見出し画像

受付は、ステージである。

仕事に行けば、私はいつも、クリニックの受付に座る。
来院した患者さん達に、まず、声をかける。
「こんにちは。今日はどうされましたか?」

クリニックで働き始めたころ、仕事の内容がよくわからず四苦八苦するのはもちろんだが、それ以上に慣れないことがあった。
待合室にいる患者さんに、常に見られているような感覚を覚えたのだ。それに疲れてしまうのである。

もちろん、実際には常に見られているなんていうことはない。入社時はまだ、待合室には閲覧用の新聞や雑誌、書籍、漫画などが置いてあった。ご自身で暇つぶしの道具を持ってくる方もいる。それより何より、スマホを操っている患者さんが大半だから。受付をひたすら観察している人はまず、いない(ゼロではない気はするけれど…)。
それでも、いつ「すみません」と声を掛けられても大丈夫なように、こちらは態勢を整えておかなければいけない。電話対応もあるし、診察室からちょっとしたお手伝い要請も来る。気が抜けない。それが、「いつも見られている」ような感覚になるのだ。

そう。受付はステージだ。たくさんの観客がこちらを見ている。注目を浴びる場所。
…となると、私の行動はファンサービスと呼んでもいいのかもしれない。どんな対応をするかで、ファン…患者さんは感じ方を変えるのだ。
自然な笑顔。優しく丁寧なしぐさ。聞き取りやすい声のトーン。冷たさを感じさせない話し方。ちょっとくらいのダメージなら瞬時に心に閉じ込められる強さ。あらゆる方法を駆使して、患者さんがいい印象を持って帰れるように、ふるまう必要がある。
幸い、私の勤めるクリニックにくる患者さんたちは、そんなに横柄な態度も取らないし、こちらをわざと困らせるようなこともしない。よくネットでは『医療事務の愚痴』なんてタグ付きでいろいろな言葉が並んでいるけれど、ありがたいことに「うちはそんなに殺伐としてないよ」と思うことがほとんどだ。今まで、院長や先輩たちと、患者さんたちの間で作り上げてきた、何物にも代えがたい関係。大切にすべきものだ。ネットの口コミでも評価は高い。「私が勤務することでこれを落としてはいけない」と、何度思ったことだろう(今も思ってる)。
たくさんの人にステージを見に来てもらうには、ファンを増やすには、そこに立つパフォーマーが、見るに値する状態を保たないといけない。

受付は、ステージだ。
それは、私が患者さんを見下ろしていいということではない。常に見られているんだからしっかりしなさいよ、という意味。
そのステージでセンターを張るなんてことは、今は到底無理。でももしかしたら、頼りになる先輩達がいなくなってしまう時がくるかもしれない。いつか堂々とセンターに立てるように、努力しなくては。

皆さんの『スキ』や『サポート』が、私とこのアカウントを育ててくれる源になると感じています。よろしくお願いいたします。