海苔はいつ食べるべきか。「うまいラーメンショップ椿」のねぎラーメン（玉造）
これを前にしたら、どこから手をつけるだろうか。
わたしはまず、ネギ下にある麺を引っ張りだして食べる。猫舌だから。
冷たいネギの下のほうが、麺が少し冷めている気がする。ネギをモサモサと左右に分けて、真ん中めがけて箸を入れる。ちょうどネギと麺の山の境目あたりが狙いどころだ。
麺をレンゲに乗っかるだけ乗せる。ふーっ…と息を吹きかけて、思いっきりすする。
美味しい…
スープをひと口すする。あーーっ。身体じゅうにじんわりと染みわたるスープ。この塩気がたまらない。ふわふわと浮いた背脂が甘い。
ラーショにしてはちょっと細めのたまご麺だ。この麺にスープとネギがよく絡む。麺に紛れて現れる、シャキシャキしたネギ。甘みと、ほんのり辛みが混在するこのバランス。ネギの食感が、ネギラーメンのうまさを左右すると言ってもいいと思う。
昨年から「うまいラーメンショップ」にハマっている。通称「ラーショ」と呼ばれる、ロードサイドに多くある赤い屋根のラーメン屋さん。
緩すぎるフランチャイズとしても有名で、同じラーショのネギラーメンなのに、店によってトッピングも味も全然異なるのが魅力。そう、本当に全然ちがうのだ。だからハマる。
これは人生初ラーショの、桶川付近のネギラーメン。
これは千葉にあるラーショ。ワカメが乗ってたり、チャーシューの厚さも違えばスープも店によって異なる。
ラーショでは「ネギラーメン」一択だ。ネギ目当てでラーショ巡りをしている。
そのネギに使われている魔法の白い粉が「クマノテ」。ラーショ本部からしか手に入らないと言われる白い粉。
気になりすぎてWEBで検索しても「本部から仕入れている」ことくらいしかわからないが、再現を試みる人までいるくらいの代物だ。何が入っているか謎だが、もし売ってたら買いたい調味料ナンバーワン。
ご多聞にもれずわたしも「クマノテ」の虜になった。ラーショもかいざんも椿も行ってるけど、この日のネギラーメンは格段に美味しかった。
キリッとしたクリアなスープには、背脂が浮いている。教科書には書いていないし塾でも教えてくれなかったけど「脂は甘い」という大切なことをわたしはラーショで教わった。
たっぷり背脂スープを纏った麺と、ネギのシャキシャキ。時期が悪いとネギがめちゃ辛いけど、この日は大当たりだ。
脂はたくさん食べちゃだめよと、わたしのなかのダイエッターが囁く。でも今日は聞こえないことにして無心で食べ続けた。いっしょに行った人とも会話せず、修行のごとくネギラーメンと向き合う。至高のひととき。
この店は分厚いチャーシューではなく、細かくなっていて食べやすい。塊だとどうしても「順番」を意識してしまうから。ネギのように、麺をすするときにいっしょに紛れ込んでくれるくらいがちょうどいいのだ。迷わずに済むから。
いつもは「ネギ」で格付けをしていたわたしが「今日のネギラーメンは格別だった」と思った理由。それはネギではなく海苔にあった。
海苔の状態が、これまで食べてきたすべてのラーメンのなかでも最高だったのだ。
「海苔はいつ食べるのがベストか」
思えばわたしはずっとこれに悩まされていた。パリパリの海苔がクタクタになってしまってはもったいないと思いつつ、最初に食べるのはなんか違う気がする。
とはいえ、最後はスープで締めたいが、モタモタしてると器にへばりつく海苔。たまごやメンマはない店もあるが、海苔とチャーシューはどの店のネギラーメンにも必ずいる。
海苔問題は、なかなか根が深い。
海苔に振り回されるくらいならネギのことに集中したいので考えないようにしていたが、この日ついに、その答えを見つけた。
「海苔が溶けて、スープに混じった瞬間」
これが海苔を食べるベストタイミングだと気づいた。夢中で写真なんぞ撮ってなかったけど、パリパリの海苔がスープでクタクタになり、フヨフヨになってスープに溶けていた。
海苔を溶かしたスープの勝利か？ いや、わたしはかたちを変えつつ旨みと記憶を残した海苔に一票を投じたい。
底に沈んだネギと背脂をレンゲで丁寧にキャッチしつつ、スープと一体化した海苔を堪能する。とろんと溶けた海苔は、ほんのり磯の風味がする。最高だ。
陸では絶対に出会わないであろう背脂とネギと海苔。織姫と彦星でさえ年一で会えるが、この三者はラーメンという作品のなかで初めて出会う。なんて神秘的な巡り合わせなんだろう。
そして器のなかで出会ったと思ったら、いきなり最高のチームワークを魅せる。
わたしの口の中でスマッシュヒットを連発し、身体中でうまいうまいの大歓声。ラーメンに海苔を入れるなんて思いついた人は天才だ。少なくとも、今日のネギラーメンは最高だった。
今日も誘惑に勝てなかった。わたしのなかで、スタンディングオベーションが起きていた。次からは海苔が溶けてから食べよう。そう決めて店を出た。
「海苔ってどのタイミングで食べる？」
帰りにいっしょにラーショした人に聞いてみる。いきなりそれかよ、という雰囲気を醸しながらふふっ、と軽く笑われる。
「いつかなぁ…中盤？ 気づいたら食べてるんだよね」
正解はないんじゃないかなぁ、とつぶやくその人に「ですよね〜」と返しながらさっき食べたネギラーメンに想いを馳せる。
これはきっと、わたしだけの大発見だ。いい週末だった。
次はどこのラーショに行こうかな。
うまいラーメンショップ 椿 玉造店
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