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『✕○!i』第15話「最後の晩餐」
捧華の高校進学までの道程。
数学。
美術。
理科。
技術・家庭。
社会。
修了。
残すは、
国語。
音楽。
保健体育。
英語、です。
国語と音楽は僕がそばに。
英語は君が。
保健体育はふたりでみる。
それはそう当然。
捧華は可愛い女の子ですから。
保健は美女と美少女同士。
体育は、
……まぁぼちぼち体が動けなくなってきた僕がつきます。
そう布陣を並べ、今日。
待ちに待った、君からの知らせをうけ。
保健体育も修了間近に迫り始めたのです。
そう……、
捧華に生理が来たんです。
捧華が生命を絆ぐ事ができるとわかって。
コンちゃんとポップちゃん。
あまねく生命をたばねる存在へ、ありったけ感謝しました。
………………
…………
……
「ここからは女子のトップシークレットが繰り広げられるから、しばらくお家から出てて」
君がそう仰るので、倖子君からがっちり閉め出される形で、僕は菜楽荘から外出となります。
僕は座右の銘候補に、
“好奇心は猫を殺す”を刻んでいるのです。
外出先もすんなり決めました。
【支酉神社(ととりじんじゃ)】様へ。
支酉神社様は市営住宅から、僕の足だと、大体15分程掛かる、古びた神社で御座居ます。
最近は捧華の事がありもしたので、
めっきりですが、
以前は足繁く参拝したものです。
もう手水舎も枯れてしまっている様な、
哀しみ曇る場所では御座居ますが、
色々と僕の成長を促して下さった、
御神様がおわします。
参拝作法は十全とは言えませんが、
有難う御座居ますを、
しきりにお伝えする事を大切に。
……すると、みえるんです。
可愛いとは、
本当に無礼な事ですが、
小さな御酉様と、
白無垢を着たいつも笑顔の透けた女性が。
視える、覚える。
さらに、
心に、投影される感じ。
御酉様が、僕の左手の薬指に留まって下さる。
お礼を極めて告げる。
「いつも、有難う御座居ます。御酉様、早水 心也、ご無沙汰いたしておりました」
声なき鳴き声。僕の五感が揺れて響く。
それから、
……よう来たなぁ小童(こわっぱ)……
……そこな大樹が待っておったとゆぅておるぞ……
支酉神社様の南方に大樹様はおわします。
また五感が響き渡る。
身体の内側が揺れすぎて、
奇妙に酔いそうにさえ覚える。
しかし、
お礼が自然にできる、有難き仕合わせ。
「……ぉぉ坊(ぼん)や…………こちらにおいで…………あらたな因果を坊にみせてやるて……」
お礼を尽くし。
鳥居をくぐり。
大樹様の下へ。
ここでもありったけのお礼を尽くす。
「……坊……我に手をかざしてみよ……」
僕の揺らぎ……少しの不安も、
「……かっは……そう心配するでない……我は確かに穢れでもある…………だがな坊…………坊にはわかろぉて…………くるぅりくるりじゃ…………水車の様にな……」
大樹様にはお見通しです。
入念に謝意を、
そして、大樹様へ、手をかざしました。
大樹様は揺蕩う様に、
「……我が子にひとつ…………ひぃらひら…………全き一つの門出也や……」
………………
…………
……
刹那にて……、見知るせかいに僕は無くなり。
空間全てに渡り、【扉】が埋め尽くされていた。
僕の身体の内外全てに、無数の扉がある覚え。
大樹様が慈愛からのお声、
「……坊……同様にみえる理に…………様々な名が付く様に…………我は此処を慶元令(けいげんりょう)…………そう呼んでおる…………時と時の仕合わせが巡り逢いし時…………また来るが善い……」
それからまた、
僕の心身や、魂にまで染み込むかの様な調べ。
「……どうか此の世に…………どうか此の子に…………光と愛を下さいますよぅ…………ほぅらほぅら…………巡り巡って…………また…………還るものなのさぁ……」
………………
…………
……
そうして……、覚えた途端、
……ぅん?
いつの間にか、
支酉神社様の鳥居の下に、僕は在ったのです。
南方から大樹様がお告げになります、
「……我は疲れた……坊…………困った時はお互い様じゃ……人に頼る事を覚えよ…………万物はひとつ……しかしひとりでは生きてはゆけぬ…………坊……わこぉておくれ……」
数瞬の躊躇、
のちに深々と頭を下げる。
まだまだ未熟で御座居ます。
……ぅん?
左手が重い……、ぉ、御酉様?
……童わっぱの末(すえ)がみたい……
……儂を連れてゆけ……
末……? っ……、捧華を?
「……はい。……畏まりました」
立ち去る最後に、
深くお礼を。
此処はいい。
僕がどれほど未熟か、まざまざと見えます。
支酉神社様から御酉様と、帰路に着きました。
………………
…………
……
呼び鈴を押すと、ふたつの愛の形が、チェーンロックを外してくれて、
君は眼をこすりしげしげ。
捧華は単刀直入に、
「ぅわ♪ お父さんの左手が光ってるのでっ♪」
と愉しげに告げた。
僕はとんと、
「……さ、捧華? 光ってみえるの!?」
情けない事に、結構動揺してしまいました。
瞬き、……きっと、
僕も捧華も君も、
大気の鳴動を感じたと思います。
僕と君は畏れから、
捧華を案じましたが、
捧華だけが頓着せずに、
「わぁ♪ この鳥さん、凛音(りんね)ちゃんて言うんだ。ようこそ早水家へ♪ 凛音ちゃんっ♪」
ちょ、ちょっと待って捧華!?
