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40代エンジニアが結婚や父親との別れを経験し、生き方を見つめ直したら、投資はどう変化したか

少しずつ長期でじっくり投資に取り組む人たち(コツコツ投資家)がふえてきています。今回は会社員の安随晋太郎さん(44歳)にお話をうかがいました。

安随さんは私が8年前に書いた『臆病な人でもうまくいく投資法ーお金の悩みから解放された11人の投信投資家の話』にも登場してくれた男性のおひとり。

当時は独身で、忙しい仕事の合間をぬって旅行に行ったり、本を読んだり、映画を観たりと、趣味を楽しんでいた姿が印象的でした。

あらためて、投資をはじめてからの紆余曲折や、結婚などを経て、運用スタイルがどう変わったのか、あるいは変わっていないのかなど、神奈川の私鉄沿線にある珈琲店でお話を聞きました。


大学時代にお茶の先生にすすめられて

――改めて安隨さんが投資を始めようと思った「 きっかけ」 を教えてください。

安随:大学時代に茶道部だったのですが、顧問の先生から株式投資をすすめられたのがきっかけです。その先生が当時IPO(新規公開株)にご執心で…。先生に連れられて、大手証券会社にいくつか口座を開設しました。

今考えたら、仮免許の素人に、いきなり海外の道路を走らせるくらい無謀な行為だと思いますけどね(苦笑)。

――それで実際に投資してみたわけですか。

安随 はい。アルバイト代から何とか9万円を捻出して、新興のソフトウエアの会社の株を買いました。一時は30倍まで値上がりしましたが、当時は電話取引で売り方がよくわからず、時間がかかってしまい、結局10倍ほどの値段で売却しました。まあ、それなりには増えました。

当初5年は軸が定まらず、値動きに一喜一憂

――その後はどういう投資スタイルになったのですか。

安随:大学院、社会人と進み、お茶の先生との接点はなくなりましたが、そのあとも、誰かから「これが儲かる」と言われたら、その会社の株を買ってみたり、まわりでFX(外国為替証拠金取引)が流行りだしたら、FXをやってみたり。

当時は本当に右も左もわからなくて…。最初はお茶の先生からIPOを教えられただけで、証券会社も自分で選んだわけではないですし。

ちゃんと勉強しなかったので当然ですが、FXはマイナスになったり、個別株投資でも結局お金はあまりふえませんでした。

金銭的な損はそれほど大きくはなかったのですが、常に上がったか、下がったかを気にして、すごく時間的なコストがかかっていたような気がします。それが投資スタイルを変えようとするきっかけになりました。

短期集中投資から長期分散投資へ

――ふわふわしている状態から方針が固まってきたのはいつからですか。

安随:2010年前後ですね。短期で「10万円儲かった」「10万円損した」などと一喜一憂するのではなく、長期的な視点で資産形成をしていかないといけないのだと思い直しました。

まずはいろんな本を読みました。例えば、チャールズ・エリスさんの『敗者のゲーム』などを読んで、金融商品は投資信託を中心に据えようと決めました。

国内だと、FP(ファイナンシャルプランナー)のカン・チュンドさん、山崎元さん、橘玲さん、あと竹川さんの本も読みましたよ。

――ありがとうございます(笑)

安随:FP相談も利用しました。複数のFPに相談しましたが、中には大手証券会社の証券仲介をしている人もいて、手数料の高い投資信託をすすめられたりもしました…。近所で相談できる人をネットで検索したのですが、やはりテキトーに選んだ人はだめですね(苦笑)。相談するなら、事前に調べることが大事です。

例えば、駅の近くにオフィス(相談スペース)を確保しているか、本を出しているか、出していなくてもホームページやブログなどで、自分の考えや方針を発信している人(会社)かどうかはひとつの目安になると思います。

要はきちんとお客さんと向き合って、長くビジネスを続けようとしているかどうかは見たほうがよいですね。

――書籍を読んだり、FP相談に行ったりする中で、投資信託の積み立てを中心に据えようと考えるにいたったわけですね。

安随:はい。一番参考にしたのはカン・チュンドさん。本を読んで、セミナーに参加し、コンサルティングも受けました。そして、インデックスファンドを組み合わせて、給与振込口座から自動的に積み立てを行うシンプルな方法を実践することにしました。

