投資信託こそ、もっとIR!?
#裏IR系AC 23日目を担当します、LIFE MAP 合同会社の竹川美奈子です。GA technologies(3491)のIRご担当、渡辺聡子さんからバトンを受け取りました(渡辺さんとは直接お目にかかったことがあるので、嬉しいです!)。
今日は視点を変えて、投資信託のIRという観点からお話したいと思います。
個人が株式に投資しようと思った場合、
・個別の会社の株に投資する
・投資信託を通して会社の株に投資する
というふたつの選択肢があります。後者の場合、株主総会に参加したり、議決権行使をしたりはできず、投信を通じて、会社の株を保有する"プチ株主"ということになります。
NISAの口座数・買付額倍増?
2014年からスタートした一般NISAの金融商品別の買付額(2014年から2023年6月末まで)をみると、上場株式(38%)、投資信託(58.8%)が大部分を占めています。
資産所得倍増プランでは「5年間で、NISA総口座数(一般・つみたて)の倍増 (1700万から3400万口座)、NISA買付額の倍増(28兆円から56兆円)」という目標が掲げられています。
24年からNISAは恒久化され、非課税投資枠も大幅に拡大されますが、NISA口座で上場株式や投資信託を購入し、長期で保有する、忍耐強い投資家は増えていくのでしょうか。まずは現状から確認してみましょう。
一般NISAがスタートした2014年から2022年12月までの一般NISAの買付額は27兆1640億円(内訳は下の表をご覧ください)。個人投資家によって、上場株式や投資信託が累計で27兆円買われたことになります。ところが、一般NISA口座の2022年末の残高は10.5兆円程度と増えるどころか、減っています。
・一般NISAは非課税で運用できる期間が5年と短く、短期の売りを誘発しやすい
・非課税期間終了時に新たなNISA非課税枠に移す(ロールオーバーする)ことはできるが、手続きを忘れると課税口座に払い出される
・制度導入当初、分配金をたくさん払い出すタイプの投資信託が積極的に販売されていた
などが背景にあるものの、厳しい数値です。
つみたてNISAはどうでしょうか。こちらは主に一定の基準を満たした投資信託を積み立てていく口座で非課税期間は20年。制度が始まった2018年から2022年末までの買付額の累計は2兆8516億円。対して、2022年末の残高は2兆6000億円。こちらも、良好な相場環境にもかかわらず、残高は積み上がっていません。
こうしてみると、口座数や買付額が倍増したとしても、残高が積み上がっていかなくては、個人の長期の資産形成にはつながりにくいのではないか、と少々心配になります。先日、ある投資信託の運用報告会を視聴していたところ、運用担当者が「アクティブ投信でも、インデックス投信でも、長期で持ち切れるかどうか」というお話をされていましたが、その通りでしょう。
お金の行き先を意識できる”手触り感”と対話
では、投資信託を長期で持つにはどうしたらよいのでしょうか。
個人の立場から見たら「持ち続けられる」投資信託を選ぶ。運用会社から見たら「長く保有してもらえる投信」にすることが大事です。そのためには運用会社は投資先との対話だけではなく、受益者との対話も大切にする必要があるのではないでしょうか。
具体的には、適切な情報開示(目論見書、運用報告書、月次レポート)と受益者との継続的な対話です。情報開示がよいから「いい投信」とは限りませんが、個人が長期で保有し続けていいかどうかを判断するには適切な情報開示がされていることが大前提だと思います。
その際、市場に幅広く投資するインデックス投信に比べて、アクティブ投信はより丁寧な情報開示が求められるでしょう。アクティブ投信は5つのP(①Philosophy=投資哲学、②Process=投資プロセス、③Portfolio=①②に沿った中身になっているか、④People=運用体制、⑤Performance=運用実績)を投資家と共有できるような中身、見せ方になっていることがのぞましいと思います。
例えば、受益者との対話の場としては決算時の運用報告会(会社によって呼び方は様々です)などが挙げられます。“直販”を行う鎌倉投信のほか、コモンズ投信、レオス・キャピタルワークスなどは受益者向けに運用報告会を実施しています。
最近は”直販”以外でも、農林中金バリューインベストメンツが販売会社や(iDeCoの)運営管理機関経由で運用報告会を行っていますし、パッシブ運用でも、三菱UFJアセットマネジメントがeMAXISシリーズのファンミーティングを実施しています。
会社によっては月次の運用報告会や投資先企業の訪問ツアー、経営者の講演会、統合報告書を読む会など、様々な試みも行っています。受益者は運用報告会などに参加することで、運用会社の姿勢や、商品の一貫性が損なわれていないかを確認し、そのまま保有し続けてよいかを判断できます。
個人が安心して長期で積み立てを行うためにはこうした取り組みは大切です。必ずしも頻繁である必要はありませんが、投資先企業の選定理由や取り組みが可視化されることは個人が投信を保有し続けるモチベーションになります。不安を感じた時に質問できる場があることも大切です。
ただ、こうした取り組みは手間がかかります。そこはお金を託された運用会社がどこまで対応するか、受益者に「伝えよう」とする意思があるか、に尽きるのではないでしょうか。逆にいえば、他社に倣って形式的に行う必要もないですし、一般生活者に重きを置いていない場合(例えば、富裕層重視など)には他の方法も考えられるでしょう。
投資信託を通じて、いい会社と出会う
ここまで投資信託の情報開示についてお話してきましたが、投資信託を通して、いい会社を知る、出会うきっかけになるという側面もあると思います。
例えば、農林中金バリューインベストメンツが毎月行っている「おおぶねメンバーズカンファレンス」では投資先企業を取りあげ、「その企業がビジネスを通じてどのような付加価値を顧客に対して提供しているか」を解説していますし、コモンズ投信は投資先の会社の統合報告書を読む会などを実施しています。鎌倉投信は年に一度、投資先企業、受益者やその家族、運用会社が一堂に会する場を提供したり、いい会社の訪問ツアーを実施し経営者の話をじっくり聴くといった試みを行ったりしています。
個人が企業について調べ、IR説明会にも参加して、個別の会社の株を買う、というのが理想ではありますが、いきなりそこにたどり着くのは難しい人もいます(時間的な制約や、資金的な制約もある)。投資信託にはもうひとつの選択肢として、いい会社とのご縁を紡ぐ、という側面もあると感じます。
私自身も、投資信託の運用報告会や会社訪問ツアーなどに参加することもありますが、参加者の中には登場した企業に関心を持つと、その企業の商品・サービスを購入する、その会社についてもっと調べて株式を持つ(直接オーナーになる)という行動に出る人もいます。中には、投資先の会社に転職された方もいましたが、これはさすがにレアケースですね(笑)。
ですので、もし投資信託の運用会社から「協力してほしい」という話がきたら、IR担当の方はぜひ検討し、「なぜその事業を行うのか」をじっくり説明してほしいと思います。
長期投資が根づくために
新NISAスタートを前に、市場全体に投資をするインデックス投信の低コスト競争が進み、注目を浴びています。が、パッシブとアクティブは両輪です。
最近はnoteなどを通じて発信を行う運用会社もふえてきましたが、投資情報やNISAの制度解説といった内容が多いように思います。ぜひ運用する投資信託自体の発信、5つのPについての発信をふやしてほしいです。企業のIRと、投資信託のIRがともに魅力的なものになったいけば、個人の長期投資も徐々に根づいていくと思うのです。