こちらにおわしますのは……、
……童……よい……
その音へ畏敬の念を抱き。
心が調えられる。
深く、
感謝を込めてお伝え申し上げました。
「はい」
「物凄い御方様ね……。なにしでかしてきたの心也君?」
神妙な声音の君に、迅速な応えを伝えたくも……、
「……玄関ですし、部屋で話します」
………………
…………
……
三人と御酉様。
収まるのはキッチンのテーブル。
六つのお赤飯が目の前に在りました。
コンちゃん……ポップちゃん、今は忙しいのかな?
ふたりの都合は、僕らには分かりません。
捧華の保健については触れぬ方が良いでしょう……。
年頃の女の子は繊細でしょうから。
そう判断してから、
僕は支酉神社様での経緯を語った。
「凛音様は、……霊格を……、超えていらっしゃる感覚を、……まだまだ未熟な私でさえ覚えるから、心配してないけれど、どうしてこの様な私達のもとに降りてきて下さったのかが謎ね。特に……約一名どうしてこの様な者に、謎ね」
約がつけばその存在の固定化は免れる。
でもね……奥様?
これもまた謎だけれど、
僕凄く胸と誇りが痛むんだ。
何故かな?
僕はこうこつ……ではない、しっかりしろ……、
鴻鵠(こうこく)の懐で、
君の言をさらりと交わすと。
……童……今最も大切な事を優先させよ……
凛音様から有難き御言葉。
だからこそ僕は、
僕の役割、体育の修了を、進め始めました。
捧華にはフルドライヴがある。
それにて修了なのですが、
そのフルドライヴが問題でもあります。
つまり、
「捧華? フルドライヴしてて、心身に不安な部分はない……かな?」
場の空気は微妙に、かつ確実に変わり、
僕らは、お赤飯をもぐもぐする末の娘に注視する。
お赤飯をきちんとしてくれた、
倖子君への感謝も忘れたらアウトです。
「あいっ♪ 捧華は今日も元気でっす!」
う……うん多分、
この会話は微妙に齟齬が生じてる……。
ふたたび、
心身が御酉様の鳴き声に揺れる。
……どれ……童……末を……儂がみてやろう……
千載一遇。
恐悦至極。
これほど有難いお医者様も有り得ません。
倖子君と想いを交わす目配せをしてから、
「凛音様、どうかよろしくお願いいたします」
………………
…………
……
およそ十分後、
待望のお答えを頂きました。
……うむ……童の末は心身ともに健やかじゃ……
……童の望み……フルドライヴとやらは……
……おそらくじゃが……現在のこの国の時間で……
……精々一時間の続き連なりのまわしが……
……限界じゃろう……
……なにもゆぅなわこぉておる……
……その後は強制的に眠りに入る……
……それに……
……童らには辛かろぅが……
……コン殿とポップ殿が傍に付いておる……
……童……娘……なにも心配するな……
……そして……
……それが悔しければ……
……成長して……
……共に楽になれ……
僕と君は、言葉もなく、ただ深くお辞儀する。
………………
…………
……
一連の流れを見ていてもハテナ顔の捧華。
「捧華? どこか変なのでしょうか?」
僕らの未熟が、
それを言わせてしまったね。
反省は必要だが、
引きずるなよ僕。
僕はテーブルからゆっくりと身体を伸ばし、
愛の……、……命に、
「最高のお医者様が、大丈夫、だってさ」
撫で撫で。
僕に真心と呼ばれるものが、
わずかにでも在るのなら、
全て伝えてやりたい。
よかった……本当に。
………………
…………
……
その夜、
自室に居ると、すぅ、と君が入ってきた。
手にはカバンを持って。
……う、うん……なんだか重そうな荷物が入っていそうです……。
「ゆ、……倖子君? きょ……今日は捧華の保健にお赤飯と、本当に、お疲れ様でした。……でも……、ほ……ほら? せめてノックはして欲しいかな?し……、親しき仲にも礼儀はね?」
君は淡々と、
任務を遂行してゆく様に、
窓をガッチリ施錠し、
押し入れを丹念に調べ上げて、
それから、
僕の前でカバンをガサゴソし、
ぼ……僕はか細く、
「ぃぃ加減にしろ許して下さぃ」
君は僕の覚える事のできる全てを
静止させる声音で、
「きっと私より、……ずうぅっと、お綺麗なんでしょうね? その……白無垢のお嬢様は?」
勝手に解った気になって
虫さんごめんなさい。
命を懸けても、
光明に縋って飛ぶしかない時は、
人にもあります。
「ちっ……違うよっ!? あのお方様は……」
「黙れよ?」
僕は即座に沈黙。
君はゆらぁりゆらぁり流れているのに、
何処かが外れ、壊れて見える。
「私……実家に帰らせていただきます」
嗚呼、こういうのなんて言うんだっけ、
そうそう、
くちはわざわいのもと。
おくちにチャック。
めがみさま、どうかおじひを。
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