見出し画像

ソマイア・ラミシュさん来日交流会

早くも年の瀬だが、今年はアフガニスタンにけるタリバンの詩作禁止令に抗議したアフガニスタン出身の詩人ソマイア・ラミシュさんの呼びかけに応えて、全世界の詩人たちが連帯を示したことが印象に残った年だった(たとえばこの朝日新聞の記事を参照)。日本でも詩集『詩の檻はない』が刊行され、共感を持って読んでいたのだが、この度ソマイアさんが来日し、地元横浜で日本の詩人との対話が行われるということで、本日(12月19日)参加してきた。

横浜ことぶき協働スペースを会場に、岡和田晃さん、大田美和さん、佐川亜紀さんといった日本の詩人たちとの対談という形式で持たれた交流会だったが、会では通訳付のインタビューを中心に、現在のアフガニスタンにおける、特に女性に対する抑圧的状況や、その中における詩の力などについて、たいへん力強いメッセージが語られた。ソマイアさん本人による美しいペルシア語の詩の朗読もなされた。

個人的に特に印象に残ったのは、来年日本で企画されている平和に関するアンソロジー詩集にアフガニスタンの詩人たちへの参加が呼びかけられた時、アフガニスタン国内にいる詩人たちにとってそのように国外で詩作を発表することは危険ではないかという質問がなされたのに対して、ソマイアさんが「確かに危険だが、彼女たちはそのようにしてのみ声を持つことができる。もはや失うものは何もないので、たとえ殺されたとしても本望だと考えている」と答えたことであった。そのような、理想のために殉ずる覚悟というものにある種の危うさを感じる向きもあるかもしれない。けれども、それはその当人が社会の中でどのような立ち位置にあるかによって個別に判断すべきことがらではないかと思う。私はソマイアさんの言葉に強い感動を覚えた。

ソマイアさんの姿を見、話を聞いて頭に浮かんだのは「預言者的prophetic」という言葉だった。旧約聖書の預言者たちは腐敗する社会の周縁において、権力に対抗して声を挙げる詩人であった。ソマイアさん自身は宗教(特にイスラーム原理主義)に対しては批判的であるが、権力に対して真実を語る彼女の姿勢はまさに現代の預言者と言えるのではないかと思った。そしてそのようなメッセージを発信するのに詩ほど強力な形式はないであろう。

もう一つ、ソマイアさんは現在オランダに住んで国外からタリバンへの抵抗運動を行っておられるわけだが、同時に西側世界の「自由」に対するダブルスタンダードに対しても厳しい批判を投げかけているのが印象的だった。これは旧ソ連の社会主義体制を批判して国外追放になったノーベル賞作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンが亡命先の西側文明の腐敗に対しても歯に衣着せぬ批判の声を上げていたことを思い起こさせるものであった。タリバンによる目に見える「檻」だけではなく、私たちの「自由な」国にもまた、目に見えない「檻」があるのではないか、そんなことも思わされた。

会の参加者はそれほど多くはなかったが、著名な詩人や出版関係者、ジャーナリストの方々が何人も出席しておられた。会の終了後、普段はあまり出ない懇親会にも出席したが、移動中にソマイアさんと少しであったが個人的に言葉を交わし、感謝の意を伝えることができた。たいへん充実した夕べであった。

『詩の檻はない』に頂いたサイン



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?