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金融危機をきっかけに、22歳の会社員が投資を15年続けたら「ある気持ち」が芽生えた話

少しずつ長期でじっくり投資に取り組む人たち(コツコツ投資)がふえてきています。彼・彼女たちはなぜ投資を始めようと思ったのか、どうやって投資のハードルを飛び越えたのか、生活の中でどのように投資をとりいれているか、投資をして何が変わったのか――その姿をリポートします。

今回は「22歳からの貯蓄学」というブログを運営するセロンさん(36歳)のストーリー。セロンさんと最初に会ったのは15年近く前。当時、東京・六本木で毎月1回開催していた『コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ(東京)』に参加してくれたのがご縁です。コツコツ~というのは投資家のrennyさんや「投資信託事情」編集長と私が主宰していた交流会です。

当時、セロンさんは社会人になったばかりの22歳でしたが、すでに積み立て投資を始めていて、私を含め参加者全員が驚いたことを今でも覚えています。

きっかけは将来への不安、恐怖

――セロンさんが投資を始めたきっかけを教えてください。

セロン:投資に興味を持ったのは大学1年生の時(2006年)に大学の図書館で偶然ロバート・キヨサキ氏の『金持ち父さん貧乏父さん』を読んだことです。ただ、その時は大学に入ったばかりでお金もないし、サークル活動などやりたいこともたくさんあったので、行動にはうつしませんでした。

その後、投資を始めるきっかけになったのは大学3年の時に起きたリーマン・ショック(米国の投資銀行リーマン・ブラザースが破綻し、世界的な金融危機となり、日本をはじめ世界的に株が暴落するという出来事)です。

大学3年の秋から就職活動がスタートしましたが、就職説明会では出展する企業が前年に比べて激減し、景気の悪化を肌で感じました。

自分は本当に就職できるのだろうか、仮に就職できたとしてもこれからその後の人生はどうなるんだろう…。その危機感、もっというと恐怖心から『自分で何とかするしかない』と思いました。

――最初にどんな行動をしましたか。

セロン:投資=株というイメージだったので、最初は個別株に投資しましたが、あまり深く考えずに買ったので、うまくいきませんでした。

その後、本格的に投資の勉強をしようと思ったのは就職活動を終えた2009年の4月。九州の大学に通っていたため、当時は地元で投資に関するセミナーなどはなく、インターネットと本で情報収集を始めました。

自分は性格的に面倒くさがりやなので、短期で売買するスタイルや頻繁にメンテナンスするようなものは合わないし、やっても挫折すると思いました。

インデックス投資との出会い

自分の性格を踏まえて情報収集しているうちに出会ったのがインデックス投資です。あまり手間をかけなくてよさそうだし、コストも低いし、指数に連動するのでわかりやすい。自分の性格に合っているのではないかと思い、そこからインデックス投資について調べ始めました。

――インデックス投資を始めるにあたって参考にした本やサイトなどはありますか。

セロン:資産配分については岡本和久さんの『30歳からはじめる「品格のあるお金持ち」になれる資産形成マニュアル』(総合法令出版)という本を参考にしました。

その後、GPIF(=年金積立金管理運用独立行政法人。公的年金の積立金の運用を担っている)の資産配分を参考にしたり、インデックスファンドにはどういった商品があるのかなどを調べてみたり…。

投資方針書をブログで公開

そして、岡本さんの本で紹介されていた「投資方針書」を作成して、ブログで公開しました。投資方針書というのは投資の目的や投資方針、具体的な行動指針などをまとめたものです(結婚して家族構成が変わったこともあり、2018年にアップデート)。

セロンさんの投資方針書(2018年版)
1.目的:その他の自分が行う投資が全て失敗したとしても、老後を安心して暮らせることを目的とする。
2.資本市場の前提:国内株式の期待リターンは4.8%、国外株式の期待リターンは5.0%、国内債券の期待リターンは3.0%、国外債券の期待リターンは3.5%とする。(GPIF・年金積立金管理運用独立行政法人の試算より)
3.ポートフォリオ:上記の前提に基づいて、ポートフォリオは「国内株式:国外株式:国内債券:国外債券」の比率を「35:35:15:15」(合計で100)とする。期待されるリターンは5%。リスクは13%。
3分の2の確率でリターンは-8~18%となる。
4.投資額及び目標の資産額:22歳時点での保有資産額 0円。
年間積立投資額 100万円以上(月々7万円+ボーナス時に加算)。
65歳時点での目標資産額 6000万円。
5.銘柄選択:原則として投資信託を用いる。ただし国内債券については変動国債を用いる。
6.モニタリング:モニタリングは四半期ごとに行う。期中の追加投資は月次で自動積み立てを行う。半期に1度はリバランスを行い、試算配分の調整を行う。なお、配分比率が上下5%以上になった際にもリバランスを行い、それ以下は許容する。
7.投資方針の変更:資産の2割以上に影響を与える環境の変化があった場合は投資方針を再点検する。また、期待リターンが4%以下でも目標資産額の達成が可能と判断した場合にも投資方針を見直す。

