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小説【海の都の夢現】#7

今度は


 少し強い陽射しが和らぐ木の陰。眩しさを避け涼むのに丁度良い場所で、腰を下ろして木に背中を預けて佇んでいた。青臭さのある草の香りが、風に乗ってふんわりと鼻頭をくすぐる。ボーッとしてると、視界の端にオレンジ色の長い前髪が見えて果実を思い出し、口の中にはツンと酸味の効いたジューシーな甘さが広がった感覚に陥る。しかし、肌からある程度の熱が解放されると、急に眠気が来た。ちょっとの休憩だと思っていたのに、体を起こそうとしても、うとうとと瞼が重くなり、耳に木の葉っぱの擦れる音が届いたのを最後に、意識が遠のいた。

 木の陰から、見知ったオレンジ色の長い髪が見える。しかも体が一人でにグラグラしている。まさかと思いそーっと覗き込むと、セジェルが居眠りをしていた。セジェルのいる場所限定で大地震でも起きているかの様な揺れ具合に、勢い余って頭を強打してしまわないかと心配になり、自分も腰を下ろして肩を差し出す。ところが肩ではなく、胸元に頭が置かれたため、中央の装飾にセジェルの髪が引っかかってしまわないかと心配になる。セジェルを起こさない様に力の発動のモーションを最小限に止め、音を立てずに胸元の装飾品を瞬間移動させた。するとセジェルの寄りかかる胸元が、急にずっしりと重みと圧を増した。居眠りどころではなく、お昼寝に入ったのだろう。寝る前に読んだ漫画本を思い出し、自分もそれに習おうと、セジェルの頭を自身の胸元から太ももへスルッと移動させた。セジェルが身じろぎをし手足を動かすと、心地良い体勢を見付けたのだろう、寝息は更に深くゆっくりとなった。本でも読んで時間を潰そうと思い、またそっと、本を手元に呼び出した。

 どのくらいそうしていたのだろう。もう硬く閉じてはいない瞼が、まだ重さを残して睡魔と遊ぶ。ふわふわもせず、ゴツゴツもせず、程良い硬さと温もりのある土に体を預けている様だ。土ってこんなに気持ち良いクッションになるんだあ。土属性の修練度から上げていこう。でもさっきまでは青臭さのある草の香りがしていたのに、今は微かに潮混じりの柔らかい香りがする。これは人間の世界で嗅いだ、石鹸の香りに似ているわね。好きな香りだわ。って鼻がくすぐったい。葉っぱでも落ちて来たのかしら?あ、駄目だわ。寝たフリもこれで終わりね。というか、鼻がくすぐったい!

「なっ…!」

 セジェルは目を開くと、紫かかった黒い髪が自身に向かって垂れ下がっている事がわかった。その艶が無くとも質の良い髪が、セジェルの鼻をくすぐっていたのだ。見覚えのある髪に加え、どんな状況に居るのか確かめるために垂れ下がってる髪を手で避けて、体を捻って空の方に向くと、本を開き浮かせながら色気のある好青年な顔立ちが、無防備にも瞼を閉じて静かな寝息を立てていた。

「なんで貴方も寝てるのよ。」

 セジェルは手を伸ばして、口元のほくろに触れた。しかし直ぐに力を込めて、ほくろごとつねった。

「あれ?眠ってた。口元がじんじんする。なぜ?」

 ルードのお目覚めです。おほん。ストーリーテラーを引き継ぎました、風の精霊のレレルです。本日から宜しくお願いします!さてさて、ルードは朝起きると口元をさすって、不思議そうにしています。リュヌウ様から聞いていた、夢の中でなんちゃらしていたのでしょうか?もしかして早速、私が差し入れをした漫画本が役に立ちましたかね?!『従獣の神』は今のルードとセジェルの距離感にピッタリだと思ったんですよね!にしてもルードはどんな夢を見たのでしょう?口元がじんじんするって摩っていたのに、顔はゆるゆるです。それよりも、夢が現実に影響しているなんて、力の制御が出来ていないじゃないですか。気付いてるんですかね?もう。

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