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妄想レビュー返答

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こちらは、企画「妄想レビューから記事」の返答をまとめたマガジンになります。 企画概要はこちら。 https://note.com/mimuco/n/n94c8c354c9c4
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#ショートストーリー

【RPG の世界に迷い込んだけど何をすればいいか分からずとりあえず別れ道にボスっぽく立っているシカ】#妄想レビュー返答

申し訳ない。実に申し訳ない。 思考が追いつかない。 だって僕、こう見えてシカだよ?鹿。 こういうことが日常的に起きている人間じゃないんだよ? え?人間もRPGの世界に迷い込むなんてことはそんなにないの? だって、いつでもピコピコやってるじゃないか? 動物園に来ても、僕らの檻の前で、ベンチに腰掛けてピコピコしてるじゃない? わざわざ獣臭のするところでやらなくてもいいのに、って隣の檻のヘラジカがいつも言うんだ。 いや、ヘラジカの話はいい。 なんで僕はここにいるの? ほんと二本足で

【ソファーの下の浜辺】後編#妄想レビュー返答

■■■ の続き ■■■ 先生は弟が起きたら夕食にしようと言って部屋を出て行った。 僕はもう一度ソファーの下を覗きに行った。 海はさっきと変わらず遠くに見えた。 夕食はいつも僕と弟と先生の三人だった。 お祖父様が家にいるときはお祖父様も一緒だけど、滅多に家にいることはない。 一緒の夕食は楽しいけれど、いないことを寂しいと思うことはなかった。 三人の食事の時は、先生がいろいろ話を教えてくれる。 「星砂は砂じゃないんだよ」 先生が言う。 「あれは生き物。生き物の殻なんだ」

【王来る】#妄想レビュー返答

僕らはカタッポスと呼ばれている存在。カタッポスはもともと「ふたつでひとつ」だったものが、その片割れと逸れてしまったものたちだ。 片割れと逸れ、且つ、持ち主にも忘れられている。それがカタッポスとしてこの世界にやってくる。 もしも相方が持ち主の手元にあって、ある日、部屋の隅--ソファの後ろや、引き出しの奥--にいるのを見つけて貰えると、カタッポスの世界から元いた世界に引き戻される。たまに忘れられたまま、相方が「片っぽだけになっちゃった」といって捨てられる時がある。相方もそれで生涯

【洲淡麗博士の研究記録】#妄想レビュー返答

■■■ はじめまして。我々は洲淡麗貞治研究会。我々の研究、いや我々が現在引き継いでいる研究を多くの皆さんに知ってもらうべく、この配信チャンネルを開設致した。 洲淡麗貞治博士は元はジョージ・スタンリーという日本に帰化したイギリス人生物博士である。 帰化する際スタンリーを「すたんれい」読みにしたのは「りい」という漢字で好みの文字がなかったからと聞く。そしてジョージを貞治にしたのは、偉大なるホームラン王から戴いたとのことだった。 「イギリスは野球が盛んではなかったのでは?」 「

【日野和日之丸最後の作品】#妄想レビュー返答

■■■ 「まぁ、通常はこの立札を見て我々が日野和日之丸の最高傑作を妄想して終わりとなるだろう?でも、相手は日野和日之丸だ。掘り出せない何かを埋めている、と俺は睨んだ」 アート評論家の宿儺彦千幸は言う。 そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。 「あの日野和日之丸だぜ?月の裏側に月読の神殿を誰にも気付かれないうちに作るくらいのこともしていた日野和日之丸だ。とんでもないものを作って埋めている。絶対」 宿儺彦は日野和日之丸の甥だという話だ。 「日野和さんは叔父さんでしたっけ?

いつでも心は晴天で。【#才の祭】

「おひさまの下に出られないの」 夏なのに長袖の服。その手には、しっかりと日傘の柄が握られている。 彼女は、青空の下を歩くことができない。 彼女とは、偶然図書館で出会った。 僕の仕事は司書。予約していた本を取りに、そして読み終わった本を返しにくる彼女は、とても印象深かった。 夏でも、肌の露出が一切ない。 きっちりと肌を覆うかのように、黒色のロングワンピースにカーディガンを羽織り、あまり空調が効いているとは言えない図書館で、静かにハンドタオルで汗を拭っていた。 その