これならストレスなく投資が続けられそうだと思ったからです。

――2016年の時点では、ネット証券に口座を開設し、株式70%、債券20%、現金10%という配分で運用されていましたが、現在はどうですか。

安随:さらに株式の比率が上がっています。債券の比率は今は5%程度で、残りは株式ですね。

新規で積み立てている分は、国内株式30%、先進国株式40%、新興国株式30%の配分にしていて、すべてインデックスファンドを積み立てています。債券は新規に購入していないので、金融資産全体でみるとどんどん割合が下がっています。

商品はすべてeMAXIS Slim(イーマクシス・スリム)シリーズです。インデックスファンドは手数料と、途中で繰上償還されないように、残高の推移などはみています。

毎月のお給料から積み立てを行い、ボーナスの一部を証券口座にプールしておいて、コロナショックのようなことがあれば、一括で投資するようにしています。

ただ、欲がでると、タイミングを意識してしまうので、よほど自信を持てる時以外は逆に買わないようにしています。

安随さんが積み立てている投資信託
・eMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)
・eMAXIS Slim 先進国株式インデックス
・eMAXIS Slim 新興国株式インデックス
 (すべて三菱UFJアセットマネジメント)

――自分で複数の投信を組み合わせているんですね。

安随:若気の至りですよね。20代、30代と個別株を買っていたのもあるし、インデックス投資って退屈じゃないですか。自分で自分の配分を決めたい、カスタマイズしたいと思ってしまいました(笑)。

奥さんは面倒くさい、ということで全世界株式に投資するインデックスファンド1本を積み立てています。

――今積み立てている分は株式100%なんですね。

安随:そこはいろんな意見があるので、悩みました。ただ、会社員員生活が長くなり、仕事を続ける中で、社会に価値を生み出す活動に多少なりとも関わっているわけで…。株式投資ってまさにそういうことですよね。

要は会社を応援してその会社が新しい価値を生み出す、ということを考えると、(他の金融資産より)株式に投資したほうがより次の世代につながっていく気がして…。サラリーマン人生を通じて、株式に対する興味が高まった、ということかもしれません。

中国四川省に出張した時の写真。 現地で聞く不動産投資や景気の話も、世界に投資していることで自分ごととして感じるようになった

――2008年のリーマン・ショックの時にはもう投資されていましたよね。怖くなってやめようとは思いませんでしたか。

安随:怖くなって売ったりすることは特にありませんでした。もともと値下がりしても耐えられる性格だったのか、あとは行動心理学など、人間の気持ちに関する本を読んでいたので、大きく下がったときでも耐えられたのかもしれません。

そのときの経験から、ポートフォリオのうち、株式に投資する投資信託が大部分を占めていても大丈夫だと思っています。

コロナショックの時には、投資経験も長くなっていたので、逆にバーゲンだと考えて追加投資もしました。リーマン・ショックの時はそこまでの余裕はなく、「とりあえず売らずにすんだ」というレベルでした。

市場に居続けること

――ここまで投資を続けてこられたのはなぜだと思いますか。

安随:わかりやすさは意識しています。エンジニアに多いんですけど、とことん高みを目指したくなるタイプです。ポートフォリオの比率もリスクを計算して1%単位で考えて、変更したくなったり(苦笑)。 

でも、語弊があるかもしれませんが、続けるために「簡単でないといけない」と考えていて、馬鹿がつくほど簡単にするというのが自分のポリシーです。

100点を取れなくてもいい。70点でいいから、簡単・シンプルな方法を選んで、市場に長く居続けること。これが自分みたいな性格の人間には合っているのかな、と思います。

ここまで続けてくると、「マーケットからおりない」ことがすごく大事だと実感しますね。一時期、引っ越しなどもあって生活スタイルが変わって落ち着かない状況になり、投資が止まりそうになった時がありましたが、細々とでも続けてきてよかったと思います。

