短編小説【佐藤さん】

俺は高校を中退した後は工場で働き、団地で一人ぐらしをしていた。毎日毎日同じ日々の繰り返しだった。
朝起きて仕事へ行き、帰ってコンビニやスーパーで買った惣菜をテレビを見ながら食べる。工場と団地までの距離はほど近かく、寄り道などもしない。むしろするところがない。休みの日は一日中ゲームとネット。

つまらないとは思うが、食うためには、生きるためにはしかたがないと半ば諦めた気持ちで日々を過ごしていた。

そんなある日の事、郵便受けに固いしっかりとした紙質の封筒が入っていた。中に入ってたのは「懐かしいあの人に会えます」と大きく書かれた、これまた高そうな紙質の紙だった。
なんだこれは…。間違えて送られてきたのではないだろうか…?
疑問に思ったがなんだかすごく興味があり、説明書きを読んでみた。

【当社は懐かしい人に会わせる会社です。付属の紙にご本人様の名前と会いたい方の名前・何年前の方なのかを記入し、返信用封筒に入れて投函してください。料金は無料です。】

一度読んだだけでは理解ができなかった。
懐かしい人に会わせる…同窓会のような?それとも探偵事務所なのか?
一番理解ができないのは「何年前の方なのかを記入」ということ。「何年前から会っていないか」と言いたいのだろうか。よくわからない。
しかしこの不可思議な封筒は日々くだらない事で暇を潰していた自分にとっては、都合の良い暇潰しだった。
料金も無料となれば、遊んでやってもいいだろう。

しかし、自分の会いたい人となると、誰だろう。ろくに学校も通わず、友達も少なかった俺に会いたい人など…
「あっ」
ついつい口から溢れでた。いた…。中学生の時に好きだった佐藤さん。
クラスのマドンナで、女子の中心だった佐藤さんはすごくモテていた。しかし争いを避けるために暗黙のルールで男子は佐藤さんに近づかず、卒業式で一気に6人から告白されるという現象が起きた佐藤さん。俺も好きだったなー…告白はしなかったけど。
一度だけ俺の事をあだ名の「ごっちゃん」で呼んでくれた事があった。なんだかとても照れくさかったのを覚えている。
会えるものなら会ってみたい。しかし、向こうが会ってはくれないのではないかと思った。学校じゃそんなに喋った事がなかったし、むしろ俺のことを覚えているのだろうか。

深く考えそうになったが、そもそもこの封筒自体よくわからない。軽い気持ちでやってみることにした。
自分の名前と佐藤さんの名前、何年前から会っていないのだろう…。
紙には自分が中学生の時の西暦を記入した。

次の日、工場へいく途中にあるポストに返信用封筒を投函した。
暫くはどうなるのかと思って過ごしていたが、また同じ日々の繰り返しになり、すっかりそのことを忘れてしまっていた。

そんなある日、郵便受けにあのしっかりとした封筒がまた届いていた。
あ・・・・!来た!
期待などしていなかったが、好きだった佐藤さんの名前を書いていただけあって「もしや」という気持ちと「でもどうせダメなんだろう?」という気持ちが混ざり合いながらワクワクして封筒を開けた。
すると「○月○日(日)16時○○中学校にお越し下さい。」と書いてあった。

来るのか!!?佐藤さん!?

心が躍った。当時可愛かった佐藤さんは大人になったらきっと化粧を覚えてもっとキレイになってるに違いない。いや、もうむしろ太ったりしててもそれはそれで面白い。とにかくマドンナと会えるんだという気持ちでテンションが上がった。

封筒に書いてあった○○中学校とは俺の母校。紙に名前以外を記入しなかっただけに信憑性がある。楽しみになってきた。

数日後、俺は封筒に書いてあった時間にドキドキしながら母校の中学校へ行った。
学校は何も変わっていなかった。懐かしい。
放課後にここで一度タバコを吸おうとしてむせて吸えなかったな・・・。
あ!この鉄棒の落書き俺が書いたやつじゃないか(笑)
ただただ学校に来ただけでもそれなりに楽しかった。あまり思い返したこともなかった中学校時代の思い出がまざまざと蘇る。

しばらく思い出に浸っていると校舎の中に人影が見えた…。佐藤さんか!?

しかしその人影は制服姿だった。
なんだ学生が日曜日に登校してるのかと、学生から目をそらそうとしたが
学生は俺の方に向かって歩いてきている。
そしてその学生が夕暮れの光を浴びた時にしっかりとわかった。

佐藤さんだ。

佐藤さんは何も変わっていなかった。むしろ変わらなすぎている。中学生のままのように見える佐藤さんがそこにいた。

「…こ、こんにちは、お久しぶりです…。」
俺は違和感を感じていたが、佐藤さんに声をかけた。

すると佐藤さんはニコっと笑ってこう言った。

「ごっちゃん、掃除当番さぼっちゃダメだよー。」

…どうやら本当に懐かしい佐藤さんに会ってしまったようだ。

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