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元ラジオ局DJが30年超の投資を続けて得たのは「自由」と「子どもたちの笑顔」だった

コツコツ投資家さんインタビュー、今回は広島県在住で、ブログ「こん吉くんの長期投資ファン倶楽部」を運営するこん吉さんです。

こん吉さんはもともとラジオ局のいわゆる局アナDJとして約20年にわたり音楽番組を担当し、その後独立。会社員時代から投資を始め、30年以上投資を続けているベテラン投資家さんです。

預貯金などを含めた総資産額は5億円を超えるまでになりました。といっても特別なことをしているわけではなく、投資信託の積み立てと個別株を長期保有することで、これだけの資産を築きました。

長期投資に取り組んできた果実で、こども食堂やノンオイル米粉のシフォンケーキ工房をつくったというお話を耳にし、広島まで会いにでかけました。今回は奥様にもお話をうかがうことができました。


住宅ローンを2年で完済

――こん吉さんが投資を考え始めるきっかけは何だったのですか。

こん吉:35歳の時に、新築の一戸建て(建設費用2,700万円)を購入し、1700万円の住宅ローンを組みました。当時のローン金利(固定)は6%台で、返済表をみて(利息の多さに)驚きました。これは6%で運用するのと同じだと気づき、必死で繰り上げ返済しました。その結果、ローンは2年で完済できました。

――2年で完済とはすごいですね!

こん吉:当時は夫婦とも正社員で共働き。今でいうパワーカップルだったからでしょうね。1人の収入で暮らして、もうひとりの収入は繰り上げ返済に充てました。節約もしましたね。ディズーランドに行った気になって、近くの遊園地に行くとか(笑)。半分趣味ですが、古着屋さんで掘り出し物を見つけるのも好きですね。

家計をかなり圧縮して住宅ローンを返済しましたが、返済後も金銭感覚はそのままでした。我が家は借入はしない方針で、車は現金で購入。子どもの学資保険も満期に300万円受け取るタイプのものを一括(160万円)で支払いました。今もそうした生活スタイルは変わっていないですね。

こん吉さんと。
ご自身が運営するこども食堂の開催日には駐車場で無農薬野菜の販売も行われていた

当初は詐欺にあうなど失敗続き

――家計をスリム化したことで、住宅ローン返済後は投資に充てるお金に回せたわけですね。投資を始めてからの現在の投資スタイルにたどり着くまでの歩みを教えてください。

こん吉:投資を始めた頃は、既存証券会社の営業マンが回転売買をしていた時代。当然、長期投資のセミナーなどありません。今はなき三洋証券で高い手数料の投資信託を買って、最後は100万円で買った株式ファンドが80万円台になったところで会社が倒産してしまいました。

投資信託は(他の証券会社に)移管できますが、当時はそうした知識がなく、損した状態で解約してしまいました。それ以外にも、健康に良い水を作るという怪しい新会社に100万円を手渡してしまったこともありました。要は騙されたわけです…。

長期投資との出会い

――それはなかなかのスタートですね…。そこから今のスタイルにシフトできたのはどうしてでしょう。

こん吉:それから5年後(40代前半)くらいに地元放送局主催のセミナーで、さわかみ投信の創業者である澤上篤人さんの話を聴く機会がありました。さわかみ投信の前身、さわかみ投資顧問の時代です。当時は「長期投資」なんていう人はいませんでしたから、大いに共感しました。

そこから、数か月に一度広島市内で行われていたセミナーに参加して、バカな質問を繰り返して、(澤上さんに)叱られながら長期投資の考え方を教わりました。さわかみ投資顧問と契約したのが長期投資のはじまりです。99年からはさわかみファンドを買い始めました。

私は好きなこと、興味のあることはとことん突き詰める性格なので、投資に関する書籍も読み、自分でとことん納得できるまで勉強しましたね。

――なるほど。それで投資信託の積立を始められたんですか。

こん吉:いえ、当時は資金ができるたびに追加でスポット購入するということを繰り返していましたね。それまで住宅ローンを返済していた勢いでお金を投資に回していきましたから、残高は着実に増えていきました。マーケットの環境が良かったこともあって、気づくと2000年には、私と妻が保有する金融資産は7,000万円くらいまで増えていたのです。

