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COVID-19とNPOバックオフィス 〜1 法務〜

なぜ書くか

ぼくはなにぶん、どんなに夢中になっていたことでも簡単に忘れることのできる構造をしているので、COVID-19(ぼくは絶対にこう呼ぶ。コロナ・エキストラがこの件で風評被害を受けるべきではない)のこともそのうち忘れてしまうのだろうという恐怖がある。

で、6月に入ったこのタイミングで、自分の仕事と思いの振り返りのために記してみようと思う。


考えていたこと

COVID-19のうねりの中で。

ぼくが勤めているNPOは、そのビジョンとミッションを旗印に様々なアクションを爆速で進めてきた。

そんな中で、バックオフィスの、それも法務・総務部門にいた自分は、メンバーたちのポテンシャルとエネルギーに圧倒されながら(『いったいそのエネルギーはどこから来るの?』と訝しがるほどに)、こんな事を考えていた。

ー 何の心配もなく、全員のエネルギーが放出できる環境を作ろう ー

正直、決意表明する相手もいなかったが、全然それで良かった。


NPO法務部門のミッション

NPOの法務部門。

今日本のNPOにはこの部門自体があったりなかったりだとは思うが、ぼくなりにNPOの法務部門のミッションを簡単に言うなら、

ー 会社が存続するために、「NPOの制度」と「企業の社会的責任」を守り続けられるように、人知れず足場を固め続けること ー

て感じになる。

ぼくが勤めているNPOは「”認定”特定非営利活動法人」と呼ばれるもので、NPO法人の中でも税法上の優遇が認められる認定を受けている法人で、まあなんていうか、成立の要件が(感覚的に)3倍くらい細かく、堅い。

もちろん、目の前の社会課題を解決するために集まっている仲間たちは、そんなふうに会社が「NPOの制度」から落っこちないように必要な手順を踏んでいることを、日々体感することは、あまりない。

でも、はっきり言える。

お国の優遇を受けるっていうのは、完璧な根拠が必要なぶん、ほんとうにめんどい。

公から利益を享受することほど重たいものはないと、いつも思う。

だから、ここを大切に思う人が、たくさんいたほうがいい。


社会的責任についてもそう。

「社会にとって善をしている」ことを謳う集団が、その善に見合うだけの人格を持ち得ることって、それはもう大変なこと。

従業員700人になろうかというNPOだ。色んな人がいる。みんながみんな、清らかな心で常に生き続けていることなんかありえない。NPOに身を投じる人が、いつ何時も、すべて聖人君子のような尊い心の持ち主かといったら、違う。

人にはコンディションも感情もあるし、心も行動も、かんたんに豹変するものだ。

でも、会社なんて一つの口コミで傾く。

だから、必要なルールは作らなきゃいけないし、そのルールの根拠の説明や伝播にも心を砕かなきゃいけない。


そんな中でいよいよ外出の自粛がさけばれ、働く環境が大きく変化していく中で、実際に進めてきたことを以下にまとめてみる。



電子契約「クラウドサイン」


「契約管理」は、法務部門の業務の一つ。

契約といってテレワーク下で盛り上がっている「印鑑」のことだが、この「クラウドサイン」という電子印鑑のサービスを本格実施することになった。

このことは以前noteにまとめている。


導入した頃には「まあ、スタッフ全員が使うわけでもないし」と思ってIDの管理もそこそこに行っていたが、今や会社でなくてはならないものになった。

今年3月まで通算で15件だった電子契約が、4・5月だけで新たに75件の契約が成立し、ID発行数もこれまでの10倍に。

同時に、ニーズが高まるにつれて、こんな環境の整備を行っていった。


<1>マニュアルを整備して疑問に答える

会社ではこのマニュアル作成サービスを契約しているのだが、そこで細かい作業手順の他に、最も質問の多かった「電子契約が使える場合とは?」について、以下のように定義した。

1 相手方が電子契約OK

~ 法的には確認すら不要な契約もあるが、まだまだ電子契約自体が一般的になったとは言い切れないため、念の為全て先方に確認を推奨した

2 法的に電子契約不可でない

~ 紙の書面で合意することが義務付けられている契約にあたらない(例:定期借地契約(借地借家法22条)定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項) 等

3 双方の合意が必要な書類である

~ 送達のみの文書(領収書等)には意味がないので使わない


<2>社内規程「印章管理規程」を策定

電子契約には「電子印鑑」を押印するわけだが、電子であっても印鑑は無限に作られると制御ができなくなる。

そのため、社内規程で明確に「電子印鑑は会社の印鑑の一種ですよ」と明記し、その効力がリアル印鑑の何に該当するのかを明示することにした。

これで、押印した電子印の定義が明確になる。

こんな感じ(規程から抜粋) ↓

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※ ハンコ文化の変化については、取材もしていただきました。


登記簿


今回のような緊急事態になると、多くの有志の団体から助成金の案内がリリースされ、それを正確に捉えることが会社として必要になる。

そのたびに、登記簿(履歴事項全部証明書)を始めとした登記書類が申請の場面で必要になるので、急に「くださいな」オーダーが集中するということがあった。

会社では、これらの証明書の在庫管理はkintoneで行っている。

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必要になったスタッフがデータベースのレコードを更新し、オーダーが入ったら法務部門が在庫から取り出して渡す、という仕組みだ。

また、原本でなく「写し」で足りる場合は、このアプリから自由に取り出して使用することができる。さらに「3ヶ月以内」等証明書の有効期限を管理する必要があるので、kintoneは使い勝手が良かった。