社会人になって積み立て投資をスタート

――大学時代はお試しでいくつか投資信託を買ってみた、というお話でしたが、インデックスファンドの積み立てを始めたのはいつからですか?

セロン:2010年4月に就職し、定期的にお給料がもらえるようになってからですね。ネット証券に口座を開設して、投資信託の積み立てを始めました。

当初は毎月のお給料の中から投資に4万円を振り向け、入社3年目からお給料が増えたので、投資4万円に、貯蓄の2万円を追加し、ボーナスの一部も積み立て投資に充てました。

積み立てたのは日本株式、先進国株式、新興国株式、先進国債券のインデックスファンドです。日本債券クラスは定期的に個人向け国債(変動10)を購入しています。資産配分については「投資方針書」に記したとおりです(下図)。

入社3年目からiDeCo(個人型確定拠出年金)に加入できるようになったので、積み立ての一部をiDeCoで行うようにしました。

iDeCoは掛金が全額所得控除の対象になるので、所得税や住民税が減る効果がありますから。原則60歳まで引き出せませんが、私の場合、投資の目的は老後に向けた資産形成でしたから、デメリットとは感じませんでした。

数年前に会社が企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)を導入したので、iDeCoで運用してきた資産はすべて企業型DCに移しました。企業型DCについても、NISA口座と同じ資産配分にして、4本のインデックスファンドを買い付けています。

結婚を機に投資方針書をアップデート

――現在の投資状況について教えてください。その後、結婚して、お子さんも生まれましたよね。何か変化はありましたか。

セロン:結婚した時、お互いにお金が手元にあると使ってしまうタイプなので、貯蓄や投資に回す分は先に積み立てて、残りで生活をすることにしました。

現在は、私の投資金額は月7万円、貯蓄額が月6万円。奥さんは毎月の投資額が1万円、貯蓄が月3万円という感じです。奥さんはいま時短勤務なので、生活費や積立額は収入のバランスなどを考えて決めています。

数年前に家を購入し、住宅ローンを払い始めていますが、給与がふえた分と、積み立てる貯金額を減らすことで調整し、私が毎月積み立て投資に回す金額は同額を維持しています。

投資はNISA口座(一般NISA)を利用し、毎月4本のインデックスファンドをクレジットカードで積み立てています。今はクレジットカードで積み立てできるのが月5万円までなので、それを超える分は住信SBIネット銀行に入金しています。ボーナスなどでアクティブ投信を購入することもあります。

セロンさんが保有する投資信託
◆毎月積み立て
・<購入・換金手数料なし>ニッセイTOPIXインデックス(ニッセイアセットマネジメント)
・<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックス
・eMAXIS Slim 新興国株式インデックス(三菱UFJアセットマネジメント)
・<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国債券インデックス

◆ボーナス時などにスポット購入
・結い2101(鎌倉投信)
・コモンズ30ファンド(コモンズ投信)

最近は、各社が新しい商品を出してきているので、タイミングを見て再考しようかとも思いますが、今のところは2024年もこのままいくつもりです。

毎月の積み立てに関してはインデックスファンドをNISA口座の「つみたて投資枠」で積み立てていき、特定口座で保有している投信や一般NISAの非課税期間が終了したものは順次売却した上で、同額を「成長投資枠」で投資していこうと思っています。

投資信託を選ぶ基準は?

――セロンさんが投資信託を選ぶときの基準はどこにおいていますか。

セロン:インデックスファンドについてはコストに加え、長く付き合うに値する商品か、信頼できる運用会社かという点も重視しています。

残高推移やトラッキングエラー(目標とする指数に対する乖離度合いのこと)にこだわっている人もいますが、私はどちらかというと運用会社の姿勢やコミュニケーションなども含めて総合的に判断しています。

具体的には、流行りに乗って新商品をバンバン出していく、ということはせず、既存のお客さんを大切にするかどうかはみていますね。

アクティブファンドは投資理念に共感できるものや、情報収集の一環として保有しています。

選び方は難しいですが、単純にアクティブリターンを得る、ではなく、社会の課題を解決したいなど、もう少し長い目で(社会に)プラスになるような投信や、ファンドマネージャーが企業を選ぶ基準やプロセスを丁寧に説明している投信ががいいと思って投資しています。

個人投資家とコミュニケーションを取るなど、顔がみえる運用をしている投信は面白いと思いますね。

――ちなみに、奥さまはどんなふうに投資しているのですか?