暴落時に購入し手が震えた

――そこまでは順調だった、と。

こん吉:はい。ところが、そんな時にやってきたのがITバブルの崩壊です。さすがにこの時は自分の資産が大きく値下がりするのをただじっと見ているだけでした…。記録は残っていませんが、おそらくその時点での評価損の額は2,000万円を超えていたはずです。

今だったら、好機と捉えて大きく買い増しをするところですが、当時はそんな気持ちの余裕は全くありませんでした。ただ、澤上さんから「こういう暴落の時は絶対売ってはいけない! むしろ買うべきだ」と言われていたので、売ることはしませんでした。さすがに買う勇気はなかったですが(苦笑)。

結局、本格的な暴落時に買うことができたのは2008年のリーマンショック直後、2009年あたりから。当時は手数料が安いインデックスファンドや独立直販系のアクティブファンドを毎日10万円ほど買っていました。ただ、暴落時に買うのは初めてだったので、注文を出すときに手が震えていました。ホントにこわかったですね…。あのときに購入した投資信託や個別株はそのまま保有し続けています。

「つみたて投資枠」で投信を積み立て

――現在はどのような投資をしていますか。

こん吉:現在はNISAの「つみたて投資枠」で家族全員毎月10万円ずつ投資信託を積み立てています。「成長投資枠」は暴落したとき利用する予定です(取材後、8月初旬に株価が急落したときに投資信託をスポットで購入したとのこと)。

投資しているのは株式に投資する投資信託で、インデックスファンドがメインです。最初はどのシリーズがよいか、検証しようと考えて、同じ指数に連動するファンドを複数買っていたため、保有するインデックスファンドは50本程度あります(グローバル株、先進国株、アメリカ株、日本株)。

具体的には三菱UFJアセットマネジメントのeMAXISslimシリーズや、ニッセイアセットマネジメントの<購入・換金手数料なし>シリーズ、SBIアセットマネジメントのSBI・Vシリーズ 、アセットマネジメントOneのたわらノーロードシリーズなどです。相続を考えると本数を減らしたいのですが、どれも値上がりして利益がでているので、売らないまま今にいたります(苦笑)。

――アクティブファンドも保有していらっしゃいますね。

こん吉:はい。現在保有しているのはひふみプラス、ひふみワールド、まるごとひふみ(レオス・キャピタルワークス)、コモンズ30ファンド(コモンズ投信)、セゾン資産形成の達人ファンド(セゾン投信)の5本です。このうち、いま積み立てているのはひふみプラスのみです。

投資信託を選ぶ基準

――投信を選ぶときの基準はあるのですか。

こん吉:インデックスファンドは手数料の安いものを。アクティブファンドについては運用責任者と直接会うことができて、この人ならやってくれると信じることができたところだけにしています。

コロナ禍ではセミナーで直接お会いすることができませんでしたが、それまでは必ずリアルセミナーに出向き、手を挙げて質問をしていました。運用担当者に必ずうかがうのは「自己資金の何割を自分のファンドに入れているか」「仕事は楽しいか(楽しい仲間と仕事ができているか)」「健康状態」の3つです。運用チームのメンバーのほか、営業担当や総務担当など同行している場合には、可能なら同じ質問をしています。

――金融機関はどこを利用していますか。

こん吉:メインで取引しているのはSBI証券です。待機資金の保管場所としては、全国の支店網が充実している野村證券にMRF(マネー・リザーブ・ファンド)を保有。預金は新生銀行や住信SBIネット銀行、ソニー銀行などに預けています。緊急時の対応が柔軟なゆうちょ銀行にはそこそこの額をおいていますね。あと、災害時のことも考えて、地元の広島銀行にも少し預金を置いています。

マネーフォワードでどこに、何が、どれくらいあるかを管理しています。複数の銀行に預金を預けていますが、いくつかの銀行の残高を同じにしているのは、(不正引き出しなど)何かあった時に発見しやすいように、です。

投資信託は株式に投資する投信が中心。
内訳はインデックスファンド64%、アクティブファンド36%

――投資にかける時間はどれくらいでしょう。

こん吉:まったくかけてません。24時間、五感で感じる情報を大事にしていて、ダイナミックな景気の流れを体感としてつかむことができるよう努力しています。街中でのデパ地下、スーパー、お菓子の価格動向など、実際に目で見たものを信じるようにしています。

