見出し画像

夜中の汽笛

五十代の今でも実家に泊るとそのほうが自分の家みたいな気がする。自分の部屋だった古い部屋に眠る。もう昔の自分のものなんて何もないけれど。窓の外に見える風景も全然違うのだけれど。もう父もいないのだけれど。
眠っていると列車の音が聞こえる。同じ市内でも自分の家より実家のほうが線路に近いのだ。ガタンゴトンガタンゴトン。うるさくなんかない、懐かしくて10代の頃のような気持ちになる。ピーッ。何故真夜中なのに汽笛を鳴らすのだろう。もう12時を回っている。誰に聞かせるのだろう、誰が聞いているのだろう。夜を引き裂くような大きな音なのに眠くなる。ああそうだ、眠りへ連れて行ってくれる夜行列車なのだ。何かを運ぶ貨物列車なのかと思っていた。銀河になんか行かなくて良い。ただ眠れれば良い。母が用意してくれた布団が暖かい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?