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推しが入隊する

知らせは突然だった。

いや、突然なんかではない。ずっと心構えはしていたことだった。

私の最推しであるイ・テミン君は今年で29歳(韓国年齢)を迎える1993年生まれの男性である。

マイケルジャクソンを初めてテレビで見てから、舞台の上で歌って踊ることを夢みた少年は14年前SHINeeの末っ子として輝かなるデビューをした。

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私が彼を知ったのは、彼らがデビューしてから2年経ったころだろうか。5人いるメンバーのなかでも私は彼にどうしようもなく惹かれてしまった。どんな服を着ていようとも、どんな髪型をしていようとも、舞台のどこに彼がいるのかすぐにわかってしまうほどに、彼のパフォーマンスに私は釘付けになってしまった。

それからずっと、私は彼の見せてくれる彼を見てきた。

彼がスランプのような状態に入っている時も、たくさん思い悩んでいる時も、ジョンが天国に逝ってしまった時も、楽しそうに踊っている時も、見せたい世界を全身を使って見せてくれるように踊る時も、苦しそうに歌っている時も、のびのびと綺麗に歌っている時も、メンバーと戯れて幸せそうにしている時も、もぐもぐとたくさん食べ物を食べている時も......

イ・テミン君はなにも舞台の上でだけ「アイドル」なのではない。

彼は繰り返しこう言う「いい人になりたいんです。もっと、いい人に。」

彼は、「君たちの戦士になるからね。」そう歌う。

彼の誠実で時に心配になってしまうほどに生真面目な人格は、まさに「アイドル」。人としての理想像ー。

(そしてファンたちはみんな、私たちが君の戦士です涙と叫ぶ。)

優しくファンたちに微笑むその顔は、天使であると同時に、まるで聖母のように暖かく美しい。

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そんな最推しが、5月31日に徴兵に行くのだ。約2年間だ。なんてこった。

韓国国籍の男性アイドルは、よっぽどのことがなければ30歳になる手前で兵役へ行ってしまう。それを「空白期間」と呼ぶ。そんなこと、もう人生の半分を韓国アイドルオタクとして過ごしてきた私は良く知っている。

あんなに神々しいイ・テミン君でさえ、きっと、いや、必ず兵役へ行ってしまうんだ。そんなこと、わかっていた。
その心構えをしたのはここ3年くらいだった。ジョンが天国に逝ってしまってから、テミン君を除くSHINeeのメンバーがみんな入隊した。その時から、「みんなが戻って来たら必然的にテミン君も。」と心構えてはいた。

今年に入って、SHINeeのメンバーがまたアイドルとなり戻って来てくれた。嬉しいと同時に、「いよいよだ」と悟った。メンバーと幸せそうに時間を過ごすテミン君を見る度、泣きそうになってしまった。

「5月31日に行きます。自分の口からみんなに伝えたくて。」そう言いながら、イ・テミン君がVライブをしてくれたのは今月の頭だった。(芸能人の入隊は、メディアで報道されてから知ることが多い)

私は12年近く彼を見て来た中で、彼が泣いている姿を2度しか見たことがなかった。きっとどんなファンもそうだろう。彼は、ファンには「かっこ悪い」姿をあまり見せようとしない人で、(全然かっこ悪くないのに!!)よっぽどのことがない限り、カメラが回っているところで涙を見せてくれない。

そんな彼が、自らカメラを回し、私たちに入隊する旨をその口から告げてくれ、涙ぐむ姿さえ惜しまずに「不安なんです。」ということを教えてくれた。

彼は涙をこぼしても、カメラを止めないでいてくれた。最後に、飼い猫と戯れているいつもの姿を見せて安心させようとしてくれたのか、そんな姿を見せてくれてからカメラを切った。涙を見せたことに対して、いつもだったら「こんな姿見せてごめん」と何度も何度も後悔するように顔を隠して謝るのに(謝る必要ないよ!!)、この日は悔いのない表情をして、一言だけ断ってから、キッと切り替えて笑顔を見せた。

そんな姿に、「ああ、テミン君はすごく立派な人になったんだ。」

と感じた。そこにいるのは、すごく、すごく立派な人だった。神様でも、天使でも、聖母でも、そんな曖昧なものでなくて、一生懸命生きて、苦悩してそこに立って、たくさんのことを抱えながらも、多くの人を幸せにしてくれようとしている、立派な1人の男性だった。

無理だった。

オタクはもう無理だった。

ここまで、オタクをやってきて後悔したことがあっただろうか?今までオタクでよかった!!と歓喜したことしかなかったというのに。

オタクじゃなければ、こんな痛みを知らなかった。オタクじゃなければ、こんなに苦しくなかった。

オタクじゃなければ、イテミン君に出会えなかった......。

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今日、2021年5月2日は私にとって人生の中でもトップに君臨するであろう、特別な日になった。

イ・テミン君が入隊前の最後のソロコンサートを開催したのだ。

韓国アイドルの中では、入隊前と入隊後を第一章、第二章と言って句切る風習があり(SMEだけかもしれない)イ・テミン君も例外なく「これで、僕の第一章が幕を閉じます」そう言った。