小さい失敗の積み重ね

――値動きに慣れるのにどれくらいかかりましたか。

こん吉:投資を始めて30年以上になりますが、価格変動や値動きを克服できたのは17年目くらい。1,000万円の下げがしんどくなくなりました。もちろん、気分はよくありませんが(苦笑)。

やはり小さい下げを何百回と経験して、少しずつ下落への「耐性」を鍛える、つまり慣れるしか方法はないと思います。最初は数万円の下げ、それが慣れたら数十万円、数百万円、と。「下がった」「また下がった」「しんどい」。こういう心境は経験しないとわからないですからね。

――友人や家族とお金の話はしますか。

こん吉:家族にはいつも一方的にしています。妻には結婚以来ずっと、子どもふたりには幼少期の頃から一方的に話をしていますが、私以外の人間は長期投資にまったく関心がないですね(苦笑)。

ただ、無関心で放置してくれているおかげで、私は好きに投資することができて、成功している側面もあると思います。家族に反対されて投資できないという人もいますからね。理想は親御さんが投資をやっていて、お子さんがその姿をみて学ぶ、というのが一番いいと思います。

――投資を始めたことで、投資のリターン以外に、何かリターンは得られましたか。

こん吉:24時間、365日拘束されることがなくなりました。当日の予定を朝起きてから決めることができる日々は私にとっては最高の贅沢です。

人生、判断の連続ですよね。たまたまそのひとつが投資。今はネット証券で100円から投資信託を買える時代。一歩踏み出してもよいのではないでしょうか。ネット証券って何?という方もいるでしょうし、「銀行の窓口に行っちゃいけない」と言う人もいるけれど、実際に行ってみてどんな対応をされるのかを確かめて、自分で判断すればよいと思いますよ。(調べて判断して、という意味では)洋服や家を買うのと一緒です。受験でも失敗することはありますよね。でも、失敗はすべて身になる。

個人投資家の場合には市場に居続けること。続けている者が勝つ。ただ、運用期間が10年以下だと、マイナスになる時期は当然あります。10年投資をして(一時的に下がっても)耐えられる金額にするか、それも難しいようなら無理に投資しなくていいです。本業を頑張る・極めることで稼ぐという方法もありますからね。

月に1回こども食堂を開催

――お金の使い方にこだわりはありますか。

こん吉:非常時の防災グッズを研究するのが趣味で、国連軍御用達の携帯浄水器やイギリス軍のビビバッグ(完全防水で全天候型の寝袋カバー)、パラシュートコード、ファイアスターター(日本でいう火打石)、イギリス軍のハンカチサイズのタオルなどかなり高価な輸入品を6畳の部屋が埋まるほど収集しています。基本、凝り性ですね。ただ、数年前に大病を患ってからは趣味はブログの更新と、定点観測と称した散歩兼店舗巡りくらいです。

広島市内を網羅している広島電鉄の株主でフリーパス(無料乗車パス)を所持しているのと健康のために今は車は持っていないですね。スマホ代は月額1,320円、腕時計はダイソー、普段着はほぼセカスト(セカンドストリート)などの古着。引き続きコスト圧縮には努めていて、できるだけこども食堂の維持管理に備えたいと思っています。

――お話がでたこども食堂ですが、今日は開催日で、たくさんの方がいらしていますね。

こん吉:こども食堂はもともと妻(自分と同じ元アナウンサー)が8年ほど前から広島市中心部のお寺で開催していたものです。実父の家が空いた時に、「もし使う目的がないのであれば古家を手直しして(子ども食堂を)こちらに移転したい」という話になりました。

同時期に長女(37歳)がノンオイル米粉シフォンケーキの工房を開きたいという意向を示したこともあって、築60年の古家を工房とこども食堂として使えるように改装したのですが、その費用を私が負担したんです。一種の出資ではあるのですが、こども食堂の運営は妻を中心としたスタッフの方々が、ケーキ工房は長女が運営していて、私自身はノータッチ。周辺の掃除をするくらいですね(笑)。

