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【短編】もし波打ち際に人魚が打ち上げられていたら4

猫の僕はいつものように一人いっぴきで海岸の見回りに出ていた。
僕は海沿いにある農家に住んでいる。砂地に特化した作物を作る農家のおうちだ。砂地で育てるのに良い作物というのは意外にあるものだ。
僕の家では例えば落花生やラッキョウを作っているのにゃ。
サービスで「にゃ」と言ってみたが普段そんな猫言葉は使わない。
とにかく伸び伸び過ごしている僕は朝は海岸の見回りをする。
岩場の蟹と遊んだり(向こうは遊んでいるつもりはないだろうけど)、波と追いかけっこしたりする。でもそれ以外はちゃんと飼い主さんの作物を守るお手伝いの仕事をしている。畑や倉庫でネズミやモグラを追い払うのだ。

そんな僕が今朝みつけたものは「人魚」だった。
物知り猫の僕は(勉強好きで先生の資格を持っている飼い主さんがいつもいろいろ本を見せながら教えてくれる)人魚というものを知っていた。
が、本当にいるとは知らなかったし、こんな近くの海で見ることがあるなんて思わなかった。
僕はじいっと人魚を見た。
人魚のほうはにっこりとフレンドリーな様子で僕を見ていた。
「猫さん」
人魚は僕に話しかけた。
「にゃ」
僕は礼儀として返事をして話の続きを待った。
「私たち人魚の国には猫という生き物はおりません。
しかし海中農園の作物を荒らす海ネズミという生き物が現れてとても困っています。
陸上では猫がいれば農園のネズミを駆逐できると聞きました。
猫さん、私と一緒に人魚農場に来てくださいませんか?」
僕はふむふむ、というようにヒゲを動かしてみせてから言った。
「にゃにゃにゃにゃにゃ(行っても良いですが僕は海中には住めません。死んでしまいます)」
人魚は、見たことのない虹色の海藻を差し出した。
「これを食べていただければ私たちと同じように海の中で普通に生きられます」
僕は実は冒険好きの勇ましい猫なのだ。
たとえこの海藻が食べるとすぐ死ぬ毒海藻だとしても、このような状況では食べないわけにはいかない。
「にゃ」
僕は一言返事をするとすぐにその海藻を食べた。
人魚はそれを見届けると僕に背を出した。
「乗ってください。行きましょう」
僕は爪を立てないように気を付けて人魚の背に飛びのり、海の中へと冒険(ネズミとり)に旅立った。

(了)


*もはやただの『もし波打ち際に人魚が打ち上げられていたら』というシリーズになりました。たぶんこれで終わります(笑)
1~3はこちらです。なぜ人魚の話を書いているかの説明もついてます。


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