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高校生向け短期集中日本文学史(古典編)#1(『源氏物語』以前の文学)全5回

文学史は地味ながら意外と定期テストで出題されて特典源になることも多いです。そのような文学史について素早く勉強をする全5回のシリーズ記事です。近現代編は既にアップしているので近現代の文学史をご覧ください。

 日本の文学史を考える上で、中国の影響を無視することはできない。例えば、口承文学から記載文学への変化は漢字の輸入が大きく影響している。また、詩歌やA歴史書に重きが置かれたのも中国において漢詩文や歴史書が作られていたことが関係するだろう。そのため学者の中には記載文学以前を日本風とし、それ以降は全て中国風の文学と唱える人もいる。上代においては中国風であるという言葉は間違いではなく、B万葉仮名を筆頭に漢字を日本語の音に合わせて当てはめて作品が作られていた。
そのような上代から時代が進み、平安時代に入るといわゆる中古の文学の時代となる。中古における最も大きな変化の1つとして仮名による物語や日記の登場が挙げられる。「物語の出で来はじめの祖(おや)」と『源氏物語』で評された『( ① )』を筆頭に、『宇津保物語』や『落窪物語』などのつくり物語が著された。また、『( ① )』と『宇津保物語』・『落窪物語』の間の時期であるの十世紀中頃にはC歌物語も著された。日記においては漢文で日記を書くという伝統を打ち破り仮名で日記を書くという道を開いたという点で紀貫之の『( ② )』は日記文学を考える上で重要であり、その後藤原道綱母の『蜻蛉日記』などの女性による日記文学が登場する基盤となった。だが、それ以上に日本の文学に大きな影響を与えるのが、日本初の勅撰和歌集である『( ③ )』が編纂されたことにある。編纂時期は『( ① )』とほぼ同時期であり、中古文学の先陣を切った重要な作品である。紀貫之の書いた「仮名序」を筆頭にそこに選ばれた、D六歌仙や撰者の和歌により、以降の歌人が和歌として詠むべき主題を決められるとともに、文化的な基盤も形成された。

問1、空欄①〜③に当てはまる作品を答えなさい。

問2、A歴史書について、上代に書かれた歴史書及び地誌に関する説明としてふさわしくないものを1つ選びなさい。
ア、『古事記』は稗田阿礼が口述した歴史を太安万侶が筆録して編まれた神話や伝説を含む歴史書である。
イ、『日本書紀』は舎人親王らによって編纂された紀伝体の歴史書で、『六国史』の第一とされるものである。
ウ、『出雲国風土記』は完全な形で現存する唯一の『風土記』で上代における地誌を伝える文献の1つである。
エ、記紀歌謡という言葉があるように、歴史書である『古事記』と『日本書紀』には多くの歌が紹介されている。

問3、B万葉仮名について、『万葉集』の特徴や歌人に関する説明として正しいものを1つ選びなさい。
ア、『万葉集』の歌風を、素朴で雄大であると評し「ますらをぶり」と呼んだのは江戸時代の国学者である鴨長明である。
イ、『万葉集』の中で特に有名な女流歌人である額田王は、長歌の完成者として知られる柿本人麻呂と同時期に活躍しており、『万葉集』の最終的な編者として考えられている。
ウ、『万葉集』の隆盛期には山部赤人や山上憶良などが登場し、内容の深まりを見せ、衰退期には最終的な編者として知られる大伴家持が平安時代につながる繊細・優美な歌を載せた。
エ、東歌や防人歌など一般庶民の歌も載せられたことで知られる『万葉集』ではあるが、その数はわずか十首に過ぎず、後の学者が再評価したことで見出されたに過ぎず実態は権力者のための歌集となっていた。

問4、C歌物語についての説明として最もふさわしいものを1つ選びなさい。
ア、『伊勢物語』は、『古今和歌集』で長い詞書が付されることの多い和歌を詠んだ在原業平を主人公としたと思われる一代記である。
イ、『大和物語』は、民間伝承を集めて作成された歌物語だが、統一的な主人公である平貞文を設けることで一貫性のある作品となっている。
ウ、『平中物語』は、色好みだが歌の腕前はない人物を取り上げた作品であり、恋をテーマとしていないという点もあることから歌物語としてはやや異例な作品となっている。
エ、『日本霊異記』は、仏教的な教訓を含む作品で、歌物語の中でも特徴的な作品の1つである。

問5、D六歌仙について、次の選択肢の中から六歌仙である人物を全て選びなさい。
ア、在原業平 イ、紀貫之 ウ、紀友則 エ、文屋康秀 
オ、小野小町 カ、僧正遍昭 キ、凡河内躬恒 ク、大友黒主