セロン:奥さんはiDeCoを利用して、毎月1万円投信を積み立てています。結婚当初は投資を怖がっていましたが、当時、私がiDeCoに加入していたので、iDeCoの還付金を見て興味を持ち始めたようです(iDeCoの掛金は全額所得控除されるので、銀行口座からの自動振替にしている人は年末調整の時に証明書を提出すると所得税が戻る)。

そこで、私がベーシックな資産、国内株式や海外株式、国内債券、海外債券の話から始め、投資先や資産を分散することでリスクをコントロールする話をすると腑に落ちたようで、自分もiDeCoの口座を開設し、現在はバランス型の投信を購入しています。

といっても、値動きが大きいのは苦手なので、「債券70%+株式30%」というかなり保守的なバランス型投信にしています。

2024年からの新NISAでは、手元にある余剰資金(預貯金)でバランス型投信を買う予定で、こちらは「eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)」という商品を考えているようです。成長投資枠で購入してそのまま長期で保有、というかたちになるのではないかと。

お子さんの教育資金

――お子さんのために「ジュニアNISA口座」も開設していましたよね。ジュニアNISAは2023年で廃止になりますが、このあと教育資金はどのように準備していく予定ですか。

セロン:2023年まではジュニアNISA口座で投資信託を積み立てていき、2024年以降はSBI証券の未成年口座(特定口座=課税口座)で、引き続き投信を積み立てていくつもりです。

経済合理性で考えれば、利益が非課税になる親のNISA口座で投資したほうがよいのでしょうが、将来の子供の教育などを考えた時に、「自分のお金だよ」ということを意識してもらいたくて、子供名義の口座にこだわりました。

児童手当やお年玉などは手をつけずに貯蓄し、余裕資金(年間20万円)で運用しています。

子供の成長を見守りたい

――お子さんが小さいうちは、親であるセロンさんがある程度運用方針を決めて、大人になったら、お子さんに引き継いで自分で運用してね、ということですね。

そうですね。君の口座だしね、と(笑)。ジュニアNISA口座では3本の投資信託を保有しています。ベースとして全世界の株に投資する”オルカン”があって(80%)、残り10%ずつは2本のアクティブファンドを購入しています。

投資信託は個別企業の株が投資対象になっていて、自分のお金が(投信を通して)そうした企業に投資されて、お金・社会が回っていくんだよ、ということも意識してもらいたいなと思って。それでアクティブファンドも入れています。

私の毎月の貯蓄6万円のうち2万円は教育費用と考えているので、貯蓄でも教育資金の準備はしています。必要になったときに、その時の相場状況などをみて、投信を解約するか、貯蓄を多めに充てるかなどは検討したいと思います。

【ジュニアNISA口座】で保有する投資信託
・eMAXIS Slim 全世界株式<オール・カントリー>(三菱UFJアセットマネジメント)
・農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね(農林中金全共連アセットマネジメント)
・ひふみプラス(レオス・キャピタルワークス)

――まだお子さんが小さいから、「おおぶね」の毎月の運用報告会(メンバーズ・カンファレンス)を一緒に聴いたり、年次総会に行ったりはしていないんですよね。

まだ行けていないですね。自分が保有している「結い2101」の受益者総会なども参加したいのですが…。子供がもう少し成長して、一緒に行く機会があれば、参加してみたいですね。

投資にどのくらい時間を充てているか

――仕事や子育てで忙しいと思いますが、投資にはどのくらいの時間を充てていますか。

セロン:日常生活ではほぼゼロですね。今はクレジットカード積み立てが月額5万円までなので、時間を使うのは5万円を超えて積み立てる分を住信SBIネット銀行に入金する時くらいです。あとはボーナスを受け取った時に資産残高や資産配分のチェック(必要があれば調整)をする程度でしょうか。

積み立て投資がよいのは、投資以外の時間が確保できることですね。今、子供にめちゃくちゃ時間がかかります。朝起きて、ご飯を食べさせて、着替えさせて、保育園の送迎をしたり…毎日大変。

正直、去年までは、平日子供が寝た後も夜11時くらいまで自分も奥さんも全力で家事をしないと家が回らない状態でした。そんな状況でも投資し続ける仕組みを先に作っておいてよかったと思います。

