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小説【海の都の夢現】#6.8

どこまでも夢を見よう

 おもちゃの兵隊は目を輝かせながら、ルードとセジェルに礼を述べた。

「それは良かった。明日から励みなさい。」

「私も講師として勤務するわ。会った時は宜しく!」

「はい!」

 おもちゃの兵隊が修練校を後にして、セジェルは自ら取ったルードとの距離を縮めて真剣な表情で言う。

「私の霊力属性は元々、水と風と火のみでした。土はまだしも、光属性はイレギュラー過ぎませんか?」

「後天的に習得は不可能な属性だからね。」

「なんで私に光属性が?いい加減教えて!」

「私も見当は付けてるが、確証のない話なんだ。それでも良ければ、教えよう。」

 セジェルは生唾を飲み込みながら二回頷く。

「君が人間の世界に居た時、大地の精霊と太陽の精霊、月の精霊に好かれたのだろう。それぞれの加護を海の世界に持ち帰って来たから、霊力属性にイレギュラーが生じた。ただ、それだけの事だ。」

 ルードは、目が泳ぐ事もなく真っ直ぐにセジェルと捉えて言った。
 その視線を受けてセジェルも嘘では無い事を悟ったが、目をぐるぐるさせながら、言葉を絞り出すように言う。

「何それ…心当たり、何もないんだけど!」

「良かったね。気に入られているんだよ。」

「ちょっと待って、思考が追い付かないの。今日はもう帰る。」

「うん、気を付けて。ご苦労様。」

 セジェルは頭を抱えながら修練校を飛び出すように泳ぎ出て行った。
 ルードはリュヌウに通信回線を使い、今日の報告毎を。

 人間の世界では、一人に一つの属性を持って精霊化する。その為、多岐に渡る。例えば海の世界では水系統に分類される人間の世界の精霊と言ったら、水と海、川、泉、湖、雨、嵐、霧、氷、雪、雹、泡、滝、湯、などである。太陽の精霊と月の精霊は、海の世界では光系統としてまとめられたのだろう。そして人間の世界の精霊達は気に入った相手に、自分の力を使用する許可を出す加護を授ける事ができる。精霊達は珍しい事をしたのう。気難しい気性で神相手にもそっぽ向く事が普通な精霊達が、海の世界の住人に加護を授けるなんて。海神王リュヌウやうたかたの王ルードの存在は知っているはずなのに、怖いもの知らずの大胆不敵な。しかしルードやリュヌウはこの事実に対して露にも問題視しとらん様だし、大方それを見込んだ上でのマーキングか。おや、ルードがしれっと瞬間移動したぞ?もしや、あの場所か?

「〜悲しみを分け合うことは叶わなかったけれど
 慈しみが潤い目が覚めた 泡が踊った
 風の便りで波が揺れ動く
 あの人は今、心配しているだろうか
 慈しみから産まれた泡が あの人の元へ連れて行く
 夢でも感じられる温もり 溢れ言葉にならない
 離れ難い心が 波を感じて笑顔を残す
 傍観するだけだった月が居残り続け
 山が太陽を呼んだ 夢はまた見れる〜

私達は現実に生きている。夢は前に進むための、休息に過ぎないわ。ずっと歌っていて、こんな感覚は初めてね。」

 やはりこの場所だったか。セジェルはまだ歌ってくれるのだね。ルードは進歩なく影に隠れて盗み聞きか。最初の透明になって認識阻害の霊力を使っていた頃よりはマシだが、もっと変化が欲しいのう。

「もう、お父様に駄目って言われてましたよね。いつになったら交代してくれるんですか?約束を破るのなら…」

「レレルよ、落ち着け。わらわが約束を破るわけなかろう?解説が立て込んでてのう。もう任せるには良い頃合いだと思っておたのだよ。」

「では、ようやく私の出番ね!」

「任せたよ。」

 龍神王テスユヌは一命を取り留めた気分だった。神相手にも容赦無い精霊は、風の精霊レレルも例外ではなかった。約束を破ったのなら、レレルが人魚の時に魔女テスユヌから授かった呪いと痛みの再現を本気で実行するだろう。風の精霊として力を向上し続けているレレルにとっては、大気の操作で声を奪い、足にだけ痛風の病を犯し、何かを三日間で成し遂げなければ永遠に味わう羽目になる呪いを施すことは朝飯前だ。いらぬ苦労を手にしたくないテスユヌは、引き際を心得ていた。

 

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