――まさにチャールズ・エリスさんのいう「Stay in the market」ですね。7年前にご結婚されて、変わったことはありますか。

安随 今は原則、奥さんの収入はすべて投資に回しています。厳密に言うと、一部を生活費に回すこともありますが…。自分の収入は生活費を差し引いて、(できれば月10万円くらい)投資に回すことを目標にしています。

そこに行き着くまでに紆余曲折があって、奥さんを資産運用のセミナーに誘って一緒に行ったりもしたのですが、「言っていることはわかるし、お金もふやしたい。だけど、そこに自分の時間を使いたくない」と言われてしまいました(苦笑)。結局、私が家庭の投資方針を決める担当になりました。

セカンドキャリアについて

――運用スタイルは変わることなく、投資信託の積み立てを続けているのですか。

安随:運用スタイルについては変わってないですね。今考えているのはセカンドキャリアについて。今の仕事を早めに引退して、もう少しゆとりを持って家族と暮らしながら、仕事をするのもありかな、と思い始めました。

きっかけは結婚と父の死です。父は60代で亡くなったのですが、昭和の人で、仕事一辺倒で生きてきて、最期に「家族と会えたのは幸せだったけど、仕事はつらかった」と口にしました。

それを聞いて、少しギアを落としたような生き方を考えるようになりました。自分が死ぬ時に、どういう働き方、暮らし方をしていたら、最も満足度が高いのだろう、と。

これまでずっと投資信託の積み立てをして、資産を積み上げてきたわけですが、積み立ての終わりを意識し始めるようになってきた、という感じです。60歳くらいを想定していた出口(積み上げてきた資産を取り時期)を少し早めようと思っています。

仕事についても、これまでの経験を活かして、社会に貢献できること考えていきたいですね。金融資産が積み上がってきたので、金銭面はあまり気にせずに長く続けられる、やりたいことを探したいです。

生き方に合わせて運用も変えていく

――具体的に運用をどう変えていこうというプランはあるのですか。

安随:今、投資を始めて、悩んでいた頃と同じでふわふわした状態です。50代から個別株で配当受け取るのか、投資信託を定期的に取り崩していくのかなど、いろいろ本を読んで、考えている段階ですね。

早期リタイアについてもさまざまな本を読んでいます。例えばアメリカの事例ですが、配当金をもらって、ずっと海外を回って旅行しながら暮らしている人などもいて、色んな人がいるなあ、と。それを奥さんに言ったら、「私は働きたいから嫌だ」と言われて、じゃあその案はだめか、と(笑)。

年1回ホテルで予算会議

――その辺りはおふたりの価値観が問われるところですね。私も適度なところで仕事を辞めたいなあ、と思う一方、米バークシャーのC・マンガーさんのように99歳まで現役で働いて天に召されるのもよいなあ、と思ったり。ご夫婦でよくお金の話はされるのですか。

安随:年に1回、夫婦で予算会議をしています。1年の収入に対して、生活費の項目ごとに予算を立てたり、投資に回せる金額を見積もったり。自分は投資の本は生活費から出したいのに、奥さんは「それはあなたの趣味だから、小遣いでしょ」と却下されたり(苦笑)。

予算会議をする時は都内のいいホテルに宿泊することにしています。リラックスと実益を兼ねて。以前は自宅でやっていたのですが、喧嘩になるんですよ(苦笑)。お互いお金に対する価値観も違うし、使い方も違いますから。

リラックスした場所で、そのあと美味しいディナーを食べにいこう、という楽しみをプラスしたことで、お互いに穏やかな気持ちで話もできます。「投資の金額をふやしたい」という話も交渉しやすくなります(笑)。ざっと1年の反省会もやりますよ。

――お住まいは賃貸ですか。

安随 賃貸です。資産のうち多くを不動産が占めるのはどうかと思いますし、かといって不動産の割合が全資産の30%におさまる、というのもなかなか達成できないですし。また、コロナのようなことを経験するとライフスタイルも変わるし、自分の価値観が変わることもありますからね。

コロナの時は完全リモートワークになったので、いい機会だと思い、今まで住んだことない郊外に引っ越しました。ところが、出社が半年に1回になり、3カ月に1回になり、1カ月に1回になり、そのうち1週間に1回となったあたりから、片道2時間半かけて会社に通うのはさすがに耐えられなくなって、会社に近いところに戻りました。