――当初は将来への不安から投資を始めようと思ったわけですよね。投資を始めて価格変動に慣れるのにどのくらい時間がかかりましたか。どうしたら怖くなくなりましたか。

セロン:15年投資を続けていても、大きな価格変動、とくに下落局面は今でも怖いです。2020年のコロナショックの時には資産残高が一時的に3割程度急減し、あまりの下落の速さに気持ちが追い付かず、かなり怖い思いをしました。

そうした時は「投資方針書」を見返して投資を始めたときの気持ちや過去の歴史(相場はなんども危機を迎え、そして復活してきた)を思い出して、気持ちが落ち着くように努めました。

家族との対話、お金の使い方

――家族やお友だちとお金の話をすることはありますか。

セロン:友人や職場の同僚とはほぼしないですね。妻とは予算を決めて家計のやり繰りをしているので、その辺りの話はよくしています。2人とも給料日が同じなので、前日が1カ月の締め日。「今月は使いすぎたから外食はもう控えないとね」とか(笑)。

あと、年に1~2回は投信保有額や貯金額の話をするので、その時には世帯全体の金額を確認したりしています。

――投資以外に、お金の使い方で何かこだわりはありますか。

セロン:そうですね。よいコンテンツにはちゃんと対価を支払いたい、と思ってます。面白いと思った漫画やアニメはちゃんと買って対価を支払うべきだ、という想いでお金を払ってます。

あと、自分でも創作活動をするようになったので、スペックなども含め、PCには少しこだわりがあるかもしれません。創作活動はこの4、5年で始めるようになりました。前々からやってみたいと思っていたのですが、奥さんから同人誌を「1回作ってみたら」と言われて、夏コミ(8月に開催されるコミックマーケット)に申し込むことに。参加したら、創作の面白さや大変さも含めてわかってきたので。

コミケに出展。同人誌の制作・販売にも挑戦!

投資してよかったこと

――改めて投資をしてきてよかったと思いますか。投資以外に何かリターンを得られましたか?

セロン:曲がりなりにも15年投資を続けてきてよかったと思いますね。「自分の人生(自分で)何とかしなきゃ」という危機感で投資を始めたわけですが、時間の経過とともにそれなりに金融資産もふえて、だいぶ心に余裕ができました。一方で、子供や住宅など支えるものも大きくなりましたが(笑)。
ある程度先が見え始めたことで、最低限の生活を守る、ということ以外にも目を向けられる余裕がでてました。例えば、投資でも(インデックスファンドに加えて)アクティブファンドも買ってみようと思ったり。

新しい分野に興味が湧いて、こんなことをやってみたいという気持ち、プライベートや仕事で新しいことに挑戦してみようかな、という気持ちが芽生えました。それって生活を豊かにしていく上で、とてもいいことなんじゃないか、と思うんです。

――ゴールはどこにおいていますか。

セロン:金融資産という意味では、「投資方針書」にも書いたように6000万を世帯で確保するのが目標です。物価高が続くようなら、見直しが必要かもしれませんが…。

ただ、全体的な話で言うと、家族で幸せに生きていきたいです。まずは子供の成長をちゃんと見届けたい、という想いがありますね。


編集後記

言葉の端々にご家族への想いがあふれている、優しいセロンさんでした。お話をうかがって改めて感じたのは、ざっくりとでもいいので、投資を始めるときには目的や運用方針などをまとめた「投資方針書」は作っておいたほうがよいということ。

投資を始めると、最初はどうじても価格の変動が気になります。セロンさんはコロナショックの時の話をしてくれましたが、アベノミクスで株価が急上昇したときも不安になり、一部売ることも頭に浮かんだそうです。

しかし、「投資方針書」に記載した行動指針に従おうと考えて、結果的に売らずにすみました。ルールを決めて、不安になった時には読み返すものがあると冷静になれます。

また、セロンさんのように、状況が変わったときにはアップデートするとよいでしょう。投資方針書以外でも、自分なりのより所(書籍など)があると、原点に立ち戻ることができます。

個人的にはお金の行き先(投資先の企業など)を意識したり、情報交換できる仲間をつくったりすることも投資を続けていく上では有効だと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました! 今後もコツコツ投資家さんへのインタビュー続けていく予定です。ご意見・感想などがありましたら、お寄せください。取り入れていきたいと思います。

いただいたサポートは取材に協力してくださる投資家さんへのお土産と、遠くに住む方に会いにいくときの移動代に充てたいと思います。あちこち飛んでいきたい!