宇宙へ!整形外科で腰のけん引
3歳を迎えた子と、定期検診の会場へ向かう道中、「歩くの飽きちゃった」と言うので久しぶりにおんぶをした。
するとどうだ、その日の夕方から、腰が痛くて痛くて、たまらない。2日間、様子を見たが、どうにも治らないので、かかりつけの整形外科クリニックへ行くことにした。
このクリニックでは、産後すぐの頃に「頸椎ヘルニアの手前のようだ」と診断されたことがある。今回は、「腰のあたりの骨と骨の間が、ふつうの状態より狭くなっていて、椎間板ヘルニアの手前のような感じになっている」らしい。「○○の手前」という表現はどちらかといえば好きな方だが、健康面でいくつも重なると、身体に対して、さすがに申し訳ない気持ちになる。
医師からは治療法として、腰の痛いところにマイクロ波を当てることと、腰のけん引を示された。(痛み止めと湿布ももらった)
マイクロ波の機械は、頸椎ヘルニアのときにも使ったことがある。機械の前に置かれた丸椅子に腰掛けて、患部にマイクロ波を当てると、じんわり、あたたまるのだ。一方、腰のけん引機は生まれて初めて利用する。
立っても座っても痛む腰に気を遣いながら、ゆっくりと診察室を出て、手すりに頼りながらリハビリルームへ移動する。
このとき、腰のけん引機に乗って宇宙へ行くことになるとは、まだ思ってもみなかった。
腰のけん引機は、頭・腕・背中・腰・おしり・ふくらはぎに硬めのクッションシートがついた椅子の形をしている。シートに腰掛けると、スタッフの方が腰にゆるめの安全ベルトを締めて、手には緊急停止ボタンも握らせてくれる。「倒しますね〜」の掛け声と共にスイッチが入ると、シートがゆっくりと後ろに倒れる。止まるときには、ひざを90度くらい曲げたまま天井につま足をむける格好になる。シートの変形と同時に、肩のうしろあたりからニュイーンと出てくるクッションのおかげで、脇の下には少しスペースが生まれる。最後に腕と足が固定されたら徐々に圧力がかかり、腰まわりがフワフワとのびたり戻ったりする。
これが、なんとも不思議な体験だった。
脇が開いているからだろうか?腰が抜けるような感じのせいだろうか?ホールド感のないお姫様抱っことでも言おうか?
とにかく、無重力体験なのだ。
耳元ではポ〜ンポポ〜ン・・ターン・・タンター・・・ポ〜ンと、不規則な電子ピアノ音が聴こえてくる。プラネタリウムで星空を見ているときのBGMと似ていて、音が重なるごとに星が静かにまたたき、隕石同士がゆっくり当たっているような光景が脳裏に浮かぶ。
これはやはり、けん引機で無重力体験できることにあわせて、宇宙を感じるようなBGMが選ばれているのではないだろうか。
すごい、すごいぞ・・なんやこれ・・・。
宇宙の広がりをもう少し感じようではないか、と思う頃、唐突にピーピピーという音が鳴り、スタッフの方が近寄ってきて「おつかれさまでした〜」と声をかけてくれる。10分経ったのだ。
シートがゆっくりと戻っていく。肩のクッションも、元の場所にニュイーンと引っ込む。地上に足が着く。浮いている間、ポツンと置き去りになっていたクリニックのスリッパを履き直す。気づかないうちにかけられていた膝掛けを返したら、あとは会計へ帰還するのみである。
あぁ、終わってしまった・・私の宇宙旅行が。束の間の飛行のおかげで、歩くのも億劫だった腰の痛みも・・・ほんのちょっと、ほんのちょっとだが、どこかへ飛んでいった気がする。
ちなみに、頸椎ヘルニアのときには首のけん引を体験して、あちらは、けん引が始まると、アゴと頬と鼻がゆっくりとつぶれていき、治療中の顔だけ見ると誰でもアンパンマンのようになれる。あれはあれで、面白い時間であった。
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