見出し画像

やさしさは、あたたかい涙をさそふ

まだ息子が喋ることも出来なかった頃に、
内容は伏せるけれど結構な問題が発覚して、
義父と義母が同席のもと、
私と旦那で話し合いの場を設けたことがある。

息子はまだ1歳くらいで、話し合いの最中は義母が相手をしてくれていた。

最初は冷静を装っていた私も話しが進むにつれてヒートアップ。
旦那のある一言にカチンと来て、
テーブルに座ったまま、
涙が流れるのも隠さず、大声をあげてどなった。

その時。
今でも忘れもしない。

不安そうな顔をした息子が、
それまで遊んでいた義母の手を振りほどき、
つたない足どりで私の元に駆け寄ってきた。

泣いている私の顔を、
困惑と心配の表情を浮かべながら、
覗き込んだ。

正直、驚きの方が強かった。
生まれて一年くらいしか経っていない、
あ~とかう~とかしか言わない小さな存在が、
私の異変を察知して、心配していることに。

怒りの涙は、
あたたかい涙になり、
その代わりとめどなく溢れた。

小さな背中を抱きしめながら、
かすれる声で
「大丈夫だよ」
としか言えなかった。

そして誓った。

二度と。
もう二度と、
この子の前では涙を見せるまい。

***

そんな息子ももう4歳になり、
おしゃべりも達者になって、
興味があることはどんどん言語化して聞いてくる。

例えば、
ゆすぐってどういう意味?
とか、
お月さまはどうして空に浮いてるの?
とか。

そして最近聞かれたのが、
「やさしいってどういうこと?」
というこれまた難問。

その時は、
何の気なしに、
「ん~ほかの人の気持ちをわかってあげられる人のことかなあ。」
と答えたけれど、
しばらく経ってから思い返して、
ああ、あの時のエピソードを教えてあげれば良かったと後悔した。

「やさしいっていうのは、あのときの息子みたいな人のことだよ。」

「悲しい涙をあったかい涙に変えてくれることだよ。」

「やさしくされた人が、自分も周りにやさしくしようって、思えることだよ。」

そう息子に伝えたくて、
再度やさしさについて聞かれるのを待っているが、
以来、一向にその機会に恵まれていないのであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?