初めて本で目にした時、寒すぎて震えた。
語尾に「笑?」。
・・・・・・・・・・
まず、順番逆じゃね?「?」からの「笑」じゃない?
「私と飲んだ方が、楽しいかもよ?笑」ならまだわか・・・るわけなかった。
文字の配列どうでもよかった。

語尾に「笑」つける奴、総じて胡散臭い。これは定説。「w」は普通に笑う文章に付けがち。「草」も同じく。「笑」は、一番たちが悪い。

主に、自信がない男がよく使う「笑」。
LINEを既読無視していると、「おーい」と言葉通り”追い”LINEしてくるその語尾には必ず「笑」。
「元気?笑」と続いて、本当はめちゃくちゃ返信待っていたんだろうに、でもガツガツいくのはカッコ悪い。俺もそこまで興味ないのポーズだけが透けて見える自嘲の「笑」。
無視してるんだから察しろよと思いつつ嫌々返信すると、
「今週空いてる?笑」
「会わない?笑」
永遠に続く「笑」
いや何がおかしいんだよ。言い訳しながら、ちゃっかり誘ってくんじゃねーよ。
「笑」なんて付けずに堂々と勝負しろ!!

「語尾に「笑」つける奴、総じてクソ」定説の通り、物語に出てくるヒロインはたとえ女でもやっぱりロクな奴じゃなかった。

途中で飲み会を抜けることを僕に言付ける際、自分のスマホをなくしたフリして巧みに僕の電話番号を手に入れて、帰ったかと思いきや後から送ってくるショートメッセージが冒頭のソレだ。

わずかな会話で、僕を釣れると踏んでの逆ナン。共通の知り合いも居るのに怖い。この女いったいいつから僕に目を付けていたんだ。っていうか僕じゃなくてもおとなしめの男なら誰でも良かったんだろう。たまたま入口近くに居てターゲットにされた僕は、使い古された手にいとも簡単に落ちてウキウキで待ち合わせ場所に向かってしまう。イタい。

ところでこの大事な大事な出会いの場面での、女の格好である。
トレンチコート→わかる。そんな季節だし。
黒リュック→わかる。男物らしいけど。
それに、キャップをかぶってたんだよ、この女。
トレンチコートにキャップって、そもそも着こなし難しくない?なんだけど、さらにショートカットにキャップなんだ。
ショートボブとは書いてないから、多分本当にショートカットとして書いたんだろう、作者は。
サブカル男に限ってショート好き。これも定説。
でもさ、ショートカットにキャップ被ったら、髪が見えなくてめちゃくちゃ変じゃない?全然可愛くないよね。
作者の性癖がダダ漏れてる気がしてこっちが恥ずかしくなっちゃう。こんなとんちんかんな服装の女が自信満々冒頭のメッセージを送ってくるんだから恐怖。

この小説が映画化されると聞いて、まず一番気になったのがこのシーンで、本当にキャップ被って居酒屋後にするのかどうかだった、っていうね。
上映中は機会がなかったが、アマプラで視聴できた。
もうそこだけ早く確かめたくて確かめたくてたまらなくて、で、やっと見ることができたんだが。

なんだよこの女、キャップ被ってねーじゃん。

だよね~
女性監督さん、原作に忠実に丁寧に映画を作られているのに、ここだけ違うの。さすがに”ない”と思ったんじゃないのかな。

「私と飲んだほうが楽しいかもよ笑?」なんて寒い手で逆ナンするいい女気取りがクソダサかったら物語は始まらない。ニューエラなんて被ってて、ドン引かれたらおしまいだ。

でも監督さん、作者の性癖に付き合って、ショートカットにキャップを被る場面をちゃんと用意している。
だけどヒロイン黒島さんはショートボブだし、ニューエラじゃないキャップだったけどね。

そして、ニ年後なのかな、富士ロックに行く代わりに車でショートトリップに行くシーン。女は、おしゃれな麦わら帽子を被ってるんだよ。初めてのお泊まりは下北の安ホテルだった二人が、社会人になりちょっと背伸びしたリゾートホテルのスイートらしきところを女が予約するんだけど、そのホテルの格に相応しい帽子だった。これは原作にはない、年月の経過や気持ちの変化を表現する気の利いた演出のように見えた。

「大どんでん返しも、巧妙なトリックなどない」というけど、大事な関係性は巧妙に隠されて物語は進む。ありきたりなラブストーリーではないことが途中で明らかになってからが面白い。

作者のカツセさんは、美しい言葉を巧みに操る言葉の魔術師だ。
そんなカツセさんの技巧が、イケメン男女の美しいラブストーリーでなく、年下男を弄ぶクソ女と、そんな女に骨抜きにされてしまう情けない男とのしょーもない物語に無駄に使われているのはあまりにもったいないと思ってしまった。

「マジックアワー」とは、日の出や日没前後の、薄明りの時間帯のことらしい。爽やかさの欠片もない二人には、明け方のだらしなくねっとりした空気感がピッタリ。「人生のマジックアワー」だか何だか知らないけど、22から26なんていう男が輝ける瑞々しい時代を、自称サバサバ女のお遊びに消費させられたことをそんな綺麗な言葉に昇華しないでほしい。

海外勤務もある超勝組男との安定した生活を手にしながら、学生~社会人一年目の金銭的余裕がなく背伸びしたくてもできない年下男を弄ぶ。狭い風呂に横並びで歯を磨いている場面なんて気持ち悪くて見てられなかった。自分のために頑張っている男に付き合って貧乏ごっこしてるだけ。本当の私はおそらくスイートにお泊りするような価値観なのだ。

初めから期間限定と宣言されていた恋は、あっさりと終了する。男、不幸に酔うのはやめろ。自分で進んでのめり込んだくせに。無駄に落ち込むな。女の本性見抜けなくて都合のいい役割を演じさせられたのに、綺麗な思い出になんかするなよ。

一方的に関係解消しようとする都合のいい女には、真っ向から呪いをぶつけて欲しい。SNSで女の隣に映り込む夫を妬ましく眺めるのでなく、お前が留守の3年間この女を抱いていたのは僕でーす!存分に楽しませていただきました!って優越感に浸ってやれ。

でもまあ上手くいかなかった経験こそ、己を成長させてくれるからね。せめて僕、いや俺、いい男になれよ。こんな自己中女見返してやろーぜ、頼むから。そしてクソ女は今後何も良い事がありませんように。全部バレて不幸のドン底に陥りますように。人生そんな上手いこといってたまるか。

主人公を演じた北村匠海さんは、クソキモい男を見事に演じていた。じっとりした目、キモい髪型、パーフェクトに表現していた。たぶん普段は全然違うさわやか青年なのだろうけれど。

最後に、あらすじ

就活勝ち組飲み会で出会ったショートカットの魔性の女にあっさり一目ぼれし骨抜きにされる情けない男、僕は、大手の印刷会社に就職するも配属されたのは地味な総務課だし、 女には実は別の相手がいて、人生で最も輝けるはずの大切なマジックアワーを間男に屈する残酷でしょうもない期間限定ラブストーリー。

https://www.gentosha.co.jp/book/b13126.html

小説も良かったけど、劇中歌が全部良くて、映画も最高に気に入ってます。


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