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【雑文】レイニーブルーにご用心

 
 ここ何日か、名古屋では雨が続いている。
 たまに止んだかと思ったらまたすぐに降りだして、なんとも不安定な天気が続いている。
 
 僕は、雨自体はそれほど嫌いではない。
 雨の日の空気というのはいかにも情緒的だし、屋根や傘に当たる雨音も風流なものだ。
 昼間から薄暗く、世界全体が薄靄に包まれているような雰囲気は悪くないと思う。
 
 ただ僕の個人的な事情でいえば、雨が降るとバイクに乗れないので困ってしまう。
 僕は通勤にバイクを使っているので、雨の日には濡れながら行くか、それとも人ごみに揉まれながら電車に乗るかの選択を迫られることになる。
 
 せめて平日には晴れていて欲しいのだけれど、しばらくはそれも難しそうだ。
 というのも、名古屋は6月10日から梅雨入りが宣言されているからだ。

 ところで、以前聞いた記憶があるのだけれど、実は梅雨入りにははっきりとした基準というものはないのだという。
 
 例えば季節の変わり方には立春や立夏といった明確な基準がある。あるいは真夏日や真冬日も気温が何度以上/何度以下になった日、という明確な決め方がある。
 
 ところが梅雨には、そういったものがないらしい。
 梅雨入りを決めるのはもちろん気象庁なのだけれど、1週間程度先の天気予報を見て、どうやら雨が多くなりそうだぞ、と判断したときに、梅雨入りを宣言するのだという。
 
 この令和の時代になんともアナログな決め方だと思う。
 もしかすると近い将来には、AIによって梅雨入りを判断させるようになるかもしれない。
 
 しかし少なくとも今は人の主観によって判断しているわけで、担当者当人の心理状態によっても随分左右されるように思う。

 例えばこんな状況だってありえる。
 
 気象庁に勤める高橋さん41歳(仮名)は今年ついに念願の、梅雨入り担当官に任命された。ところがここ最近高橋さんには何か悩みがあるようで、どうも浮かない顔をしている。
 
「おう高橋。なんだか疲れた顔してるな。なにかあったのか?」
「あ、先輩。実はこのあいだ、娘と喧嘩してしまいまして……」
「娘さん、今高校1年だっけか。まあ、難しい年ごろだよな」
「ええ、まぁ。娘は声優になりたいそうなんですが、高校を辞めて東京の専門学校に行きたいなんてことを言い出しまして」
「ふぅむ」
「そんなもの認められるわけないだろう! なんて、つい私もカッとなってしまって……。娘は家を飛び出していったんですが、もう3日も帰ってこないんです」
「なんだって。そりゃあ大変じゃないか」
「妻とは連絡を取り合っているみたいなのですが、私が電話をかけても出てくれないですし。どうやら友達の家に泊めてもらっているらしくて、妻は、学校にはちゃんと行っているから大丈夫、なんて言ってはいるのですが……」
「それは、辛いな……」
「どうして私は素直に娘のことを応援してやれなかったんでしょう……。自分だって子供の頃には夢をもっていたのに。自分だって、親にその夢を反対されて、悲しい思いをしていたのに。そんなことも忘れていたなんて……」
「まあ、そう落ち込むなよ。きっと時間が解決してくれるさ。娘さんが帰ってきてくれたら、今度はちゃんと話をするんだな」
「ええ……そうですね……」
 
「ところで、高橋さ」
「はい」
「梅雨明け宣言はまだ出さないのか? そろそろいい頃合いじゃないかと思うんだが」
「何を言っているんですか先輩。世界は未だにこんなに薄暗いじゃないですか。この空に晴れなんてものは無いんですよ」
「いや、晴れも多くなってきたと思うけれど」
「そんなことありません! 見てくださいよ。だって私の心はこんなに土砂降りなんですから! この世には夢も希望もありはしないんですよ……」
「そ、そうか。まあ、じゃあ俺はそろそろ仕事に戻るよ」
「はぁ……そうですか。お疲れ様です……」
 
 こうしていつまでも梅雨明けは宣言されないのだった。

 と冗談みたいなことを書きながら思い出したのだけれど、そういえば、沖縄はもう梅雨明けしたらしい。
 例年より11日早く、去年と比べるとほぼ1か月ほど早く梅雨明けしたことになるのだという。
 
 多分、今年の沖縄担当者は相当頭が晴れていて、底抜けに明るい人なのだろう。
 流石は「なんくるないさー」の県なのだなあと思う出来事だ。
 
 
 
 

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