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高校生向け短期集中日本文学史(古典編)#3(中世の文学:鎌倉時代〜安土桃山時代)全5回

文学史は地味ながら意外と定期テストで出題されて特典源になることも多いです。そのような文学史について素早く勉強をする全5回のシリーズ記事です。近現代編は既にアップしているので近現代の文学史をご覧ください。

 中世の文学は、貴族の世から武士の世へと転換した影響を受けたものと言えます。ただ一方で、中古以前の文学の影響が全くなくなったのではなく、消化されて中世らしい文学へと変化し、近世文学へとつながる基盤を作り上げたと捉えた方が正確だろう。例えば、中古文学の中核をなしていた和歌については和歌のあり方について言及したA歌論集の登場も見られるが、何よりも和歌の代わりに流行し始めたB連歌が詩歌の中心として人々に愛好され、近世において流行する俳諧の基盤となっていた。また、C物語についても評論書が登場し、近世の仮名草子につながる御伽草子が成立する。また、武士の世への転換によってD軍記物語も中世においては文学の中心となっている。E随筆の分野、およびF説話については中古から存在するジャンルではあるが中世になりより流行していった。G日記については衰退していくものの紀行文へと変化していき近世での紀行文学の基盤となった。中世において完全に新しいジャンルとして出てくるのは劇文学である。これは猿楽や田楽から発展した( ① )を ( ② )・( ③ )親子が大成させたことによって生まれたもので、子の(③)は日本最古の演劇論書である『( ④ )』を表し、(①)の理想を「幽玄」とした。

問1、空欄①〜④に当てはまる語句を以下の語群を参考にして答えなさい。
語群
歌舞伎/能/狂言/世阿弥/阿国/観阿弥/風姿花伝/歎異抄/愚管抄

問2、A歌論集について、中世の歌論書やその作者の説明として最もふさわしいものを1つ選びなさい。
ア、藤原伊行女が書いた『建礼門院右京大夫集』は『平家物語』に関係する和歌を考察した歌論集である。
イ、鴨長明が書いた『無名抄』は中世歌論集の中でも大きな影響力を持った作品であり、『新古今和歌集』の撰者の一人らしい鋭い視点で歌論が展開されている。
ウ、『毎月抄』で「有心」を提唱した藤原定家は、『近代秀歌』、『明月記』や『拾遺愚草』といったさまざまなジャンルの作品を著したことでも知られている。
エ、和歌の才能があったことで知られた源実朝は『金槐和歌集』を著すとともに、正徹を主人公として『正徹物語』で歌論を展開した。

問3、B連歌について、次の中で連歌集とその撰者の組み合わせとして正しくないものを1つ選びなさい。
ア、二条良基『菟玖波集』 イ、飯尾宗祗『水無瀬三吟百韻』 
ウ、飯尾宗祗『新撰菟玖波集』 エ、山崎宗鑑『新撰犬菟玖波集』
オ、藤原俊成『閑吟集』

問4、C物語について、現存最古の物語評論を選びなさい。
ア、『無名草子』 イ、『愚管抄』 ウ、『神皇正統記』

問5、D軍記物語についての説明文の空欄を埋めて完成させなさい。

 中世の始まりを告げる平安末期の戦乱を取り上げた『( I )』、『( II )』は軍記物語として重要な作品ではあるが、冒頭部で示される無常観が特に有名な『( Ⅲ )』は琵琶法師が平曲として語ったことで知られている。南北朝の動乱を描いた『太平記』や源義経の生涯を描いた『義経記』も有名な軍記物語である。

問6、E随筆やその作者についての説明文の空欄を埋めて完成させなさい。

鎌倉時代初期、1212年に成立した『( Ⅰ )』は鴨長明が書いた作品であり、京都で発生した災害や飢饉によって荒廃する都を目にした作者が感じた無常観を背景としている。鴨長明は文化人としても知られ説話集である『( II )』を著したことでも知られる。
 鎌倉時代末期、1330年に成立した『( Ⅲ )』は( Ⅳ )が書いた作品であり、無常観だけでなく人生観・自然観・有職故実への考案など多岐にわたる内容の豊富さでも知られている。

問7、F説話についての説明としてふさわしくないものを1つ選びなさい。
ア、『宇治拾遺物語』は中世説話の代表作で、『今昔物語集』と同様に仏教説話と世俗説話をバランスよく配しており、作者鴨長明の趣向が反映されたものである。
イ、鎌倉時代中期に書かれた『十訓抄』は教訓的世俗説話集である。
ウ、橘成季の書いた『古今著聞集』は、貴族時代を懐かしむ世俗説話集である。
エ、鎌倉時代後期に、無住法師が書いた『沙石集』は仏教説話集である。

問8、G日記について、阿仏尼が書いた旅日記のタイトルを答えなさい。


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解説
中世文学は基本的に作者名と作品名をセットに押さえることが重要です。とはいえ、重要な作品は限られているので、絞って覚えることが大事になります。

問1、空欄①〜④に当てはまる語句を以下の語群を参考にして答えなさい。

中世において完全に新しいジャンルとして出てくるのは劇文学である。これは猿楽や田楽から発展した(①能)を (②観阿弥)・(③世阿弥)親子が大成させたことによって生まれたもので、子の(③)は日本最古の演劇論書である『(④風姿花伝)』を表し、(①)の理想を「幽玄」とした。

