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オーストラリアで初めてできた友人の話

オーストラリアに来て初めてできた友人はプロのバレリーナでした。

バレエには縁もゆかりもなく、体が柔らかくて、チュチュ着て踊って、トーシューズが痛そうとか、そんなイメージしか持ってなかった私が、オーストラリアで初めてバレエを観ることなったのは、同い年で日本人のプロダンサーとして活躍する友人がきっかけでした。

仕事で招待してもらった領事館でのパーティー。周りは日本の大手企業の部長クラスや、現地でビジネスをされている方、オーストラリアの産業に最前線で貢献している方々など、20代の小娘が行くには場違いすぎるパーティでした。ご挨拶や名刺交換のミッションはひとまず終わったから、「ちょっとお寿司でも食べようかな〜」とカウンターに行った時。やっと同世代っぽ女性を見つけたのです。

スレンダーで、姿勢が異常に良くて、さらに話し方がとっても丁寧。これが彼女の第一印象。何している方なのかを聞くと、Queensland Balletでバレエを踊っているダンサーとのこと。「全然違う世界の人だ」と思っていました。

そのあと本当に同い年ということがわかって、ご飯に行ったり、女子会や誕生日会を開いたりしていく間に、有名なダンサーではなく「友達」と呼べる存在になったのです。これまで旦那を介してしか友達を作ることができなかった私にとって、初めて「自分だけの繋がり」でできた友人だったので、それはそれは嬉しい出来事でした。

彼女のバレエを初めて見たのは2019年。初心者が見るには難しすぎる演目と聞いていたので、事前に原作の映画を観て予習してから挑みました。バレエ=敷居が高い、というイメージがあったから、何を着ていけばいいかもわからなかった初バレエ。あの細い体からは想像もできないほどの演技力と舞台全体に広がるダンサーはオーケストラのエネルギーに一瞬で虜になりました。今では新しい演目が発表されるたびに毎回のように観に行くほど、もうすっかりバレエファンになっていました。

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大きな舞台に赤いカーテンが敷かれ、生のオーケストラの演奏と、大掛かりなセットと、ライトと衣装と、その中で踊るダンサー達。1秒でも何かが狂えば、きっと一瞬で観客を落胆させてしまうだろうという緊張感が漂う空間。

一瞬のミスも許されないあの状況で、涙が出るほど「美しい」と感じる空間を作り出せるのはプロだけがなし得る技であり、「世界を舞台に活躍するってこういうことか」と毎回のように感じます。

ドラキュラという演目でその友人は、私と同じ名前のMinaという役を演じていました。名前が一緒だったからいつも以上に感情が入ったり、ダンサー達の演技力に思わず「すごいね」と声が漏れたり、最後の挨拶の場面で、ダンサー達のやり切った!という表情を見ると、涙が勝手に溢れてくるのです。

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一回きりの空間、誰かと一緒に一つの物を創り上げる、そこに関わる全ての人の努力が誰かの心に届く瞬間。私が心を動かされるのにはそんなトリガーがありますが、バレエという総合芸術にはその全てが含まれていました。

ファンクラブに入ってライブを観に行く、高いチケットを買って音楽鑑賞をするって人たちの気持ちがいまいちわからなかった私ですが、彼女と出会ってから、誰かのファンになるって、芸術を楽しむってこういうことか!ということにようやく気づきました。友人として、1人のファンとして、これからもずっと吉田合々香というダンサーを応援し続けます。




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