子どもたちと、同伴の大人、そして、
プレママ・パパもやってくる

子どもは可愛いし、みていると好奇心旺盛で面白いですよね。みんな自由に遊んでますし、お手伝いしてくれる子も多いです。

子どもたちは遊んだり、親御さんたちはおしゃべりして交流したり

お金を循環させることが大事


こん吉:みんな超長期投資をして、実際に資産形成ができたら、好きなことにお金を使うといいと思います。タンス預金などに貯めこまないで、お金を循環させていくことが大事なんじゃないかな。

――お金を回していくことは大事ですよね。

こん吉:こども食堂は長期でコツコツやってこなければ実現しなかったことには違いないのですが、個人的には良質な長期投資家の育成に関心があります。普通の人が早い時期から投資を始めて、長く続けていけば資産形成はできる、ということをお伝えしたいです。

また、運用規模をもっと大きくして、社会貢献している団体や個人へ自由意思で出資する私的なファンドを創設したい。5億5000万円を10億円くらいにしたいですね。僕の世代では無理なので、3世代くらいあとに実現できたらよいかな…。夢ですね。

奥さまからもひと言

子ども食堂を始めたのは8年前です。私は田舎育ちで、近所中が家族みたいな環境で育ちました。(広島市でも)子供たちが行く場所がなかったら「ちょっとあそこに行ってみたいな」という場が作れたらいいな、とずっと思っていました。そんな時、TVでこども食堂のことを取りあげていて、これならできるかもしれないと思って始めたのがきっかけです。子どもに限らず、自由にいろんな人が交流できて、気楽に立ち寄れるサードプレイス(third place)になれば、と思っています。

場所を借りると賃料も発生しますし、ローンを組んで物件を購入して行うのは難しかったでしょう。そういう意味では、(夫のこん吉さんが)古家の改修費をすんなり出してくれて、ここで、こども食堂をはじめられたのは資産形成をしてきたお陰でしょうね。

いい洋服や豪華な旅行もいいけれど、そこにお金をかけて得られる喜びと、こども食堂の運営を比較したら、私たちは後者のほうが楽しいな、と思っただけ。それぞれが価値観に合ったお金の使い方ができるとよいですよね。

(2024年6月8日取材+一部追加)

編集後記

「せっかくなら」と毎月第2土曜日に開催している、こども食堂開催日におじゃましました。少しだけ寄付。食事もいただきました。

この日のご飯。和風スープも美味しい

(収入-支出)×運用利回り
これまでのコツコツ投資家さんインタビューに登場していただいた投資家さんの中でも、こん吉さんの金融資産額は一番多いです。ただ、特別なことをしているわけではなく、「共働きで稼ぐ」+「無駄な支出を抑える」+「運用する(投資信託の積み立て+個別株投資。安い時に買い増して長期で保有)」を愚直に実践しているだけです。でも、これが一番難しいことなのかもしれません。

やってみないと始まらない
最低限の勉強は大事ですが、やってみることも大事。今は少額から投資ができる時代。こん吉さんは「無理のない範囲で始めてみること」をすすめています。失敗ものちのちの糧になります。ただ、「夜も眠れない」ほどのストレスを感じるという人はそこまで無理する必要はありません。支出のコントロールと収入アップをまずは考えましょう。

投資の果実を何に振り向けるか
最近、ある程度資産がふえたら「そのお金をどう使うのか」が話題になることがふえてきました。資産形成としての投資以上に、お金をどう使っていくかのほうが実は難しいのかもしれません。お金をどう回していくか、自分や家族にとって気持ちのよい(幸福度が高い)お金の使い方ってどんなことだろう--など、これを機に考えてみてはどうでしょう。

「最高の豊かさとは、毎朝、目を覚ましたときに『今日も思い通りに、好きなように過ごそう』と思えることだ」

『サイコロジー・オブ・マネー』(モーガン・ハウセル)

この言葉を地でいくような、こん吉さんでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました! noteの「スキ」ボタンをクリックしていただけると嬉しいです。今後もコツコツ投資家さんへのインタビューを続けていく予定です。ご意見・感想などがありましたら、お寄せください。取り入れていきたいと思います。

◆過去のコツコツ投資家さんインタビューはこちらから。


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