詩「アクアリウム・イン・ハー」
東棟―――
水槽の前に立っていた。見つめるわたしの眼だけが、魚だった。白身の多い小さな魚。右手で晴天を感じつつ左手で眉間を押さえると、左手はすっ とわたしの頭を通り抜けていった。
突如音がなりはじめる
ここは音楽室であった
わたしの頭が水槽になっている
B組の楠木さんがピアノをひく
レクイエム。
なまえをしらなかった
―
ちゃ
―
ちゃぱ
―――
ちゃっ
――
―
ぴ
音が足りていない
分の音がなるたび
後ろ髪のはえぎわから
魚がとびこんでくる
―――どうにも。
楠木さんが左手の薬指で黒鍵をひく
わたしの中に一匹ふぴえちて
その音の粒にわたしがかじってきた
バウムクーヘンが全て詰まっていた
すごい勢いで また 雨粒のよな
精密なランダム
分子や間隙が身を寄せあっていて
楠木さんに、アンコールを、懇願した!
「わたしですわたしです」
ピアノの指とぴったり 口から出る言葉が一致してしまう
「わたしですわたしです」
「楠木さん」
「わたしです」
「楠木さん」
「楠木さん楠木さん」
「あなたの右手がなくなったのは」
「わたしです」
「楠木さん」
「あなたの左手の4本の指がなくなったのは」
「わ」
水槽ではない方の頭に
イルミネーションがこびりついて
皮膚の内部へ光をおくる
て点ん滅めつ とっ とっ
ぱ とっ とぅ
楠木さんが
水槽の方からわたしをあじわうように
そして
水槽ではない方から思い出を取っていった。
わたしは何も かんがえられず
高らかに笑う
楠木さん
のピ
アノへ視線をぶつけて
ティ の音だけを鳴らす
わたしの唇を指先で愛撫した
メランコリーメランコリー
がつづくよ
メランコリーメランコリーが
つづくよ
水槽の方が 空に近づいている
とびこんでいた魚を
やわらかい関節の先で つか んで
そっと眼をみると
e(terna)e
と言わんばかりのe
わたしの舌にプリントアウト。
※この詩は2022年12月23日22時~行われたツイッターの「#礫」ツイートをつなげたものです。
楠木さんは、ここにもいる。
探してみよう。楠木さんを。
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