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『✕〇!i』第5話「電話をするよ」

 我が君が不在のまま早水家は、一週間程を過ぎようとしていました。
君恋しいがいたし方なし……。

 心身が健やかに動く限りは、僕は家作りを主にしています。
つまりはアマチュア作家です。
これも僕にとっては、君に仕える事。
大切な、お仕事なのです。
売れる売れないは極力考えていません。
正しい楽しいと想えるものを書く。

 気が付くと夜を越えて、
朝日を迎えるのも珍しい事ではありません。

 今日も朝方6時を、時計は回ろうとしていました。
家作りをしながら、廃棄物処理への思考も並列して巡らす。
今日は月曜日。
燃えるゴミは明日だったな。
……良かった。
このままPCさんをスリープさせて、僕もまた眠ろう。

 そう思考を切りかえた時、電話が鳴った。
 僕は恐怖症と名付けるか迷う程、電話が嫌いです。
ありきたりな感想ですが、どうにも相手方の顔が見えないのが性に合わない。倖子君ともその件では意気投合する。

 しかし、
だからこそ、電話に出る気になりました。
僕の生活リズムを知る人しか、
こんな時間にかけてくるはずがないからです。

つまり倖子君。

 でしたら、僕が出ないはずがないのでした。およそ10秒ほどで……、
少しの不安と期待を掛けた解答が……、

「はい、早水です」

「もしもし、……良かった起きてた。仕事お疲れ」

……正答だと得られました。

 麗しい声音が僕の心身を潤す。

なんだか鉢植えを探す、

……涙出そう。

「うん。みなさんはお元気ですか? 倖子君、なにかあった?」

 我が君の心が、わずかに揺れている様に感じる為に尋ねてみました。

「……う、……うん、家族は元気だけれどもさ、ありがと。……その、昨日から……居るのよ実家に、娘の、ポップちゃんが。家族と和気あいあい……でさ」

これは嬉しいニュースでした。

 瞬時、

僕の部屋にも透き通る少女は居た。わずかの驚きはありますが、僕はタイムパラドックス等は、パラレルワールドで回避する思考なので、もう不惑だし、「面白い」で落ち着く。遍在できる事は教えてくれてたし。

「そう、それは僕には好かった♪ こちらにも居てくれてるよ?」

「やっぱりどこにでも居るって本当なんだ。面白い……確かに面白いけどさ。……あー……ダメだまた頭痛くなってきた」

 君の困った所って案外僕は見慣れていないですから、少し嬉しくもあるんです。その所為か僕の心は正直になります。

「……君が居ないと、寂しいよ。早く、帰ってきてくれないかな?」

「ふふん。私の大切さが身に染みているようね。良い事だわ、非常にね。愛たまってるかしら?」

僕はひとつ。勝気な君の声音が好きだよ。

「そうだね。君が居ないと、僕の全ての愛情は消え失せて、生きる喜びから随分と離れてしまうんだ」

 穏やかな沈黙が、いち、にぃ、さん、

「心也君、有難う。……ちょ、ちょっと嬉しかったから、帰る事考えといたげる。……これから私も、ポップちゃんと親しくなりながら、みんなと今後のこと話し合ってみる。……答えはもう、出てるようなもの、だけれど――ぅふ♪」

 嗚呼……、君は温かい。

太陽に照らされる月の様な気持ちなのかも知れません。

「うん。僕待ってるからね? 気をつけて、帰ってきて?」

「うん、電話代凄いからもう切るね。今からお休みでしょ? ゆっくりしてね。それじゃ」

財布の紐の番人はもちろん倖子君です。

「倖子君、有難う。僕からもまた、必ず、電話をするよ。まだ伝えたい事はあるからさ。……苦手な電話、本当に有難う……嬉しかった。……倖子君?」

「ぅん? なに?」

 きっと死ぬまで辿り着けない言葉だとしても、

大切な君に真心を、

「愛しています」

「ばっ、……ぉバカっ……、じゃあね。心也君、おやすみなさい」

 本当に大切な言葉は、決して口に出すべきものではないのかもしれません。ですが、僕はずっと未熟です。愛する事を探求する旅路の最中。様々に試行錯誤を繰り返す愛もまた、神仏は、「それもまた善し」……、そう仰ることでしょう。

「はい、おやすみなさい」

 彼女が電話を切るのを確認し、僕は受話器を置いた。
ポップちゃんは、いつの間にか消失していました。
僕の心は奮起を覚える。

君は容易く、僕の全てを動かしてしまう。

 君は……、せかい中で、最も、頼もしい存在です。
例えそれが、第四の壁による彼岸の蜃気楼だとしても……。

 このやりとりからさらに一週間の後、僕の女神様は、我が家に帰ってきてくれました。

 ふたり苦手な電話で、
心をつないで。



 くものうえはいつもあおぞら。
ぼくらはいつでもそばにいる。
きみはぼくのすべてです。

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