コンサートは、コロナのおかげさまで主流となった(韓ドル内だけかもしれません。私はそれ以外のコンサートに全く興味ないので詳しいことは知らないのです。)オンライン上での公演だった。

イ・テミン君はファンの声をよく聞いてくれる人で、そうしていると彼はほっぺたが溢れてしまうほどにっこりと幸せそうに微笑む。そんな彼を見ているのが、私は大好きである。

しかし、オンライン上のコンサートにはもちろんファンは、彼の目の前にいることができない。オンライン上で繋いだ全国のファンの視線を受けて、彼は約2時間に渡るNever Gonna Dance Againと命名されたコンサートを行った。

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(↑このコンサートはコロナがなければ去年開催される予定だった)

コンサートが始まって最初の20分ほどは、酷く複雑な表情をして歌う彼の姿に胸を打たれた。兵役に行くのが「不安」。みんなに忘れられてしまわないか「不安」と繰り返し告げた彼の言葉。それもそのはずだ。彼もまた、人生の半分をアイドルとして過ごして来た人なのだ。「僕も、普通の人間だったってわけです。」悔しそうにそう呟く。そう、稀に兵役が免除される人もいるのだ。

数ヶ月前にイ・テミン君が納税模範者(なにそれ!?)として国から表彰された時、全ファンが「これで免除では!?」と胸を躍らせたのではないだろうか。私もそんな淡い期待を抱いた。↓

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かといって、兵役免除はそんな甘いものでもない。彼らは彼らで思いがあるし、世間の目だってあるし、きっと、きっと、私が考えられるほど、甘っちょろいもんじゃないのだ。わかってる、わかってるんだ!!!!!ああ!!!!!!

そんな1人の29歳男性としてのイ・テミン氏と、アイドルのイ・テミン君が複雑な感情を抱えて、私たちの前でその華麗な舞台を見せつけてくれていた。

一つ一つ曲が変わる度に、それが彼の歴史の集大成だと言わんばかりで、私は溢れ続ける涙をぬぐってぬぐって、公演を映し出すipadを握りしめつづけた。泣いてたら、何にも見えなくなっちゃうのだ。辛い。

そんな風にして歌って踊りながら時間が経つに連れ、彼の複雑で不安だった感情の重さがだんだんと溶けていくようだった。気がついたら彼は、いつものように軽やかに、つま先から指の先、頭の先まで全身で、私たちに彼の世界を舞台から教えてくれていた。(”さよならひとり”以降あたりからだろうか)

彼は、言葉を喋るように踊る人だ。彼にとって踊ることは自然なことだと言わんばかりに、伝えたいことを踊りで見せてくれる。

そこには、14年目のアイドルのイ・テミンではなく、29歳のイ・テミンがいたのだ。

今まで見て来た中で、今日の彼が一番大人らしく、人間らしく、男性らしかった。額から汗が吹き出し、皺を寄せて高らかに歌い上げる。

彼がいつも表現してきた“二面性”。その苦悩を抱え続けて29年間を生きてきたイ・テミンが、ここにいる…………。

わあッと私の瞳が熱くなって、大きな音をたてるようにふつふつと沸騰した涙が湧き、それから落ちていった。

もうあとのことはどうでもよくなってしまった。

紛れもなく、彼の人生だった。私たちは、イ・テミンという人物の人生を見ているのだ。

そんなこんなで涙を流し続けながら、あっという間に公演は終わってしまった。

アンコールで、あれだけ不安だとか言っていた彼が「もうさみしがらないでくださいね。」そう微笑んだ。いつもみたいにほっぺたが溢れそうな微笑みでなく、何かを愛おしがるように、困った顔をしながら口元で笑いかけた。

ああ、私たちが思うよりも、彼はいつのまにか大人になってたんだ。

ぶわぁ。。。。。


そんなことを言っている私も、彼と同じ年なわけなのだ。12年間彼を見守る間にも、私も年を共に取った。果たして、私も彼のように、大人になれているのだろうか?誰かを支えたいと、守りたいと、微笑みながらも凛々しく立ちはだかり、自分は人に愛され、同時に愛す権利があるのだと、そんな立派な人間に、私もなれているのだろうか?

彼の誠実な姿は、私にそんなことをいつも問いかけるようだ。

“ 私も、イ・テミンのような人間になれているだろうか?”

私にとってのアイドルとは、イ・テミンのことなのです。「イケメン」でも「かっこいい」でも「スタイルがいい」でも「非現実的」でも「彼氏にしたい」「結婚したい」でもない。そうじゃない。

私が理想とする人間=アイドル。それは、イ・テミンのことなんです。


そして、彼がこれから約2年間過ごすであろう、未知なる環境が彼にとって有意義で、居心地の良いものでありますように。せめて不安がっていた彼が、メディアの目から少し離れて、のびのびと過ごせる期間であれば良い。ファンの1人である私は日本から、細々とそんなことを心から願っている。(退役する際、渡韓できればいいな.....)

태민아 사랑해 

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