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抽象的な短編小説【一歩】


ここはどこなのだろう

真っ白い空間にポツンと独り。ここはどこだろう。そして自分は誰だろう。
自分を見ると白いTシャツと白いズボン、白いくつを履いていた。

お腹がすいたな。何かないかな。

しかし見える世界は空も地面も真っ白で地平線も全く見えず、立っているのが不思議に思うほどだ。歩くのが少し怖い。
視界は白いが、感覚がつかめないこの空間じゃ真っ暗闇にいるのと同じだ。しかしお腹がすいた。とりあえず恐る恐る一歩を踏み出す。

すると急に世界は色付き始め、辺りはジャングルになった。鳥たちの声が聞こえ、草木の匂いや風を感じる。

なんだ、さっきのが夢のようなもので、自分は今までここにいたのかな?

とにかく食べ物を探さないとと思い、歩こうとしたが進めない。
よく見ると、そもそも足がない…。
自分の体はツヤツヤしていて細長かった。…なんだ、自分は蛇だったのか…。先ほど人間だと思っていたが、蛇なら歩き方が違うはずだと、にゅるりにゅるりと体をうねらせて前に進んだ。

とにかくお腹がすいてしかたがないのだ。何か食べ物はないか・・・。ないな・・・どこだ・・・食べるもの・・・。

すると突然、脇腹あたりに刺さるような痛みと共に体があっという間に宙に浮いた。
見上げてみると大きなワシの爪が自分の体を捕らえていた。慌ててワシの足に巻きついて締め上げてみたものの、太くたくましいその足には全く効果がなかった。ああ、自分は死ぬのだなと覚悟した。ワシは高い木の枝に自分を連れて行くとクチバシで自分の体の肉を裂いた。凄まじい痛みと恐怖に抗うが到底無理。痛い。死ぬのか…。力がどんどん入らなくなる。

気が付くと自分は真っ白な世界にいた。なんだか見覚えがあるような…。自分の体を見てみると、傷一つない綺麗で真っ白な蛇の姿。とにかくお腹がすいた…。にゅるりと前に進むと、また真っ白だった辺りは色付き始めた。

色付いた景色を見てみると、どうやら自分は高いところから急降下していってるようだ。緑が生い茂る地面が急速に近づいてきている。そしてボトンと自分の体は落っこちた。
地面から自分のいたところを見ると、そこには大きな林檎の木。どうやら自分は林檎のようだ。

落ちた音を聞きつけてきたのか、すぐにタヌキがやってきて自分の体にかぶりついた。ムシャムシャと美味しそうに自分を食べるが、痛みなどはない。体を動かすこともできない。だって林檎だからね。
先ほどの蛇でいた時に比べるとなんと安らかに食べられているのだろうか。タヌキが可愛いとすら思える。


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いやしかし、このままの状態でまたあの白い世界に行くとなると…。



この自分の一歩とは何なのだろうか。

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#短編小説 #小説 #ファンタジー #フィクション

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