最終的には実家(兵庫県)の近くで買うか、祖母たちが住んでいる家があるので、将来自分たちが買い取るようなことも考えています。

――投資以外でお金の使い方でこだわりはありますか。

安随:スペックなどはすごく調べますね。最近は買うものが高くなったので、そこまでやりませんが、値段×1万円の回数見に行く。例えば、5万円のものを買うときは売り場に5回確認しにいく、みたいな。友達には見に行く時間のコストのほうが高いだろう、と言われますが、納得感を得たいので。自分なりの謎のこだわりです(笑)。

お金を使える時期にも限りがある

――投資を始めたことで、投資以外のリターンを何か得られましたか。

安随:生き方にすごく影響してると思います。投資をすることによって、いろんなものに興味を持つなど、自分の世界が広がりました。

会社で仕事をしていても、自分がその中の労働者として働くという視点と、自分が投資家だったらっていう視点で全然見るものが違ってくると思いますしね。

あと金銭的な余裕はできました。この会社で無理に働かなくても食べていける、と思えることは、心の安心感や余裕を生み出す源泉になっています。

2022年 埼玉の角川武蔵野ミュージアム(ゴッホ展)にて。お金、健康、教養などバランスよい生活を送ることを心がけている

――ゴールはどこにおいていますか。

安随:保有する金融資産から入ってくるインカムで家族を養えるぐらいになる、というのがひとつのゴールなのかな、と。

ただ、絶対達成しようっていうよりは、そこに向けて無理せずやっていく感じです。すごく切り詰めて、早い段階で2億円貯めました、リタイアしました、という人もいますが、そこまでは目指していないです。

家族との日々や自分の人生を楽しむための構成要素として健康や愛情があって、そのうちのひとつとしてお金もある、という感じでしょうか。

最近、母と話していたら、「旅行に行けるのは70代まで。80代になると行くのもしんどい」と言われました。今まではお金を「使いたい」と思っていましたが、お金を「使うことができる」時期にも限りがあるんだな、と。それを考えた上で、資産運用やポートフォリオ(資産配分)などを考えないといけないな、と思うようになりました。

生きていくためのお金と、楽しむための金にどう振り向けるかを意識しながら、自分の運用を考えていくことがこれからのテーマです。

編集後記

安随さんとは8年ぶりにお会いしました。その間、出会いや別れを通して、これからのキャリアや暮らし方、そして、それに沿った運用のあり方について、模索しているところだと、率直な胸のうちを語ってくれました。

安随さんのお話をうかがい、自分の人生を考えて主体的に生きること。そのひとつとして、生活設計を考えること。その中で投資を組み入れていく、という順番なのだと改めて感じました。

記事では触れませんでしたが、安随さんも、『金融危機をきっかけに、22歳の会社員が投資を15年続けたら「ある気持ち」が芽生えた話』で取り上げたセロンさんと同様、「投資方針書」を作っています。

会社で企業型確定拠出年金が導入された時や結婚した時など、これまでに5回改訂したそうです。生きていると、ライフスタイルや価値観が大きく変わることもあるでしょう。投資方針や目標、商品選択などが変わる可能性もあります。

その場合は、それに合わせて柔軟に修正をしていけばよいと思います。長期的に、投資スタイルも、ご自身のめざす生き方、ライフスタイル、価値観と合致したものになっていくとよいですね。
 
「投資方針書」は目的や行くべき方向を定めた「道しるべ」です(おこづかい稼ぎ程度に短期売買をするだけなら、特に必要ありません)。人生を通し長期で運用を行い、金融資産をできるだけ安定的に増やしたい、リスクを管理していきたいという人にとってはこうした投資方針書はかたわらに置いておきたい存在です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました! 今後もコツコツ投資家さんへのインタビュー続けていく予定です(毎月第2、第4金曜日更新予定)。ご意見・感想などがありましたら、お寄せください。取り入れていきたいと思います。

いただいたサポートは取材に協力してくださる投資家さんへのお土産と、遠くに住む方に会いにいくときの移動代に充てたいと思います。あちこち飛んでいきたい!