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世界一美しい図書館へ | アイルランド留学日記 3

授業が始まる前の週、晴れとは言えない曇った日。

友人たちと一緒に、ダブリンのCity Centre(シティーセンター)を訪れた。ちなみに、私は最初「センター」と付いていたから、建物の名前のことかと思っていた。そうではなく、ダブリンの「中心」の地域を指すらしい。


お目当ては、留学前から絶対行くと決めていた場所。
Trinity College(トリニティ・カレッジ)のThe Long Room(図書館)と、そこにあるThe Book of Kells(ケルズの書)だ。

恥ずかしい話、留学先に決まるまで、アイルランドについて無知だった。
「アイルランド」「有名」とまあありきたりなキーワードで検索してみると、『ケルズの書』『世界一美しい図書館』という言葉が出てきた。

携帯に出てきた画像を見て、これは行っておかねば、と即決した。



図書館までは、大学の目の前にあるバス停から、ダブリンのシティバスで約20〜30分。大きな2階建てのバスがやって来たのを見て、心躍ったことを今でも覚えている。実際の乗り心地は揺れが大きく、少し車酔いしたが。

だが、このバスには滞在中何度もお世話になった。

バス停を降りると、すぐ目の前にお目当ての大学を見つけた。

私が通う大学は、どちらかと言えば日本の大学と少し似た造りをしていたが、トリニティ・カレッジはまさしくヨーロッパ調の建物だった。

到着した途端、とうとう小雨が降ってきた。


ネット購入はしていなかったため、少し長い列を並び窓口でチケットを購入した。

中に入ると、図書館と書物の前に、ケルズの書を紹介する展示場が広がっていた。

展示場の名前は、「Turning Darkness into Light(闇から光へ)」。


またもや恥ずかしい話だが、私は宗教やヨーロッパの文化にも疎かったため、展示物を見て初めて、ケルズの書がどういうものなのか理解した。なぜお前はヨーロッパに来たんだ、とつっこまれそうだが、とにかくその場は説明文を読みながら、展示を楽しんだ。

そしてそのまま扉を抜けると、目の前に本の空間が広がった。

本棚にアルファベットが刻まれている。
“J”はラテン語に存在しないため、ここにはない。
日の光が入って、神秘的な雰囲気。
ニュートンの胸像。他にも著名な科学者や数学者の胸像が展示されていた。


ケルズの書と図書館について、少しだけ紹介したい。

ケルズの書は、紀元後800年頃にキリスト教修道士によって作られた。
それ以前、4人の才ある使徒たちが生み出した福音が、時代を経て1つとなり、キリスト教の新約聖書が生まれた。ケルズの書では、この聖書の内容が、妖しげで美しい書体のラテン語と装飾で記されている。

図書館は、1712年から建築を始め、20年後の1732年に完成した。図書館の建築を手掛けたとされているThomas Burgh(トマス・バーグ)は1730年にこの世を去り、完成を見ることはなかった。蔵書数は20万冊を超えており、アイルランド共和国宣言の原本も保管されている。さらに、『サロメ』などで知られる作家のOscar Wilde(オスカー・ワイルド)や、『ドラキュラ』の産みの親である小説家のBram Stoker(ブラム・ストーカー)といった著名人たちも、かつてこの図書館で読書にいそしんだそうだ。


中央には、先述したケルズの書と、アイルランドのシンボルであるハープが展示されていた。

残念ながら見物人が多すぎて写真は撮れなかったが、それでもその美しさと荘厳さを感じることができた。


帰り道、図書館の美しさを友人たちと話しながら、密かに私の思いは変化していた。

これまで、「未知であることは恥」という考えを、心のどこかで持っていた。だから、自分から調べることを意識はしていたが、自分が「未知」という事実を認めたくなくて、逃げてしまいたい、と思う時があった。

だが、アイルランドの歴史と文化を改めて目の当たりにしたことで、自分の知らないことが思ってるよりずっと多くあることを一気に実感していた。「知る」ことに充実感を見出していた。
そして、「これだけ知らないことばかりなんだから、少しずつ知っていくで良いんじゃないか。」と、ある種の開き直りができた。

展示場の名のように、私の心にあった未知への不安という闇が、知ることができる可能性という光に変わった。この場所への訪れは、そんな特別な経験となった。

(上写真: 図書館の本。)

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