色彩の温泉街/金沢旅行記③
土地の色ってなんだろうか。
旅先にいるとき、そんなことを考える。
特色、という言葉があるように
色には個性という意味も含まれている。
その土地の個性、それが現れている色
そういうモノを見つけるのも、旅の楽しみの一つだ。
文人たちの温泉郷
少しだけ陽が傾き始めていた。
山代温泉に到着したのは午後2時ごろ。
民家や商店が並ぶ通りを歩く。
裏手に山が迫っていた山中温泉と比べて、平地の温泉という印象。
立派な看板を掲げた店が並ぶ。
かつて山代に滞在した魯山人が彫ったものもあるとか。
1000年以上の歴史がある山代温泉。
与謝野明子や鉄幹など、多くの文人が訪れたという。
電車とバスを乗り継がなければならない場所。
もっと不便な時代に東京から行くほどの魅力があるらしい。
桜舞う温泉寺
境内に入ると桜が舞っていた。
静かに散っていく花
見ているのは僕一人だけだ。
なんだか贅沢をした気分に。
そして少し寂しい。
魯山人寓居跡
北大路魯山人といえば、気難しい人の代表格じゃなかろうか。
そう思ったきっかけは白洲正子氏の本だ。
確か、あまりにも自分勝手な人なので取引を止めた
などと書かれていたと思う。
白洲次郎の妻にそこまで言われるのだから、相当だったのだろう。
そんな魯山人だが、芸術家として名を上げる前
この山代温泉に半年ほど滞在していたらしい。
その後も、山代の人に会うたびに
「山代の別荘は、どんな様子かね」
と尋ねていたのだそうだ。
だいぶ気に入っていたのだろう。
まるで古代遺跡のような
九谷焼の焼窯跡は古代遺跡のような威厳があった。
この工房から、あの色彩豊かな九谷焼が作られていたのか。
色彩が染み込む温泉
北陸の温泉街の特徴として、湯の曲輪、というのがある。
共同浴場を中心に、ロの形で町が形成されている様をそういうらしい。
中心の古総湯は2階建ての古い建物だ。
「こっちは銭湯じゃないけどええか?」
受付のおばあさんにそういわれた。
とりあえず「大丈夫です」という。
脱衣所のすぐ目の前に湯船。
「銭湯じゃない」というのは洗い場が無い、という意味のようだ。
隣にある総湯に入ってから、こちらに来るのが定石らしい。
少し罪悪感を感じながらも湯船につかる。
水面にステンドグラスの光が揺れる。
鮮やかな色が湯の中に浸透していく様だ。
2階の休憩所で寝ながら、熱を覚ます。
赤青のガラスを通った、賑やかな陽気に照らされる。
いつまでもこうしていられそうだ。
隣には欧米系の旅行客が同じように横になっていた。
この温泉のことをどうやって知ったんだろう。
日本人の僕ですら、つい最近まで知らなかったのに。
紅がらの町
古総湯を出て、湯の曲輪を歩き回る。
紅がら格子の建物が夕陽に照らされて美しい。
平日の夕方、温泉街は一層静かだ。
足湯の近くに与謝野鉄幹の歌碑があった。(冒頭の引用)
九谷焼と温泉を見てきた今となっては
「そうだよなぁ…」とうなずける。
この町の色は間違いなく、青だ。
朱に染まる北陸の夕暮れ。
足湯につかりながら、ひとり身震いした。
次回
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