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初めてのことを、してみる。|13|おねしょの洗濯

まだ暗い明け方、腕に冷たいものを感じた。あぁまたか…。ベッドの上に、しっとりと水分が吸収された後の水たまり。3歳2か月の息子がおねしょをするのは、日中にジュースを多く飲んだ日やお腹いっぱい食べた日の明け方だ。そう、昨日は手抜きしてファミレスで食べて、みんなでドリンクバーにしちゃったもんなぁ…。

と、見るとベッドに息子がいない。娘と夫は掛け布団にくるまってくーくーと寝ている。掛け布団をひっぺがしても息子が隠れている様子はない。こんなことは初めてだ。二階の廊下に下の階からのオレンジの電気が漏れている。階段を降りてみる。

居間に入って、子どもたちの衣類が入ったタンスがある納戸をのぞく。息子がいた。上の服はまだ春先なのに七分袖を後ろ前に着て、いままさにノーパンのままズボンをはこうとしているところだった。

息子は頰を上気させた今にも泣き出しそうな顔で私を見上げた。

「濡れちゃったからお着替えしてるの!濡れたのはそこにあるから!」

と口早に言って、ズボンをはこうと足を片方に突っ込んでがんばっている。

一体どのくらいの時間その状態になるまで着替えと戦っていたんだろう。普段は上着は脱ぐのがまだ難しいようで、お風呂に入るときも「ママ脱がせて〜」と言ってくるのに。その様子がいじらしくてたまらなくて私はぎゅっと息子を抱きしめる。

「いいんだよ。一人で下に来て、お着替えできたの?がんばったね。」

息子はうんうん、と私の胸の中で頷いて、顔をあげるとすっかりいつもの明るい表情をしていた。パンツとズボンを履くのを私が手伝うと、さっさとおもちゃ遊びに行ってしまった。後ろ前の服はそのままで。

ずっしりと濡れて納戸の床に置かれたパジャマと、まあるくシミのついたベッドのシーツとマットを洗濯しながら思う。息子は私がおねしょにガッカリした様子を見せるたびに、すごく傷ついていたのだろうな、と。成長したと自負している自分、お兄さんな自分を感じて誇らしく思っていたのに、そんなプライドを地に落とすような私の言葉…「も〜またやった〜」「だからトイレに行っておけばよかったじゃん!」「あ〜洗濯物が増えた〜」。おねしょはわざとじゃないし責めても仕方ないと分かっていながら、ついつい口に出してしまっていた悪態。それを聞く度に、失敗してしまった…自分が未熟だからママに迷惑をかけてしまった…自分はダメだ…と小さいながらも息子は自分を責めていたんだろう。そんな気持ちに少しでも対抗しようとした彼なりの頑張りが、ベッドを抜け出してからの、あの納戸で一人で着替えに奮闘する姿だったんだ。

ママはこのときの君の後ろ前の服を着たノーパン姿をずっと忘れないだろうと思う。ごめんねや可愛いや大好きがいっぱい混じった、愛おしい一コマ。これからは洗濯物がいくら増えたとしても、二度とおねしょを怒らないと決めた。シーツのシミは洗濯で落ちるけど、心についたシミはそう簡単には洗えないんだろうから。とは言え、やっぱり「謝る」と「許す」が心には一番の洗剤のように思う。明日、君におねしょを叱ってしまったこと、ちゃんと謝ろう。大好きのハグをしながら。


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