波乱の留学スタート | アイルランド留学日記 1
3年前の9月14日朝10時過ぎ。
日本の関西国際空港から、香港を経由しておよそ17時間後。私の足がアイルランドの地についた。
外国語専門の大学に通っていた私は、大学のプログラムを利用して派遣留学を申請した。4年生秋学期、卒業論文を引っ提げての留学。
周囲からは、「大学生最後の遊べる年に、まだ勉強するのか」と半ば呆れられた。だが、私にとって留学は、4年間の外国語の勉強が今こそ活かされる、言わばご褒美だった。
期待を持ちながら飛行機を降りた瞬間、一気に足が冷えるのを感じた。
日本の9月はまだ気温が夏並みなのに対し、アイルランドの9月は最高で17℃ほど。到着した朝方だと15℃を切る。
そんな環境で日本から来た私の格好は、薄いデニム生地の膝上ワンピースに素足。
あほだ。自分あほだ。何で素足で大丈夫と思った。
寒さに耐えながら、空港出口で迎えに来てくれていた現地の大学スタッフと合流した。
『Good morning! How are you?
(おはよう!調子はどう?)』
「Good morning! I’m okay, but it’s very cold!
(おはよう、まあまあかな、だけどめっちゃ寒いね)」
『You look cold! (寒そう!)』
その通りだ。
他国からの留学生と大学行きのバスまで歩きながら、ずっと震えていた。寒すぎて終始無言となってしまったのが、今となっては少し悔やまれる。
大学に到着すると、まず学生寮に入る手続きをしに受付へ向かった。留学準備中、大学敷地内の学生寮に応募するのが最も大変だったことを少し思い出した。ホームステイという選択肢もあったが、料金が割高だったのと、ステイ先が大学から少し遠かったため学生寮にした。ただ、その分競争率は高く、何度もパソコンとにらめっこして空き状況を確認し勝ち獲った。
他の中国人留学生から中国人に間違えられるというハプニングはあったが、何とか手続きを終えた(この話はまた他の記事でも触れようと思う)。寮の番号と自分の部屋のカードキーを受け取り部屋へ向かった。日は高くなっていたが、相変わらず寒かった。
重いスーツケース2つを引きずりながら、3階まで階段を上がった。何故エレベーターがないのだろう。どうにか上りきり、自分の番号の部屋の鍵を開けた。ギーッという、まるで幽霊が開けているような音がなり、ワンルームの部屋が見えた。
荷物を置き椅子に座り込むと、一気に疲労感が襲ってきた。機内食としてもらった月餅がかばんにあることを思い出し、取り出した。そうか、日本を発った時は中秋の名月だった。だから月餅か。回らない頭でぼんやりと思いながら、一口かじった。
そういえば、もう丸一日お風呂に入っていない。頭も気持ち悪いし、まずお風呂に入ってしまうことにした。思っていたより固かった月餅を飲み込み、スーツケースからタオルやら持ってきていたシャンプーやらを発掘した。
初めて浴びるシャワーの強圧との戦いを終え、シャワールームから出るともう夕日が出ていた。流石にバスマットは日本から持ってきていなかった。明日にでも買ってこよう。
濡れた髪を拭いていると、外から微かに声が聞こえた。他の部屋の住人だろうか。
突然、部屋中にドンドンと大きな音が響いた。思わず、え、と声が出る。誰かが部屋のドアを叩いたのだ。
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