ちなみに、これらを入手するには、行政区の法務局に取りに行くか、web経由で申請して郵送してもらうのだが、このWEB申請が使い勝手が悪すぎて、使えないでいた。

ぼくはもう読むだけで嫌になり、結局法務局に取りに行ってしまった。興味のある人は上のリンクを掘ってみていただいてもいいと思う。

【使い勝手悪い問題のポイント(一部)】

・そもそも会社の端末は基本的に貸与されているもので、専用ソフトのDLを求めるのが実態にあっていない

・ブラウザ(IEのみ!)/バージョン/設定(信頼済みサイトへの登録、電子証明書の取得先、ID取得)を固定で指定されると、ユーザ全員がその設定を別に行わなければならなくなる

・手数料の納付はネットバンキングor印紙の送付。ネットバンキングには口座情報が必要で経理と連携しなきゃいけないし、印紙の送付だと印紙を買いに行かなきゃいけない。

そんなわけで、このサービスがいいかな?と画策中。

★ちなみに「証明書が必要なのでとってきてもらえますか?」というオーダーもあったが、登記書類は(社名が分かれば)誰でも取れる。そのことを知らない人もいた。



企業法務の役割と法律相談


会社には顧問弁護士がいて、昨年度から法律相談の仕組みを導入している。

スタッフはkintoneに相談内容を記載し、弁護士はそれを確認した後、毎週決まった時間にアポイントを入れて内容の相談をする、その記録をkintoneレコードに残していくという仕組み。

4月以降、この法律相談をオンラインで実施しているが、目立ったハードルはなかったので、今後も基本オンラインでの実施としていくことにした。

弁護士さんも、リラックスしてお仕事頂いているようにも感じるし、会議室の予約を一つリリースできたのも良かった。


理事会の運営


NPOには「理事会」という議決機関があり、法務部門の仕事の大きなウエイトを占めるイベントだ。

このイベントを法定通りに実施し、必要な決議を取ることが、法務チームが最も緊張する時期である。

今月実施予定の理事会の議案を今準備しているところだが、オンラインで開催の予定で、それに関しては特別な問題はないように思う。

(先に、別のNPOでオンラインの総会に出席した際も、事前に議案を送付してもらっていて、全く問題なく参加できた)

ただ、理事会では理事の就任/退任の議案がある場合があり、そのときにはオンラインだと若干ハートフル感が作り出しにくいので、今社内のスキルのあるスタッフに相談しているところ。


ただ、理事会の運営には一つ心残りがある。

参画いただいている理事の方は、どなたもその道のプロフェッショナルで、皆さん大変お忙しい中、その知見を会社に存分に還元してくれていて、大変ありがたく思っている。

そんななかで、会社では2019年度から「理事会分科会」を位置づけ、業務的に関わりの深い部門のマネージャーと理事が定期的に参集し、業務の相談をできる場を設定することにしていた。

これが大変事業運営にとて有益で、今後もこのつながりを大切にしつつ、もっともっとその実を伴わせていこうと思っていたのだが、非常事態になりそれが難しくなってしまったのは、来季に向けて仕切り直しをしたいと強く思う。


議事録の押印の話


理事会は、会社の定款でその議事録の作成を位置づけている。

そんななか、株式会社の取締役会の議事録について、法務省にて会社法上の解釈が明示され、電子証明でも可能となった。(※有料記事)

で、会社の代表から

「NPOはこういうはんこ必須のものってある?」

とカジュアルな調査依頼を頂いたので調べてみたら、以下のことがわかった。

まず、NPO制度は内閣府の事業で、所轄は自治体にある「いろんな部署」。(少し調べたけど、それはもう部署名はいっろいろ)

東京都の場合は「都民生活部 管理法人課NPO法人担当」。

ここに質問してみた。

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質問:NPOの理事会/総会の議事録って、押印が必須ですか?

都:NPOの場合は、定款の記載に基づいて定められます。

質問:定款では「議事録には記名押印または署名しなければならない」と定めています。

都:では、記名押印または署名ですね。

質問:「署名」というのは、電子署名でも良いですか?

都:それは大丈夫です。都に提出するのはどちらにしても「写し」ですし、電子署名をされたものを会社の方で印刷して原本として保存していただければOKです。 ただですね…

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残りの問題は「商業登記の実務」


都民生活部の担当者さんが付け加えた「ただ…」のあとの話で、議事録の押印については、一部別の文脈で必須となる要件があることがわかった。

それは、理事会での決議事項に「登記の変更事項」が含まれている場合に、議事録に「印鑑登録された印鑑の押印」が必要になる、という点。

ここは細かいので、クラウドサイン様のオウンドメディアを引用しようと思う。大変わかりやすいので参考にしてほしい。

https://www.cloudsign.jp/media/20200601-houmusyou-shinkaisyaku/


すなわち、

・NPO理事会の議事録に押印がいる/いらない、は定款に定めてあるとおりでいい。
・ただし、定款に関係なく、その理事会で「登記簿の内容にあたる項目(代表の交代、住所の変更など)の変更があったとき」は、議事録にはんこ突きなさい

ということだ。

ちなみに、この点は所轄の法務省でも課題認識はあるっぽい。

こんな法務省の議論の記録もある。もうちょっとかもしれない。


法務省:「法人設立における印鑑届出の義務の廃止」の実現に向けて



さいごに

改めて振り返って思うのは、

この間に「コンプライアンス違反事件がなくてなにより」だった。

なにか起きてたらもっと大変だった。

ほんとうに、すべてのメンバーへリスペクトをおくりたい。

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