父親が死なない分岐ルートを経験した話

私はまだ実家に住んでいて
十数年前に死んだ筈の父親は生きていて
そもそも両親は離婚さえしてなくて、
という夢を見た。

これは別におセンチな話じゃなくて
なんか凄かったので備忘録。

夢の中でも
父親はあの頃と同じことを犯していて
母親はそれを知っていて
家庭内はギスギスしているようだった。

幾度も別れ話を繰り返しながらも
その決断を下さないまま、
現実では離婚した筈のあの頃から
十数年経過した様子だった。

そんなある日、
離婚するしないの話をしていて、
母親が怒って家を出てしまったのよね。

それは夢の中の私達にとっては
何度も経験したことのようで、
家に残された父親と私は
とりあえず、と夕ご飯の支度をし始める。

鍋に水を入れ、点火する。
料理を作る音だけがやけに響く台所。

何となく気まずくなった私は父親に、
なんで別れないの?って聞いた。

少し困った顔をした父親は
胡瓜をリズミカルに切る手を止めないまま、
いやぁもう、別れたいよな正直、
と呟いた。

もうお互いのために別れたらいいのに、
と伝えたところで、

急に、


いや、この人死んでるってことを思い出した。


ん、十数年前に死ぬ筈だった人が、

離婚しなかったことによって、

新しい家への帰宅中に
出くわした事故を回避して、

この歳まで生きることができているってこと?

なかなか沸騰しない鍋を睨みながら
夢の中の私は必死に考える。

なんだ?なんだっけ?
いや待てよ、そもそも、2X歳の私が
父親と会話できるっていうのは
どういう状況?

私は怖い夢を見た時、
それが夢であることに気がつくことが多い。
夢の中で目を無理やり開けて、起床する。

だけど、今回はどうしても
それが夢であることに気づけなかった。

何が起こってるんだっけ?!
これって人生2回目?!

なぜ父親が目の前に居るのかさえ
理解できなくなった私は混乱した頭で、
離婚したらあなた、死ぬかもしれない、と
伝えてしまった。

椎茸を乱雑に切っていく父親。

口が滑った、何を言っているんだ、と思った。

だけど口は勝手に、矢継ぎ早に動く。

離婚してもいいけど、前の時は、
あなたそのあと事故に遭って死んだんだよ。

ああ、何の話をしているんだろう。
現に父親はここに今生きているじゃないか。

そう思ったけれど、
椎茸を切り終わった父は人参に手を伸ばし、
さほど驚く様子もなく、
あ、そうなの、と呟いた。

その落ち着き払った様子に
なぜかこちらの方がたじろいでしまう。

え、あ、うん、だけど、
今回と前回は違うし、
だから何ってわけじゃないけど…
と、どもる私。

自分でも何が言いたいか分からないのに、
父親はわかったよと言わんばかりに軽く頷き
そうか、そうだねえ〜と天井を見上げた。

狐につままれたような気持ちで
何もかもよくわからない中、

この二人は離婚しなさそうだ、と感じた。

鍋は知らぬ間に沸騰し、
コポコポコポと音を立てていた。

実際に離婚した時、両親は30代前半だった。
今の私ともうそんなに離れてないくらい。

最近思う。

30代前半の夫婦と
10代前半の娘っていう3人は、
まだ家族として幼かったんじゃないかと。

離婚=間違った選択という話に
持っていきたいわけでは全くないんだけど
幼かった私達にはそもそも、
それしか選択肢がなかった感じがして。

今日見た夢の私達も
確かにギスギスしてたけど、

あの頃よりも各々が少しずつ経験値を積んで
どうにかうまくやれそうな、
別々の道を歩むにしても
最後に握手くらいできそうな、

なんかそんな空気感があった。

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