短編小説【不運な男】

寂れた街のボロアパートの一室、汚い4畳半の部屋で男はあぐらをかいて俯いていた。

男は生まれてこの方ついていた事がない。ただの一度もない。
孤児院で育ち、両親の顔も見たことがないし仕事も昨日首になった。友達もいなければもちろん恋人もいるわけがない。
「小さい幸せすらない。なんてつまらない人生だ。生きるのが嫌になった…。」
男はボソリとつぶやき、おもむろにロープを取り出してカバンに詰め、外へ出た。

人が少なく活気のない街をトボトボと男が向かった先は神社の裏の人っ気のない茂み。男は大きな木に登り、枝にロープをくくりつけた。その行動は淡々と、躊躇なく行われた。
「さよなら。遺書を書いたところで見る人もいない。さよなら。」
男は輪っかに結いたロープに首を入れて勢いよく木から飛び降りた。
大きい木がしなり、葉がハラハラと落ちた次の瞬間、大きい音がした。

ブチッ

ロープが男の体重に耐えられず切れてしまったのだ。
「くそ!!なんて事だ!ここに来てまたついてないなんて!」
男は擦りむいた傷を神社の水道で洗い流し、神社からでてすぐの4階建てのマンションの屋上に上がった。飛び降りてしまおうと考えたのだ。
男は屋上の隅で靴を脱ぎ、柵をまたいだ。高いところは好きじゃない。下を見て足がすくんでしまったら飛び降りられなくなる。そう思った男は上を向きながら緩やかに屋上から落ちていった。
するとバフっと音がした後、男は地面に叩きつけられた。
「痛たた…。」
男は生きている。マンションの1階に張り出されていた簡易的な屋根がクッションとなったのだ。

「ちくしょう!なんなんだよ!ついてない!」
男はよたよたと素足で歩き、今度は海へ向かった。

海に到着するとそこには都合よく誰もいなかった。男は水平線を目指して歩き始めた。海の水は冷たく、波は激しく荒れていた。体が波に持って行かれそうになりながら男はただひたすら歩いた。そしてとうとう足がつかなくなり全身海に沈んでいった。

男は目を瞑り体を海に預けた。

するとどうだろう顔が地面についてる感覚がした。
「ぶはっ!はぁはぁはぁ…」
男は生きている。波に流されてまた砂浜へ戻されてしまったのだ。
「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!!!何ひとつついていない!」
男は泣きながら地面を叩き砂を握った。すると手に何か硬いものがあることに気がつき砂を払ってみた。




「あ、100円拾った」

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