能についてはきっちり空欄の内容だけは押さえておきたいです。逆に言うとそれ以上聞かれる場合は難易度が高いため、授業で細かく言及されたときはテストで出されるかもと警戒した方が良いです。

問2、A歌論集について、中世の歌論書やその作者の説明として最もふさわしいものを1つ選びなさい。
×ア、藤原伊行女が書いた『建礼門院右京大夫集』は『平家物語』に関係する和歌を考察した歌論集である。
→『建礼門院右京大夫集』は私家集でそもそも歌論書ではないです。

×イ、鴨長明が書いた『無名抄』は中世歌論集の中でも大きな影響力を持った作品であり、『新古今和歌集』の撰者の一人らしい鋭い視点で歌論が展開されている。
→『新古今和歌集』の撰者は藤原定家さえ押さえておけば良いですが、その他の五人の中にも鴨長明はいません。

○ウ、『毎月抄』で「有心」を提唱した藤原定家は、『近代秀歌』、『明月記』や『拾遺愚草』といったさまざまなジャンルの作品を著したことでも知られている。
→歌論書について最も重要な作品であり、藤原定家『毎月抄』だけはきっちり押さえておきたいところです。むしろ、その一点だけでウを選んで問題ありません。

×エ、和歌の才能があったことで知られた源実朝は『金槐和歌集』を著すとともに、正徹を主人公として『正徹物語』で歌論を展開した。
→源実朝『金槐和歌集』は正しく、また歌論書である『正徹物語』は正しいが、それぞれは全く関係ないです。また、正徹が作者と思われているのが『正徹物語』というのが正しい説明です。

問3、B連歌について、次の中で連歌集とその撰者の組み合わせとして正しくないものを1つ選びなさい。
ア、二条良基『菟玖波集』 イ、飯尾宗祗『水無瀬三吟百韻』 
ウ、飯尾宗祗『新撰菟玖波集』 エ、山崎宗鑑『新撰犬菟玖波集』
○オ、藤原俊成『閑吟集』
藤原俊成は藤原定家の父であり、和歌の有力者です。それだけの理由で選んで良いです。連歌が生まれたこと自体は重要なことではありますが、その具体的な作品はややマイナーなものが多いです。むしろ日本史で問われることが多いため文学史としては試験範囲で指定された時だけ覚えることが大事になります。

問4、C物語について、現存最古の物語評論を選びなさい。
○ア、『無名草子』は物語評論であることを押さえておかないと物語と勘違いしやすいので、その点だけは注意しましょう。
イ、『愚管抄』とウ、『神皇正統記』は史論書です。こちらもジャンルと名前だけは覚えておきましょう。

問5、D軍記物語についての説明文の空欄を埋めて完成させなさい。
 中世の始まりを告げる平安末期の戦乱を取り上げた『(I保元物語)』、『(II平治物語)』は軍記物語として重要な作品ではあるが、冒頭部で示される無常観が特に有名な『(Ⅲ平家物語)』は琵琶法師が平曲として語ったことで知られている。南北朝の動乱を描いた『太平記』や源義経の生涯を描いた『義経記』も有名な軍記物語である。

軍記物語はジャンルとしては重要ではありますが、基本的には作品名をしっかり押さえておけば問題はないです。

問6、E随筆やその作者についての説明文の空欄を埋めて完成させなさい。
鎌倉時代初期、1212年に成立した『(Ⅰ方丈記)』は鴨長明が書いた作品であり、京都で発生した災害や飢饉によって荒廃する都を目にした作者が感じた無常観を背景としている。鴨長明は文化人としても知られ説話集である『(II発心集)』を著したことでも知られる。
 鎌倉時代末期、1330年に成立した『(Ⅲ徒然草)』は(Ⅳ兼好法師/吉田兼好)が書いた作品であり、無常観だけでなく人生観・自然観・有職故実への考案など多岐にわたる内容の豊富さでも知られている。

中世文学において鴨長明と兼好法師は作品名をしっかり書けないといけないため注意が必要です。
要点の整理
鴨長明;随筆『方丈記』、歌論書『無名抄』、説話集『発心集』:鎌倉時代初期
兼好法師;随筆『徒然草』:鎌倉時代末期
どちらの随筆も和漢混淆文を含む作品であり、背景に無常観があるという点も押さえたいです。

問7、F説話についての説明としてふさわしくないものを1つ選びなさい。
○ア、『宇治拾遺物語』は中世説話の代表作で、『今昔物語集』と同様に仏教説話と世俗説話をバランスよく配しており、作者鴨長明の趣向が反映されたものである。
→『今昔物語集』以外の説話集は仏教説話が中心となっているものと、世俗説話が中心となっているものと分かれているのが特徴です。また『宇治拾遺物語』は作者が未詳ということも押さえておきたいところです。

イ、鎌倉時代中期に書かれた『十訓抄』は教訓的世俗説話集である。
ウ、橘成季の書いた『古今著聞集』は、貴族時代を懐かしむ世俗説話集である。
エ、鎌倉時代後期に、無住法師が書いた『沙石集』は仏教説話集である。
押さえておきたい点を短文にまとめたものなので試験範囲になっていたら覚えておきましょう。

問8、G日記について、阿仏尼が書いた旅日記のタイトルを答えなさい。
阿仏尼『十六夜日記』(いざよいにっき)だけは正確に押さえておきましょう。


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