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解説
全体的に難易度は高いように見せてみました。上代及び『源氏物語』以前の中古の文学については急所さえ押さえておけば解けるようになっている問題が多いので、今回は解説で急所となるポイントを紹介します。
問1、空欄①〜③に当てはまる作品を答えなさい。
①「物語の出で来はじめの祖(おや)」と『源氏物語』で評された『( ① )』という言葉で答えを出せることが重要です。物語の元祖は『竹取物語』で、これより昔の作品は現在見つかっていません。
②紀貫之の『( ② )』と作者名が書かれているので、『土佐日記』が答えです。
③日本初の勅撰和歌集である『( ③ )』や紀貫之の「仮名序」という言葉から『古今和歌集』と答えることができます。

問2、A歴史書について、上代に書かれた歴史書及び地誌に関する説明としてふさわしくないものを1つ選びなさい。
イ、『日本書紀』は舎人親王らによって編纂された(×紀伝体)の歴史書で、『六国史』の第一とされるものである。
→紀伝体ではなく編年体。『日本書紀』が中国の歴史書を参考にした重要な特徴なので正確に押さえておきたいところです。


問3、B万葉仮名について、『万葉集』の特徴や歌人に関する説明として正しいものを1つ選びなさい。
答えはウです。
文学部や日本史利用者以外の人の解き方としては、①『万葉集』の最終的な編者は大伴家持と言われており家持は平安時代につながる歌を作ったという点、②東歌や防人歌など民衆の歌も多く紹介されているという点の2つを押さえるだけで良いです。ウでは最終的な編者・平安時代につながる歌を作ったと書いており、エでは民衆の歌は少ないと書いてあることからエではなくウと判断します。

ア、『万葉集』の歌風を、素朴で雄大であると評し「ますらをぶり」と呼んだのは江戸時代の国学者である(×鴨長明)である。
→賀茂真淵が正解です。鴨長明は鎌倉時代に活躍する人物で、『方丈記』の作者として知られています。
イ、『万葉集』の中で特に有名な女流歌人である額田王は、長歌の完成者として知られる柿本人麻呂と(×同時期に活躍しており)、『万葉集』の(×最終的な編者)として考えられている。
→額田王は発生期の歌人であり、柿本人麻呂は確立期で時期が違います。額田王が最初期の歌人であることを知っていれば最終的な編者という言葉もおかしいと判断できます。

ウ、『万葉集』の隆盛期には山部赤人や山上憶良などが登場し、内容の深まりを見せ、衰退期には最終的な編者として知られる大伴家持が平安時代につながる繊細・優美な歌を載せた。
→有名な歌人が紹介されている選択肢なので名前だけは押さえておきたいところです。

エ、東歌や防人歌など一般庶民の歌も載せられたことで知られる『万葉集』ではあるが、(×その数はわずか十首に過ぎず、後の学者が再評価したことで見出されたに過ぎず実態は権力者のための歌集となっていた)。
→『万葉集』は階層・地域の幅広さが特徴で、限定的な地位の人物を取り上げた歌集という説明は正反対の説明となります。

問4、C歌物語についての説明として最もふさわしいものを1つ選びなさい。
○ア、『伊勢物語』は、『古今和歌集』において長い詞書が付されることの多い和歌を詠んだ在原業平を主人公としたと思われる一代記である。
→『古今和歌集』で長い詞書があるように、物語の中心となる和歌がどのような場面で詠まれたかが明らかになっていたからこそ歌物語として成立したのではないかと推測されています。歌物語については『伊勢物語』だけ少し丁寧に押さえておけば問題ないです。

イ、『大和物語』は、民間伝承を集めて作成された歌物語だが、(×統一的な主人公である平貞文を設けることで一貫性のある作品となっている)。
→統一的な主人公がいないため一貫性がないという点で知られています。また平貞文は『平中物語』の主人公です。

ウ、『平中物語』は、(×色好みだが歌の腕前はない人物を取り上げた作品であり、恋をテーマとしていないという点もあることから歌物語としてはやや異例な作品)となっている。
→歌物語の主人公は歌が上手いということさえ押さえていれば問題ないですが。また『平中物語』と『伊勢物語』は恋物語であるという点も押さえておくと確実に違うと判断できます。

エ、(×『日本霊異記』は、仏教的な教訓を含む作品で、歌物語の中でも特徴的な作品の1つである。)
→そもそも歌物語ではなく上代の説話を集めた説話集です。

問5、D六歌仙について、次の選択肢の中から六歌仙である人物を全て選びなさい。
ア、在原業平 エ、文屋康秀 オ、小野小町 カ、僧正遍昭 ク、大友黒主の五人に喜撰法師を加えた六人が六歌仙です。この問題はやや難しい問題ですが、少なくとも六歌仙に在原業平と小野小町がいることだけは押さえておきたいです。

ダミーのイ、紀貫之 ウ、紀友則 キ、凡河内躬恒は全て『古今和歌集』の撰者です。紀貫之だけは覚えておきたいところです。


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