詩「遠景脱妄症」
見目麗しいだけでよかった 裏地までが研ぎ澄まされた薄さで整っていた 目に見える部分と見えない部分の境目が分からなかった 君だった
手を 触れさせてくれた 血が内側に滴る舌が綺麗だった 紛れもなく熟れていた 緑の木々の間を歩く間 見える八重歯を見つめていたことを暴かれて笑われた 季節は重力を失ってバラバラに漂い始める たましいは存在するのだ
欅が歌を歌ってからもう数年になるが 果たして来年は
夏に雪がふるこの街では ほんの僅かなわたしたちの住処も たちまち熱と雪に覆われてしまって
その欅たちだけが 僕らを見ていた いちまいいちまい葉を裂く君の指先から 思い出たちは空回りしていく
まわれ まわれ そらを まわれ
まわせ まわせ きみを まわせ
まわる まわる ぼくは まわる
勇気と雪と少女と処女と
コーヒー一杯飲む間にも
遠くの景色は鮮明になる
気にするほどに老けていくね。
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